妹⑨
「異性を愛する感情が……、感情が……」
少女は突如怖い化け物見たかの様に驚く。
『ぶるぶる』と震えている。
「感情がどうした?」
「ーーない」
「なくて当然だろ、お前がなくしたんだから」
今更何言ってんだ、この少女は。一生忘れられない事実なのに。
「はっ、そうじゃった」
「何でお前が忘れてんだよ!」
「そ、そりゃー、わらわだって忘れる事もあるわい」
「ここで自信満々に言うなよ。
で、俺にわかるようにちゃんと話せ!」
「話せとは?」
「お前がいったい何者で、代償についてとかそろそろ話してくれませんかね」
こめかみに青筋をピクピクと立て、少女に向かって言う安木。
この質問をしたのはいったい何度目になるのだろう。結構何回も言った気がする。
少女は、安木の雰囲気に、身を縮め、一瞬怯んだ。
が、ニヤリと笑みを作り、安木に流し目を送り、
「え〜、どぉ〜しよっかなぁ」
と、もったいぶる。
(こいつは、どこまでふざけてんだ!)
イラつく安木。
急に猫の様な行動をとってみたりしてもう訳がわからん。
川上を助けてもらった恩を感じ、少女に事情を訊こうと思って、頑張ってきた。
本当に頑張って来たが、もういいだろう。
代償をしっかりと履行しようと色々頑張って訊いてきたのに、少女はどうやら積極的に話す気は無いらしい。拒否されたと言っても過言ではないだろう。
代償を求めてくるはずの少女が拒否してきたんだ。
それじゃあ、仕方がない。
代償を支払いたくても、支払えない。少女が悪い。
異性を愛する感情なんて無くなったって、なんとかやってけるだろう。
ホモになろうって言うわけではない。
別に異性を好きなならなければ生きていけない世の中ではないのだから。
「じゃあ、これでおしまいだ。
俺はもうお前に関わらない。
もう、帰ってくれ」
立ち上がりながら言う安木。
そして、少女にお帰りいただくよう、リビングのドアを開ける。
「……えっ⁉︎」
少女はそう言うと共に、安木に近寄り、
「わらわが悪かった。
子猫としてでも可愛がってくれるのであれば、十分嬉しいから、見捨てんでくれぇ〜。
お主の可愛い子猫としてちゃんと話そうと思う」
と、言ったのだった。