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生徒会書記坂部燐の家にて

 その後、もうひと仕事し、午後7:00をまわった頃に、解散になった。

 皆、仕事が早いので(関道含め)置いて行かれることがないか心配だったが、どうやらその様子はないので、取り敢えず一安心だ。

 他の役員は迎えの車が来るが、庶民の私は、当然徒歩下校だ。

 皆に挨拶して1人、家路につこうとしたのだけど…………。


「本当に大丈夫なんですか?会長」

「大丈夫だとさっきから言っているだろう」


 私の隣を歩くのは、白崎財閥子息の会長。

 一応、あの学校の生徒が送り迎えをされるのは、その身分故から誘拐を警戒しての防犯の為でもある。あの学校でもトップクラスのお金持ちのご子息である会長にこそそれが必要だというのに、こんなに無防備でいいのだろうか。いいわけがない。

 『もう暗いから、送る』と言われて、断る暇もなく連れてかれて、現在に至るが、余程危険なのは庶民の私ではなく彼の方ではないかと思う。


「そもそも後藤さんは許してくれたんですか?」


 会長の専属執事の後藤さんは、今日も無事に会長が帰ってくることを家で待っている筈だ。


「反対するどころか、送るよう言ってきたのは、後藤だ」


 ごとぉぉぉぉぉさぁぁぁぁぁぁん!

 何、自分のご主人様(坊っちゃん)に使いっぱしりみたいなことさせてんですかー!


「そうなんですか………。なら、いいですけど。万が一、会長が襲われたとしても、責任持てませんよ?」

「俺よりもお前のほうが危ないだろう」

「一般庶民の私を襲うメリットないですよ」

「そう言う意味じゃない」

「どう言う意味ですか?」

「お前は、女だろう?」

「そうですけど」


 それが何か?と聞き返したが、呆れた顔をされて何でもないと言われてしまった。


「それと坂部」

「何ですか?」

「会長はやめろと言っただろう」

「…………………………………………あ」

「…………忘れてたな」


 すみませんすっかり忘れてました。ヘラっと誤魔化し笑いをすると、仕方なさそうに溜め息を吐かれた。


「坂部、」

「すみませんでした申し訳ありませんでした、かい、恭さん」


 あっぶなー。言われた瞬間に言い間違えるとか。

 今だけ自分はアホだと思う。


「………まあ、いい」


 どうやらそこまで機嫌を損ねた訳ではないようで、すぐに眉間のしわを消してくれた。

 そういえば、と、あの日のことを思い出したついでに、改めてお礼を言うことにした。


「この間は、メロンパン、ありがとうございました」

「……ああ、満足してもらえたようだと、後藤も喜んでいた」

「そう言ってもらえたなら、私も嬉しいです。突然行ったんで迷惑だったかなぁ、って思ってたんですけど」


 あの時はメロンパンにつられ、その場の勢いでねだってしまったが、後から考えればいきなり家まで押しかけるのはどうかと思ったのである。


「俺の方から誘ったんだ。そんなこと気にするな。そんなに堅苦しい家でもないしな。メロンパンでも何でも食べたくなったらいつでもくればいい」

「そんなこと言っていいんですか?私、社交辞令とか理解できない人ですよ?本気で押しかけちゃいますよ?」


 ちょっとおどけた風にそう言うと、会長は得意げにニヤッと笑って見せた。


「望むところだ」


 ………………一瞬、一瞬だけ、見惚れてしまった。

 いやだって、どこぞのモデルかと思うくらいのイケメンだよ?元乙女ゲーム攻略対象キャラと同じ顔が笑うんだよ?これがゲームなら、レアスチルだよ?てか、実際レアスチルだったよ?画面越しだったものが生になった時の破壊力とかすごいよ?

 どうにかそうですか、と相槌を打った。

 そうこうしているうちに、いつの間にか我が家に着いていた。

 4階建てのアパートの305号室が我が家だ。よくあるボロアパートなどではなく、極一般的な2DK風呂・トイレ付きの部屋だ。広い訳ではないが、人数の少ない家族が住むには十分である。


「送ってくださって、ありがとうございました」

「大したことじゃない。だが、あまり夜道を1人で歩くようなことやめろ」

「……………それ、そっくりそのまま恭さんに返すんですけど」


 むしろ、あなたの方が避けるべきでしょうに。というかこの後1人で帰ることになると思うけど、いいのだろうか。後藤さんでも呼ぶのか?


「俺は合気道と柔道の黒帯持ってるから」


 相変わらずハイスペックな会長さんである。

 勉強できて武道も隙無しって、どういうことよ。


「なら、まだ安心ですけど。何にしても、気をつけて帰ってください」


 間違っても、誘拐されたりしないでくださいよー、こっちの罪悪感が半端じゃないからー、と内心付け足して、会長を見送った。



**********



 会長の姿が見えなったので、私も建物の中に入った。

 階数の少ないアパートなので、エレベーターなんてものはなく、階段で部屋のある階まで上がる。

 部屋のドアに手をかけると開いていた。そのままドアを開くと思ってたとおり、電気がついて明るい。


「ただいまー」


 奥から聞こえる音に向かって声をかけると、音が止まって廊下の突き当りのドアが開かれた。


「おかえりー。遅かったね。生徒会?」


 そこから顔を覗かせたのは、私の姉、坂部 (まい)。私より10歳年上のお姉ちゃんは、立派な社会人で、会社の秘書をやっている。水沢学園のではないが、奨学金をもらって大学に通い、秘書資格をとってしまった、エリートだ。

