妹⑦
(悪いのは俺なのか? いや、そんな事はない)
悪い事をしている気分になり、心の中で否定した安木。
今、安木が置かれている状況になれば誰だって悪い事をしている気分になるだろう。
雪の精霊の様に美しい少女が、一粒の涙を流し、『お主はわらわが嫌いか?』という質問を投げかけてきている。
(そもそも、俺は悪い事を何もしてないよな)
今日、少女に出会ってからの事を思い出す。
少女にいきなり後ろから引っ張られるーー
少女に強引に自分ちに連れ込まれるーー
少女に何を質問しても、全然答えてくれないーー
少女の要望通りジュースを持ってくるーー
少女に引っ張られ、隣に座らされ、蛇の様に巻き付かれるーー
ちょっと思い出しただけでも、少女から散々酷い事をされて来た。
むしろ被害者だ。
ふと、少女の視線が気になり、少女を見る。
(ーーくっ……)
負けた。
今にも溢れそうなほど涙が、少女の目に溜まっている。
まるで捨てられた子猫が、拾ってと訴えて来ている様に見える。
性別に関係なく拾いたくなってしまう。
いや、拾わざるおえない気分にさせられてしまった。
「ーー嫌いじゃない」
少女の『お主はわらわが嫌いか?』という質問に対して言う安木。
そう言わざるおえない雰囲気。すぐに後悔するだろうと思いながら言ってしまった。
安木の言葉を聞いた少女の顔は、桜の花が咲くかの様に、ぱあっと笑顔になり、
「って、ことはお主はわらわらの事を大好きって事なんじゃな?」
と、学ランの第二ボタン辺りを必死に掴みながら言う。
奇しくも、川上が安木に頭をポポンポンと叩く様に催促して来た時と同じ場所を掴んでいる。
安木の少女に対する回答は、もちろん『大好きじゃない』だ。
そもそも、『嫌じゃないと言う事は大好きか?』と言う少女の質問自体おかしい。
『大好きじゃない』って言ってしまっていいのだろうか。
と、回答を探し、再度、少女を見るとーー
(ーーくっ……)
負けた。
安木の回答を心配してか、また、捨てられた子猫の様な顔になっている。
ただ、『大好き』と言うと不幸になる予感がある。絶対になる自信がある。
かと言って、『嫌いだ』と言っても不幸になる予感がある。いや、絶対になる。不幸になった上で、『大好き』と言うまで何か嫌がらせをされそうな気がする。
結局、どっちにしたって不幸になるのだ。
不幸になるなら、被害が最小限になりそうな方がいい。