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伸ばす手②-②

「……っや」

 誰しもが喝采を叫ぼうとした、その瞬間だ。ガイキルスの隻眼が見開かれ、口から閃光が放たれた。閃光は空中を走り、ヴェネンニアの腰の副翼を貫く。ゼヒナスは素早く副翼を切り離し、副翼と片方の主砲が爆発。主推進機となる副翼が破壊されたことで、ヴェネンニアは飛行能力を失ってしまった。

「なんだ? 今までこんな攻撃は……っ!」

 四体の巨体が緊張する中で、ガイキルスがゆっくりと立ち上がっていく。

 起き上がったガイキルスはピグキャリバー戦車を踏み潰し、持ち上げたメーザー戦車を投げつけて、推進弾頭積載車を尻尾で薙ぎ払い、周囲を手当たり次第に破壊していく。搭乗員たちは恐慌に陥りながらも迅速に脱出し、しかし脱出できずに戦車と運命をともにする者や、落下してきた戦車の下敷きになる者、戦車の爆発に巻きこまれる者など、その場は悲鳴と怒号の飛び交う地獄絵図となっていた。

 ガイキルスを止めるべく四体は臨戦の構えを取って、その足元を振動が襲った。揺れは瞬時に大きくなり、レグキャリバーや再生怪獣ですら立っていられずに膝を折る。

「地震か? こんなときに……っ!」

「違うわ!」

 オービットの悪態をミザリィの否定が掻き消した。

 誰も彼もが立っていられない揺れの中で、唯一ガイキルスだけが不動を維持していた。地面に亀裂が走り、地割れが起きて、暗闇の底から緋色の流れが駆け上がってくる。

「少しだけどあいつと精神同調している私には分かるの。この地割れと溶岩は、あいつが呼び寄せたのよ!」

 ガイキルスは灼熱の溶岩に顔を浸した。喉が鳴って、口に溶岩を流しこんでいく。

「こいつ…………まさか溶岩を食っているのか?」

 ゼヒナスは愕然として呟いた。

「そうだ! 確かこいつはヘルヴィム山からヘルヴィムに下っていった。ヘルヴィムで休眠する前に、火山であるヘルヴィム山で食事をしていたのだ」

 ゼヒナスの推測にオービットが補足を加える。するとガイキルスの生態が見えてきた。

「おそらく、こいつは熱エネルギー自体を活動源にしているんだ。そして熱を吸収し終えた溶岩を火成岩の塊として、肛門と一体化した口から吐き戻している。溶岩から硫黄や燐などの化合物を体内に取りこんでいるとすれば、生体火薬の生成にも説明がつく」

 オールト計測器を確認するゼヒナスの表情が引きつった。ガイキルスのオールト値は計測器の限界値を突破していた。

 焦燥に駆られたゼヒナスはヴェネンニアを走らせた。ヴェネンニアが剣の引き金を引き、オールト・カートリッジを排出。剣身からさらにオールトの刃が噴き出して切断力と攻撃範囲を倍増させる。

 オールトの剣がガイキルスの胸部に突き刺さり、貫通。しかし出血はない。それもそのはず、剣はガイキルスの表皮を貫いただけで、本体には逃げられていたのだ。そして剣に付着した残骸は、肉片ですらなかった。

「これは皮膚じゃない。これは……ガイキルスを封じていた岩石の残りかすだ」

 ガイキルスの外皮が剥げて、内側から真なる表皮が露出していた。黄燐、結晶化した硫黄にも似た、鮮やかな黄色の鱗が露となる。

 腹部を貫いて新たに二本の脚が出現し、ガイキルスの体積が爆発的に膨張。

「こいつは、こいつは怪獣じゃない…………」

 ゼヒナスは今ようやく気付いたという風に、戦慄をまとって口を開いた。

 ガイキルスの体がL字に折れ曲がり、巨木をねじり合わせたような四本の脚で大地に立つ。小振りだった両腕も巨大化し、獣の胴体に人間の上半身をつなげた輪郭となる。背鰭は肥大化して、肋骨の間に膜を張ったような形状の翼を形成する。

 その時点で体格は一回りも二回りも大きくなり、同程度の高さだったヴェネンニアが胸元までしか届かなくなっていた。

 顔の中央には一つだけの巨大な眼球がはまり、眼窩が三分割され、瞳が左右上と三つの眼孔を移動する。

「こいつは彗星因子の覚醒者、怪獣王だっ!」

 ガイキルスが真の姿たる〔熔岩災厄怪獣王(ようがんさいやくかいじゅうおう)ガイキルス・ブレイズ〕となって降臨した。

 ガイキルスBの胸郭が膨張、喉の奥に凄まじい熱量が集束していく。放熱器官を兼ねた翼が強烈に輝き、鱗の色と合わせて黄色の閃光色を放つ。ガイキルスBの口が開かれ、迸った白く輝く灼熱の濁流が大地を一直線に駆け抜けた。

