小説部④
(ぐっ、こ、これは……、食べちゃいけない奴だ! いや、口に入れちゃいけない奴だ!)
青木が作ったクッキーを一度噛んだ時、安木の率直な感想だった。
最近流行の食べられないほどまずくはない食べ物ではない。
一昔前のラノベに出てくるような、戦争兵器級のまずさ。
まず、噛んだ感触は、『がりっ、ガチャ、グググッ』。
『グググッ』の部分は、噛み切れない何かに当たった音になる。
硬いプラスチックを噛んだ時の様な噛みごこち。
クッキーにプラスチックみたいな物体があるなんて、いったいなんなんだ!
十円玉位の大きさのクッキーに噛み切れない物体を仕込むなんて、むしろすごいと感心してしまうくらいだよ。
と、未知の物体について安木が考えていると、『とろり』と溶けたチョコレートの様な妙な液体が舌に流れてくる。
それによって、なぜか舌の感覚を奪い合う様な痺れを感じる。
舌に痺れを感じさせるなんて、絶対にやばい代物だ。
普通、食べ物でそんな感覚を作り出す様なものは入っていないだろう。
するとーー
物凄く不快感な匂いがしてくる。
生ゴミをトイレで一週間腐らせたかの様な匂い。強烈すぎる。
鼻をふさぎたい。
いや、やったって無駄だ。
なぜなら、強烈な匂いを放っている物体は、口の中にあるのだ。
(人を殺せてしまいそうなクッキーを、よくこんなものを人に食べさせようと思ったもんだ)
目の前の椅子に座っている自信満々の青木の笑顔を見て思う安木。
当然ーー
ちゃんと味見したのか?
どうやって作ったのか?
なんの為に作ったのか?
いや、そもそも、青木がクッキーと言って出した物体は、本当にクッキーなのか?
などなどの疑問が浮かんでくる。
聞きたい。青木に色々と質問したいーー
だが、今はそれどころではない。
ーー青木がクッキーと言って渡して来た謎の物体を早く口から出さないと、生命の危機を感じる。
青木が女の子だからといって気を使って、全部食べたりしている場合ではない。
すぐに吐き出してしまおう。
妄想もう子の青木に嫌がらせを受けない様にできれば、別に青木に嫌われたって構わない。