 忙しい彼女は、普段は私よりも遅く帰ってくるが、さすがに今日は私の方が後だった。


「そー。生徒総会の準備」

「大変だねー。手、洗って着替えておいで」

「はーい」


 言われたとおり、手洗いと着替えをすませて、夕飯の準備をしているお姉ちゃんの元へ手伝いに行く。

 お姉ちゃんの帰りが遅いのもあり、私も1人で食べるのが嫌だというのもあり、普段から夕食は遅くなりがちなのだ。


「何すればいい?」

「そこのキャベツ千切りして」


 フライパンから目を離さないお姉ちゃんが指さすそのキャベツは、スーパーのセールで安くなっていたのを大量に購入したものの1つだ。

 華麗にフライパン捌きをするお姉ちゃんの隣でキャベツを切る。……………うん、なんか、幅広いけど、許容範囲だ。

 一方のお姉ちゃんは、美味しそうなゴーヤチャンプルを作っている。元々私よりお姉ちゃんの方が料理上手だ。いつもは先に帰っている私が作っているから、たまにしか食べれない。

 2人で作ったものをテーブルに並べる。

 椅子の数は、2つ。私のと、お姉ちゃんの。

 両親は、いない。父親は14年前、母親は4年前に死んでしまった。今は、お姉ちゃんだけが唯一の家族だ。

 悲しいが、寂しくはない。


「いただきます」

「いただきます」


 目の前のお姉ちゃんが笑って、一緒にご飯を食べている。それだけで、私は、幸せだから。



**********



「帰り道、暗くなかった?連絡くれたら、迎えに行ったのに」


 うちにはお姉ちゃんがボーナスを貯めて買った中古の軽自動車がある。それでも、ローンを組まないと駄目だったけれど。


「疲れている人にそんなこと頼めないよ。それに、会長が送ってくれたし」


 幅の広いキャベツにドレッシングをかけながら答える。まぁ、少し食べづらいけれど、美味しい。


「あー、白崎社長のとこのー………」

「そうそう」


 何の因果か、運命か、お姉ちゃんが勤める会社は白崎財閥系列のところだった。おまけに、会長のお兄さんが役員をやっているらしく、その人の秘書だったりする。まったく世間は狭い。


「ふ〜〜〜〜ん?」

「な、なに?」


 と、突然、意味ありげな顔でニヤニヤしだしたお姉ちゃん。嫌な予感がする。


「仲いいんだぁー、白崎のご子息と」

「仲いいっていうか、まあ、同じ生徒会役員だし?」

「ふ〜〜~~ん」

「だから、何?」


 ニヤニヤニヤニヤされる意味がわからないでいると、お姉ちゃん口から爆弾が飛び出した。


「いーんじゃない?玉の輿」

「な!!!!!!」


 口をパクパクさせることしかできないでいると、それを肯定と受けとったらしいお姉ちゃんがさらにニヤニヤを深くする。


「だ、れも、そんなの狙ってないわ!!」

「まったまた〜」

「ほんとだってば!」

「大声ださない。近所迷惑でしょ」


 そう言われ反射的に口を噤んだが、理不尽だと睨みつけると悪いと思ったのか、お姉ちゃんは笑みを引っ込めた。


「まぁ、それはそれとしてー」

「それはそれじゃな、「あんたも彼氏の1人や2人や3人や4人、いないの?」

「………………お姉ちゃんじゃないんだから、3股をかける気はないし」

「あら、私は、股はかけてないよ?5人くらい貢いでくる人がいただけ」

「………………」


 把握していない人物が2人いた。

 お姉ちゃんは美人だ。だからといって、私と似ていない訳ではなく、私の平凡顔を綺麗という方向にベクトルを大きく振った顔をしている。一応、前世での坂部燐は乙女ゲームの主人公なはずなのに、この顔の平凡は何故だと1回は思ったが、そういえばあれは主人公の顔はてでこないタイプのだということを思い出し、逆にキッラキラの乙女顔にされるよりはいいかと開き直った。

 ともあれ、自分的に愛着のある平凡顔の私とは比べものにならないほど、こっちが乙女ゲームの主人公なんじゃね?とも思わせるお姉ちゃんは、そりゃもうモテモテな、失敬、男子(・・)にモテモテな高校、大学生活を送った。その為、ほぼ毎日のように周りから貢がれ貢がれ。大学に入れば貢物のレベルはさらに上がり、それはもう我が家の良い資金元になったものだ。


「お姉ちゃんだって、今は1人のくせに…………」

「私は学生時代に楽しんだからいーの。あんたは真っ盛りでしょ?高校生のうちに恋愛を体験しとかないと、大人になって出遅れるよ?」

「えー……………」


 その後、尚も言い募ろうとするお姉ちゃんをなんとか黙らせ、夕食を終えた私は勉強をするために自室にこもった。


「ーーーーーー彼氏、ねぇ……………」


 恋愛というものが、正直、自分の中でそんなに重要なことでもないと想う。

 お姉ちゃんもああは言うが、本人だって学生なんだから恋愛すべきだと思ってるわけでもないだろう。

 それでも、言い募ってくるのは………。


「やっぱ、心配してるんだろうなぁー………」


 もうこんなに経っているというのに変われない私が、きっかけを逃さないか。


……………ほんと、

お姉ちゃんには、迷惑かけっぱなしだ。


**********




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