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四千年めの再会③-①

 最終防衛線である再生怪獣の格納庫には暗い空気が沈殿していた。

 格納庫のあちらこちらでは《ザンダ一味》の生き残りが身を寄せ合っている。彼ら彼女らの表情は揃って曇り、まるで土砂降りの中にいるようだった。

 それだけ今回の一件が暗い影を落としていた。時間にすれば数時間も経っていないが、日常から非日常へと突き落とされて、誰もが強い不安と緊張を強いられているのだ。日々を安寧に暮らしていた人々にしてみれば、心身ともに削り取られるような激動の一日だったことだろう。

「ああ、ザンダさん、ザンダさん」

 それら人々の中から抜き出てくるように、老婆がザンダに近付いてきた。

「息子を知りませんか? さっきから姿が見えないんです」

 その言葉が出た瞬間、場の空気が一瞬で固まった。

「息子を知りませんか? 息子を知りませんか?」

 縋るように、懇願するように、そう連呼する。

 ザンダは黙って老婆の言葉を一身に浴び続けていた。老婆が孫に手を引かれて離れていっても動けない。

 ザンダは周囲を見回した。防衛に出た若者や中年層を中心に、見て分かるほど人数が激減している。

「これまでの犠牲者は何人だ?」

「……二十名ほどです」

 尋ねたザンダも、答えたシルヴィナの声も暗かった。「そうか……」と呟いたザンダの顔には、苦い覚悟と固い決意があった。

「アイラザインを出せ」

 ザンダの指示を耳にして、その場に驚愕と動揺が広がる。

「《財団》に立ち向かうつもりですか?」

「そうだ。俺が時間を稼ぐ。その隙にお前たちは逃げろ」

「首領、死ぬつもりだな?」

 バッハイグは淡々と無感情に言った。ザンダは無言の肯定を返す。

「この人数を逃がすには、派手な陽動と足止めが必要だ。それに全員が無事に逃げおおせれば、《財団》の連中は地の果てまでも追ってくる。だから《ザンダ一味》は壊滅したという確固とした証が、首領である俺の首が必要なんだ」

「そんな! 俺たちはそんなことのためにザンダさんを長にしたわけじゃない」

「その責任まで背負って長だ」

 吼える男の肩に、ザンダはそっと手を置いた。

「お前らを見かねた俺が、お節介を始めたのがこの《ザンダ一味》だった」

 ザンダの視線ははるか遠方、真昼の太陽のように眩く輝いていた時代を見つめていた。

「実際、あの頃のお前たちは酷いものだった。学校にいかせてもらえずに教養がなく、経験も技能も持っていなかった。なによりも職に就けず、生きるために野草を食い、魚や小鳥を捕まえて飢えを凌ぐ日々だった。

 俺が生き方を教えていく中で、同じような連中が集まって大所帯となり、いつしか一個の集団になった。孤独だった俺たちは家族や友人、恋人になり、貧しいながらも安らぎを手に入れた」

「そうだ! この《ザンダ一味》は俺たちの家だ! 皆で俺たちの家を守るんだ!」

「だからこそ、ここで《ザンダ一味》を終わらせよう」

 自分たちの居場所を守らんと躍起になる若者に、ザンダの非情な一声が浴びせられた。

「俺がお前たちに教えたのは、人を傷つけて生きていく方法ではない。誰かを助けて生きていくための方法だ」

 ザンダの言葉を耳にして、一味は途端に肩を落とした。嗚咽する者もいた。床に拳を振り下ろす者もいた。頭を抱えて塞ぎこんでしまう者もいた。

 ザンダは一味の長である以前に、教師であり友であり父であった。彼らはそのザンダを、ザンダを大黒柱とした我が家を、これから失わなければならないのだ。

 死地に向かおうとするザンダの背中には、命を燃やすような決意があった。

「皆に選ばれて長になったのなら、皆の命を預かる義務がある。俺一人の命で皆が助かるのなら、それは安い犠牲だ」

 誰も、なにも反論できなかった。水を打ったように周囲が静まり返る。

 誰もが分かっているのだ。ザンダの決意を覆すことができない以上に、ザンダの主張の正しさが。絶対的にザンダを犠牲にしなければ、自分たちが生き残れない現実を。

「……いこう」

 悲嘆の中から立ち上がる若者がいた。伏せられていた人々の視線が若者に集中する。

「ザンダさんは俺たちが泣く時間を稼ぎにいくんじゃねえ。俺たちを逃がすために戦うんだ。俺たちが泣いてて逃げそびれちまったら、ザンダさんは無駄死にじゃないか!」

 若者はたった一人で緊急脱出路へと歩いていく。しばらくの間、若者を見送っていた人々だったが、一人、また一人と、若者のあとに続いていく。体力のある者は負傷者に肩を貸し、大人が子供や老人の手を引いて、次々とその場から去っていく。

 ザンダはいつまでもその光景を満足げに、そして寂しげに眺めていた。

 その中から一人、別方向に向かう人影があった。下着眼帯の暗黒変態卿だ。

「どこへいく?」

「ふっ。その心意気、我が魂を震わせるには充分」

 暗黒変態卿は助走をつけて跳躍。背中に黒い翼が生え、蝙蝠となって飛翔。蝙蝠は空中で巨大化し、大鷲となって上昇。格納庫の天井付近で宙返りし、ムササビに変化して勢いを減らし、山猫となって姿勢を整え、猿となって着地。最後に人間となって立ち上がり、格納庫の出口に腕をかける。

「遺跡の内部を進んでくる部隊は任せてもらおうか。微力ながら我が百獣化のオールト、貴様の剣として役立てよう」

 暗黒変態卿は足音も強く、遺跡の闇へと突き進んでいった。

「あいつだけじゃ心もとない。俺も加わろう」と、バッハイグが暗黒変態卿に続く。

「首領、せめて私が最後を看取ります」

 そして最後に、シルヴィナがザンダに声をかけた。

「そうか……辛い役割を背負わせてしまうな」

 シルヴィナに礼と詫びの言葉を述べてから、ザンダはアイラザインに乗りこんだ。

 再生怪獣の操縦室には基本的になにもない。便所の個室ほどの広さの部屋に、椅子が一つ設置されているだけだ。

 ザンダは椅子に深く腰を沈め、目を閉じて集中を始める。ザンダとアイラザインの精神が同調。アイラザインの両目から光が放たれ、ザンダの脳内にアイラザインから見た視界が映し出される。同様に聴覚も、嗅覚も、味覚も、触覚も、アイラザインのそれがザンダへと反映される。ザンダが右手の五指を握るように念じると、アイラザインの五指が握られる。

「アイラザインとの完全同調を確認。ハッチ開口、リフトオフ」

 シルヴィナの操作に従って、格納庫に太陽の光が射しこんだ。

「ぬ、ぬわあっ! なんだあれはっ!」

 隠れ里で待機していた《財団》の予備部隊は、目の前で起こった驚愕の光景に揃って目を奪われた。

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