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四千年めの再会①-②

「それにしても、つくづく不思議な造りの遺跡よね」と、シルヴィナは口にした。

 このユーリテスという遺跡は、日の光も届かぬ地下にあるというのに、構造は地上に建てられている他の遺跡となんら変わらないのだ。周囲の壁も耐雨性や耐久性を考慮した外壁だし、枯れた街路樹や鉢植えも地上から持ちこんできたのだろうか?

 なにより不思議なのが、この天井だ。岩肌が剥き出しになった天井部分は、体育館のそれに匹敵する高さから、小柄なシルヴィナが屈まなければ通れない高さまで様々。しかも建物の内部は岩肌を利用せずに、わざわざ天井を作っている。岩自体も削ってくり抜いたという感じではなく、なんというか……

(まるで、地上にあった町にあとから岩山をかぶせて、地下にさせてしまったみたい)

 そこまで考えて、シルヴィナは思考を入れ替えるために首を振った。どんな方法を使えば、こんなに強固な岩山が作れるというのだろうか? 自分の考えは荒唐無稽だ。

 それに今は歴史の謎に思いを馳せている場合ではない。シルヴィナの目に、目的地である教会が入ってきた。

 教会の扉を数回叩くと、内部からも数回の音が聞こえ、さらに返すと扉が開かれる。

「シルヴィナさん、よくぞご無事で」

 シルヴィナは出迎えてくれた青年に軽く会釈。それから教会の内部に視線を向ける。

 教会の聖堂にはザンダとバッハイグの姿があった。二人の無事を確認して、シルヴィナは胸を撫で下ろす。

「ほらミザリィ、着いたわ……よ?」

 振り返ったシルヴィナの目にミザリィの姿は映らなかった。おそらく今頃はこの暗闇の中で途方に暮れているのだろう。

「……えー…………」

 シルヴィナはしょうもなさげな声を出した。

「どうした?」

「いいえ、こちらのことです」

 怪訝な顔で訊いてくるザンダ。シルヴィナは頭を抱えたい衝動を抑えながら、辛うじて声を絞り出す。

 シルヴィナは教会の中を進み、二人の傍らに移動する。聖堂の中央に設えられた大机の上には汚らしい象形画、このユーリテス都市遺跡の手書きの地図が広げられていた。

「現在の状況は?」

「暫時避難中、と言ったところだ。我々に一日の分があるが、それでも予断を許さない状況に違いない」

「被害は?」

「遺跡外での交戦による負傷者が多数。すでに撤退と収容は完了している」

「となると想定どおりに、遺跡に侵入されてからの防衛戦が主になりますね」

 シルヴィナの臍の奥が冷たくなる。恐怖と不安が氷の刃となって心臓を貫いた。

 今更ながら、自分たちは圧倒的不利にいるのだと実感する。

 戦闘を専門にする《財団》の部隊と、怪獣人を擁しているとはいえ所詮は素人の集まりにしかすぎない《ザンダ一味》。どちらに分があるかは火を見るより明らかだ。

 果たして自分たちはどれだけ抗えるのだろうか? 不安はつきない。

 なにより相手は怪獣人を激烈に敵視する《財団》の狂信者どもだ。よしんば一度めの攻撃を撃退できたとしても、第二、第三の攻撃がこないはずがない。この地で暮らし続けることは、もう不可能なのだ。

「大変です! 《財団》が遺跡に侵入してきました!」

 シルヴィナの不安を煽るように、緊急を告げる一報が飛びこんできたのはそのときだ。

「俺がいこう」

 すかさずバッハイグが立ち上がった。歩き出し、背中ごしに言葉を投げてくる。

「俺のオールトなら足止めに問題はない」

「待って。せめて一緒にロガードかキロペッコルを」

「いらん。怪獣人は全員護衛に回せ」

 バッハイグは硬質の声でシルヴィナの提案を遮った。そのまま教会をあとにする。

「口は悪いが、あいつは自分がなにをするべきか分かっている人間だ」

「ええ。人格は好きになれませんが、信頼して背中を預けられます」

 シルヴィナは地図に向き直った。瞳には強い決意と意思が宿っている。

 彼に笑われないよう、自分も自分にできること、やるべきことをやらねばならない。

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