妹⑩
「では、話そう。わらわの名前は、狐川 弓じゃ。愛の女神になる。
お主はちゃんと下僕として働かないと、あの娘が大変な事になるかもしれないぞ」
少女がちゃんと話すと言ったので、もう一度ソファーに座りゆっくりと話をする事にしたのだった。
少女は狐川弓と名乗り、安木にとってとても気になる事を言った。
ーーあの娘が大変な事になるかもしれないぞ。
と。
「あの娘って、川上の事だよな⁉︎」
「そうじゃ、」
「何言ってんだ?」
「順を追って説明するからよく聞いてくれ」
狐川は助ける事になった経緯から話し出したのだった。
狐川は安木が住んでいる地域の安定を保つ為に、最近赴任した神になる。
人間界で活動して行く上で、手伝いをしてくれる者を探している時に、物凄い愛の力を感じた為、現場に向かったら、川上の亡骸を抱えた安木がいたのだった。
そこで、狐川は、安木の気持ちを感じ取った。
川上への愛情。川上が亡くなった事により膨大に膨らんでいく。
痛い位に伝わって来た。
愛の女神である狐川は、気持ちが揺れ助けたいと思い、安木に話しかけたのだった。
ーー代償と引き換えに、川上を生き返らせよう。
ただ、死んだ者を生き返らせるという奇跡。何も代償無くしてできない。
だから、代償を求めた。
代償ーー①愛の女神の下僕になる事、②異性を愛するという感情を失う事。
その代償となった理由はーー
①:川上を生き返らせるという運命を変える様な願いを叶えるのに、女神の下僕になる前払い報酬という形でなければ叶える事ができなかった。
②:川上を生き返らせるには膨大なエネルギーを使う必要となる。その為には、安木の愛の力を根こそぎ使う必要があった。
と、言う事だった。
代償の想定は二つだけで、それ以上はないと想定していた。
だが、終わった後、神である狐川にも予想外の事が起きる。
安木の愛の力が強すぎて、余ったエネルギーが安木をモテやすくなってしまったのだった。
安木がモテやすくなった力は、神である狐川に対しても例外ではない。
狐川にジュースを持って来てくれたのを優しくしてくれて嬉しい、と思い、狐川は安木に惚れてしまったのだった。
「だから、わらわはお主を世界で一番愛している、のじゃ」
と、締めくくった。
狐川は言い終わってとっても満足そうな顔をしている。
「ま、待て。川上が大変な事になるって話をするんだったはずなのに、肝心な部分が抜けているぞ」
狐川の愛の告白を言うだけで終わってしまっている。
正直、そんなのはどうでもいい。
せっかく生き返らせた川上の話を聞きたい。
安木の言葉を聞いた狐川は、腕を組み、
「う〜ん、なんだかのぉ〜。あの娘はわらわの恋敵というか、なんというかぁ〜」
「話さんと、何もやらんぞ」
「ひっ、ひどい」ぐすん
「じゃあ、ちゃんと話せ、」
「あうっ」めそっ
「ちゃんと話さないと、もう話しかけないぞ」
「ーーうっ! わかった……。そう怒らんでくれっ」
狐川は一旦言葉を切り、ごほん、と咳払いをした後、
「あの娘、良からぬ者に狙われているぞ」
「良からぬ者?」
「ああ、この世界で言う悪魔じゃな。
今の所、わらわの部下に監視させておるから大丈夫だと思うが、また狙われるかもしれん」
「悪魔って……、そういった者から守るのが神の仕事じゃないのかよ?」
「全部の悪魔が取り締まり対象というわけではない。
指名手配されている悪魔なら取り締まり対象だが、されてなければ管轄外じゃ」
「今後、川上が悪魔から狙われたらどうする気なんだよ?」
「できる限り守ってやる。
だから、わらわの下僕としてしっかりと働け。
お主がわらわの下僕としてしっかりと働くなら、あの娘をわらわの持ち物として天界に登録しておいてやる」
半ば脅しとも取れる内容。狐川が言っている事を確認しようがないが、本当なら是非お願いしたい。
そもそも、川上を生き返らせてもらった時点で、安木は代償としてちゃんと狐川の下僕になると決めていた。
「わかった」
「よろしい」
「それで、さっそく仕事はあるのか?」
「ない」
「はあ?」
「ない、と言うておる。
神が介入しなきゃいけない仕事がそうそうあっては困るでな」
そう言った後、狐川が、あっ、と閃いたと言う声を出し、顔が発情したメス猫の様に熱気を帯びて言う。
「さ、さっそくの仕事じゃ。
お主の膝の上で、『ゴロにゃん』させろ!』