 溶岩の息吹〔インフェルノ・クライシス〕が進路上の全ての障害物を破砕しながら直進し、一拍遅れて火の手が上がる。溶岩の抱擁は一瞬では終わらず、断続的な超高熱によって周辺から炎を発し、連鎖的に水蒸気爆発を起こし続ける。

 それは火炎放射などという生やさしいものではなく、触れるもの全てを焼きつくす炎の大河だ。先ほどまではオールトが足りずに不完全な岩石となっていたが、これこそがガイキルス本来の息吹なのだ。

 ガイキルスBの口から再び溶岩流が放たれ、ヴェネンニアは横移動で回避。その直後に衝撃に襲われる。ガイキルスBが回転し、鞭のような尻尾が翻って、ヴェネンニアの胴体を強打した。ヴェネンニアから装甲が剥がれ落ち、怪獣骨格と臓器のような内部構造が露出して、鮮血のように火花を散らす。

 三度の溶岩流を放つべく胸郭を膨張させるガイキルス。その全身にレザーベインの鉄網がかぶせられ、鉄鎖が何重にも巻きついて拘束する。

 一瞬の硬直が訪れ、ヴェネンニアとスティルメンとアイラザインが同時突進。ヴェネンニアは全火器から一斉砲撃しつつ前方から直進し、スティルメンとアイラザインが剣と棘鉄球を振り上げて左右から接近する。

 しかしガイキルスを縛る拘束は瞬時に熔け崩れた。見ればガイキルスBの足元では草木が燃え続け、土から黒煙が上がっている。ガイキルスBの体が絶えず超高熱の体温である〔メルト・サンダー〕を発し続け、近付くもの全てを焼き払い、熔かしているのだ。

 ガイキルスBは両腕を左右に伸ばしてスティルメンとアイラザインを迎撃。顔面を殴打されたアイラザインが踏鞴を踏み、スティルメンの肩が砕ける。

 ガイキルスBの真正面に迫ったヴェネンニアが両剣とエネルギーネイルを伸ばした副腕の手刀を振り上げ、四条の剣閃として振り下ろす。両手の剣がガイキルスBの両肩口に食いこみ、副腕の手刀はガイキルスBの両腕に止められた。

 続けてヴェネンニアの両膝が跳ね上がり、膝と爪先からのエネルギークロー〈プレテレス〉が膝蹴りからの爪先蹴りという絶対の布陣で強襲する。

 ガイキルスBの両前脚が持ち上がり、膝蹴りを受け止めて防御。エネルギークローが足の甲を貫通するが、構わずに力ずくで押さえこむ。

 その硬直に突っこんでくるスティルメン。ガイキルスBの眼球がぎょろりと動く。

 ガイキルスBが背を丸め、背中の突起が一斉に射出された。突起は一旦天空まで上昇し、弾けて、十倍にも二十倍にも分裂した無限爆撃〔ボルカノン・シャワー〕となって周囲に降り注いでくる。

 ガイキルスBと取っ組み合うヴェネンニアは勿論、ガイキルスBに接近していたスティルメンまでも巻きこまれた。ヴェネンニアは剣を取り落とし、全身から装甲片を撒き散らして、大地に仰向けとなって倒れる。スティルメンも全身から火花を上げ、轟音を立てて地面に倒れた。唯一の武装である長剣が粉々に砕けて落ちる。

 ガイキルスBの口から三度目の溶岩流が放たれ、レザーベインは横移動で回避。しかしレザーベインを追ってガイキルスBが首を回し、溶岩流がバックパックを掠める。

 本来ならば破損部分を切り離すだけでよかった。しかし機体に慣れていないアディシアは手間取り、誘爆が広がって、結果バックパックの半分程度を切り離す羽目となる。

 バックパックの推進装置を失い、機動力の低下したそこへ、ガイキルスBの尻尾の一撃が叩きこまれた。レザーベインは機体を回転させながらふっ飛び、地面に墜落する。

 オービットは胸元を血に染め、アディシアは頭から血を流し、それぞれに沈黙する。

「こんな、こんな動く災害を、人間が倒せるものなのか……」

 溶岩の熱波に当てられながら、ザンダは弱気を口にした。

 その弱気を察知したか、ガイキルスBの眼球がアイラザインを睨みつけた。翼がはためいて揚力を得、低空を滑空。巨体に似合わぬ高速でアイラザインへと飛翔し、右の前後脚による蹴りと尻尾の一撃がアイラザインの顔、胸、腹の三か所に叩きこまれる。

 アイラザインは顔のバイザーを割り砕き、肋骨を折り、生体維持液の血反吐を吐いて大地に倒れた。

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