女神との出会い
安木には隣に住んでいて、良く一緒にいる幼なじみがいる。
性格は肝心な所がぬけていている。中学の時、いつも体操着を忘れるから貸してやったりした。
その反面、意地っ張りな面もある。安木が色々と面倒を見てやってるにもかかわらず、遊びに行く場所や飲食店を決めたりする時は絶対に意見を曲げなかった。意見が割れた時は、しょちゅう喧嘩したのを覚えている。
幼なじみの他の特徴といえば、良く頭をポンポンと軽く叩くように求めてくる。叩かないと怒ってくる。安木はその表情が可愛いと思って良くからかったりもした。
(今思うと……、本当に好きだったんだな)
安木の幼なじみへの想いを過去形で表現する。
なぜならばーー
ーーたった今、幼なじみが亡くなってしまったからだ。
入学式の帰り道。安木と一緒に帰っていた幼なじみは突然車に轢かれる。瞬く間に血の海が出来上がった。
安木は息と脈を確認しようと、すぐに近寄り抱きかかえる。
(ーーーーっ……、)
息も無く、脈も無くなっている。
さっきまで楽しく話をしていた幼なじみが一瞬で亡くなってしまった。
(こんな事って……、)
安木は目の前で起こっている状況を飲み込めない。
すでに幼なじみが亡くなっている事を理解しようとするが、心が拒絶する。
(助けたい!)
安木は幼なじみが助かる方法を模索する。
だがーー
ーー無理だ、という結論に行き着く。
死者を生き返らせる事なんてできないし、聞いたこともない。手段はないのだ。
(こんなはずでは……、)
安木には後悔しかない。
小さい時からの一緒にいるのが当たり前の幼なじみが、急に亡くなってしまった。
(また、話をしたい)
だからーー
ーー幼なじみである川上 永遠を、生き返らせたい。
と、安木は一度無理と結論付けた願いを口にするーー
その時、永遠の体に一枚の白い羽が落ちてくる。
(……鳥か?)
安木はふと空を見上げる。
すると、淡い青を基調としたドレスを着ている少女がいたのだった。
少女は羽根をふわりと羽ばたかせ地面に着地し、金色の長い髪をなびかせ安木の方に近づいて来る。
「想い人が死ぬ事によって高まる愛があるとはのぉー、皮肉なものじゃ」
少女は永遠を見ながら呟く。
無表情。悲しんでいるわけでもなく、慌てるわけでもない。ましてや、治療をしに来たわけではない。永遠を見ているが、興味がなさそうであった。
「どっか行け!」
安木は自分の幼なじみがたった今亡くなったばかりなのに、どうでもいい事を呟いた少女を許せなかった。本当なら力づくでもどっかに追いやりたい。
だが、そんな事はしない。時間が惜しい。今は永遠を抱きしめていたい。
少女が空から降りて来た様に見えたが、そんな事はどうでもいい。
(ただ、永遠が生き返って欲しい)
今の安木の望みはそれだけだ。
「ふーん、娘を生き返らせたいというその望み、叶えてやってもよいぞ」
少女は安木に向かって言う。
冷淡な声。安木を値踏みをする様な目。嫌な印象を受ける。
だが、少女が言っている内容は安木にとって興味を引くのに十分。例え、永遠を生き返らせる事が可能なら、悪魔にだって耳をかすだろう。
「生き返らせてくれるのか?」
「生き返らせれるが、代償を求める」
「代償?」
「代償は、わらわの下僕になる事と、異性を愛するという感情を失う事」
「そ、それだけでいいのか?」
少女が安木に求める条件で、人一人が生き返らせるなら永遠を生き返らせて欲しい。
「もちろんそれだけなのじゃがーー」
少女は一呼吸置き……、
「お主は死んだと変わらない地獄を味わうかもしれない。それでもいいなら、すぐにでも娘を生き返らせてやろう」
現実は甘くない。
死んだと変わらない地獄。つまりは、一つの命を助けるのに、一つの命が必要。等価交換だ。
誰かの為に、自分の命を差し出す。重い代償。普通ならできない。
だがーー
ーー永遠の命が助かるのであれば、自分の命を差し出したっていい。
「どうやら、結論が出たようじゃな」
少女は安木の肩に手を置き、小さく呟いたのだった。