小説部③
「あ、あの……、先輩は?」
疲れた声で言う安木。
妄想もう子ちゃんの青木に散々色々言われながらも、避難する為に小説部の部室へようやくたどり着いたのだった。
だがーー
救いになるはずの小説部の先輩が、部室に居なかったのだ。
体から力が抜けていくのを感じる。
「ん、ん〜ん、ちゃんと先輩はいるって言ってたのですがねぇ〜、」
青木は首を傾げ、腕を組みながら、言った後、
「あっ、先輩はきっと私が二人っきりでいられる様に、席を外してくれたんだと思います」
と、人差し指を上にピンと立てて言う。
(きっと妄想で言っているんだろうな)はぁ〜
嘆息をしながら思った安木。
連れて来いって言ってたはずの部活の先輩がいないなんておかしいのに、青木は何言ってるんだろう。
逆に、本当に二人きりにさせたかったんだったら、小説部の部室に来る必要なんてなく、別の場所でも良かったはずだ。
「そうなの……?」
「そうに決まってます」
「なぜ?」
「気を使ったのだと思います。二人だけの世界にする為に」
「なぜそんなに自信を持って言い切れるの?」
「それ以外考えられません、きっとそうです」
「そ、そう……、携帯番号とか知らないの?」
「知ってますよ」
「じゃ、じゃあ、電話していつ戻ってくるのか確認してくれないか?」
「なぜです?」
「もしかしたら、連絡を待ってるかもしれないじゃないか?」
「ぶー! 違います。
先輩は私と安木君を二人っきりにさせる為に、どっか行っちゃったの。
だから、電話したら失礼よ」
「いや、ここに来たのって、先輩に会いに来たんじゃなかったの?」
「まあ、いいから、いいから、ここに座って」
椅子を『ぽんぽん』と軽く叩きながら、楽しそうに椅子を勧めてくる青木。
(くっ、どっかネジが外れている気がする)
青木に勧められた椅子に座る安木。
仕方がない。ここまで来てしまった以上、先輩が来るまで待とう。また来る事になったとしても面倒だ。
「ね、ねえ、昨日、家で作ったクッキーがあるんだけど、食べてくれる?」
青木は鞄からクッキーの入った袋を取り出して、安木の前に出す。
「あ、ああ、」
クッキーの入った袋を受け取る安木。
(あれ、まっとうな形をしているな、)
青木から渡されたクッキーを見て、安木はそう思った。
十円玉位の大きさで、丸い形をした物や、星の形をした物などがある。
「えへへ、食べてみて」
自信ありそうに笑顔で言う青木。
青木は狐川の様に華やかな容姿ではなく、いたって普通。クラスでも、五、六番目位の人気に落ち着く位の可愛さ。庶民的で落ち着くといった印象を受ける。
学校の授業でノートとかはしっかりととっていていそうだ。今日初めて話をしたから、実際にはどうだかわからないが……。
「あ、ああ、」
安木はクッキーの見た目から問題ないと判断し、口の中に入れ、噛みしめたのだった。