小説部②
「ま、待て、」
教室であり得ない疑いかけられ、騒ぎになってしまったので逃げて来て、部室棟の入り口の前。
安木が、青木に呼びかけたのだった。
「ん? 何?」
「どこまで逃げる気なんだ?」
「どこまでって……、」
青木はちょっと考えた後、
「二人の世界まで、」
と、嬉しそうに笑顔で言う。
「なるほど、二人の世界までだな……、って、そんな所には行かない」
安木は、ノリ突っ込みをする。
「ーーえっ⁉︎」
わざとらしく、衝撃的な事実を知ったかの様な仕草をする青木。
まるで被害者の様に、
「誰もいない世界へ駆け落ちをしてるのもだと思ってたのに……、私は、ひょっとしてもてあそばれていた……」ぐすん
と、青木は言う。
「何言ってんだ?」
冷めた声で言う安木。
青木が言っている事についていけない。いったいどこからそんな設定が出てきたんだろう。
「だから、私と安木君は相思相愛で、愛を育む為に二人の世界へ」さあ、
目をランランと輝かせながら言う青木。
完全に自分の世界に入ってしまっているらしい。
想像では二人なのに、現実は一人だ。
「じゃ、じゃあ、俺は帰るから」
安木は振り向きながら言う。
「ーーえっ、何で?」
「俺は、二人だけの世界になんか行かない」
「そうは言うけど、もう着いちゃってるわ」
「はい?」
「だから、ここはもう二人だけの世界」
学ランの第二ボタンを掴みながら言う青木。
川上も狐川も第二ボタンあたりを掴んでいたが、流行っているのだろうか。
「いや、あの、色んな人が周りを歩いてるんだけど……」
そう、さっきから色んな人から興味の視線を集めてしまっていて恥ずかしいのだ。
それもそのはず、入学して早々、一年生が部室棟の近くで逢引してたら、誰だって興味を持つだろう。
「二人だけの世界には出口はないのか?」
妄想もう子ちゃんの青木に話を合わせる必要はないが、無言で立ち去ると後々面倒くさそうだから安木は言う。
こんなに変な人だと、明日の教室で何を言い出すかわかったもんじゃない。
「出口はありません。このまま、二人が一人に、」
青木は、何言っちゃてるんだろう。
本当にヤバイ人かもしれない。
「いや、一人にはならない。
小説部に行くんじゃなかったのか?」
二人っきりでいるよりも、誰かいるところに行った方がまだましだと思って、安木は言ったのだった。