妹⑥
「お願いだから、離れてくれ!」
「嫌じゃ、嫌じゃ、嫌じゃ」
駄々をこねる様に言う少女。
足を軽くバタバタさせている。スカイブルーのドレスの裾がヒラヒラと舞う。
正体不明の少女からやられて、うざい。
「『嫌じゃ』じゃなくて離れろ!」
空から大きな岩が落ちて来て、驚くかの様に、びくん、と体をさせる少女。
これで三度目だ。
一度目は、体を震わせるだけ。
二度目は、体を震わせた後、少し離れた。
徐々に体から離れて行く傾向にある。
ということは、だ。
(今回の三度目は、完全に離れるはず)
安木が期待して少女の動向を見守っているとーー
『がばっ!』
と、少女が安木に必死に抱きついてきたのだった。
「ーーえっ……」
驚きの声を上げる安木。
安木の首に巻きついている少女の腕の力が少し強くなり、
「いー、やー、じゃぁー」
と、耳元で甘えた声で囁く少女。
耳に当たる甘い香りの吐息。冷んやりとしている腕。膨らみかけた柔らかい胸。
どれか一つだけでも、普通の男なら全身の力が抜け、骨抜きにされてしまうだろう。
安木と少女の状況を誰かが見たら、恋人同士でいちゃいちゃしている様に見られてしまうかもしれない。
ーーいや、違う。
別れ話を切り出した男に、必死に少女が抱きついている様に見えるだろう。少女からはめちゃくちゃラブオーラを出しているが、安木からは北極並みに冷たいオーラを出している。
初めて経験するシーン。
どうしたらいいか戸惑うが、優しくするとつけあがるだろう。
(このまま冷たく接すべきだ)
安木はそう思い、
「俺から離れろ」
と、心のこもっていない声で言う。
「ーーえっ……」
悲痛に歪んだ少女の声。
(どうした?)
予想外の声音に疑問に安木が思っていると、少女の顔がすぅーと、目の前に来るーー
(ーーえっ……)
雪の精霊の様に美しい少女から一粒の涙が落ち、思わず心の中で驚きの声を上げてしまう安木。
異性を愛するという感情を持たない安木ですら、流石に心が揺れて訊く。
「ど、どうしたんだ?」
少女は涙を右手でそっと拭い、言う。
ーーお主はわらわが嫌いか?