小説部①
「ね、ねえ、」
高校に入学して2日目。
授業が終わり、安木が自分の机の椅子に座り帰る準備をしている時に、同じクラスの女子から声をかけられたのだった。
その女の子は、同じクラスということ以外接点は特になく、名前をまだ覚えていない。
「え、えーと、何?」
安木は話しかけられた事に疑問を持ちながら、返答する。
「ちょっと一緒に来て欲しいところがあって……、ダメ……かな……?」
同じクラスの女の子は、艶やかな長い髪を耳にかけながら言う。
「いや、ダメかなって言われたって、どこに連れてこうとしてるの?」
「え……、えーとね。部活の教室かな。
私、小説部に入っていて、もし良かったら、安木君も一緒にどうかなって思って……」
「『思って』って……、」
「もう、どこか部活は決めちゃってるの?」
「決めてないけど、」
「じゃあ、一緒に行こうよ!
先輩に連れて行くって言っちゃってるし、」
「急な話だな……」
安木は困った声で言う。
同じクラスの女の子は、セーラー服の赤いスカーフの前で安木を拝む様に手を合わせ、
「お願い。
先輩に話しちゃってるのに、連れて行けなかったら、私、物凄くからかわれて、恥ずかしい思いをすると思うの。
私を助けると思って、一緒に来てくれないかな?」
「助けるって……、そんな勝手に先輩と約束しちゃった事に対して、言いだされても……」
「別の奴じゃ、ダメなのか?」
「ダメ! 絶対に!」
同じクラスの女の子は、両手の人差し指を交差させ、バツの形を作って言う。
「なぜ?」
「先輩に安木君を連れて行くって言っちゃってるから」
「じゃあ、何で俺に了解を取らずに、連れて行くって言ったんだ?」
「そ、それはねぇ……、そんな事をここで訊く?」
「ーーん?」
「知りたい?」
同じクラスの女の子は、しゃがみこんで、小声で言う。
「……ん? んんっ?」
安木は同じクラスの女の子の声が聞き取れず、聞き返してしまう。
「知りたいんだね?」
「ん? ん? ん?」
同じクラスの女の子の声が聞き取れず、耳を近づける安木。
わざと安木に聞こえない位に小さい声で言ってるんやないかって思ってしまう。
同じクラスの女の子は、内緒話をするかの様に安木の耳に手を当て、口を近づける。
安木の耳に同じクラスの女の子の息が当たる。一回、わざとやってるんじゃないかって、思う様な強い風もなぜかあった。
(何を考えてるんだ? この子は? そもそも、こうやって話さなきゃいけない事なのか?)
安木は、疑問に思う。
その時ーー
「きゃっ」
クラスから、別の女の子の声が聞こえてくる。
(何だ?)
別の女の子の声がした方を見る安木。
すると、目が合う。まだ、話した事もない女の子だ。
(俺に対しての悲鳴だったのか? けど、なぜ?)
安木が疑問に思っているとーー
「ねえ、青木さんが安木君に耳に甘噛みしてるわ」、「あっ、私も見てた。大胆だよね」、「明日、私はもっとすごい事やっちゃおうかなぁー」、「むむ、じゃあ、私はもっとすごい事をやっちゃうんだから」、「私、安木君の事を狙ってたのに……」、「私もよ、」
と、いった声が聞こえてくる。
どうやら、安木に話しかけて女の子は、青木というらしい。
(いったい何が起こってるんだ?)
安木は、呆然としているとーー
ーー川上を生き返らせた副作用で、安木がもてやすくなってしまってる。
と、愛の女神である狐川が言っていた言葉を思い出す。
まさか、こんな状況になってしまうとは……。
「いけない、大混乱になってしまってるわ。
安木君、この教室から早く逃げよ!」
青木は、安木の手を取り、引っ張りクラスの外に連れ出したのだった。