猫柳の花言葉は……7
「あっ!くーちゃん!」
「おぉ~っ、お空!やっと目が覚めたか。ほれ、こっちに来るがよい!」
手招きされたくーちゃんは「うーん。」と寝ぼけつつ、アマテラス様の膝の上にちょこんと座り込んだ。
「それじゃあ、ちょうどお空も起きた事だし、本題に入ろうかの……。」
くーちゃんの頭を撫でながら意を決して、話し始めようとしたその時だった。
「あっ!」
膝の上で、ぼけーっと放心状態だったくーちゃんが何か閃いたように目を大きく開き、大きな声を上げた。
「そうだっ!そうだった!くーちゃん、あーちゃんにお願い事があるんだった!」
「お願い事、とな?」
話の腰を折られたにも関わらず、嫌な顔一つせずくーちゃんの言葉に耳を傾けるアマテラス様。
そして、何の話か分からず首を傾げるアマテラス様を他所に、くーちゃんはアマテラス様の膝から下りて私の横に座り、アマテラス様と対峙するように正面に座りなおした。
「えっとね……、うーんっとね……。」
歯切れが悪そうに言葉をつまらせながら、アマテラス様の方をチラチラと見ながら様子を伺っている。
無理もないよね。くーちゃんは優しいから、アマテラス様を前にして本当の気持ちが言い出しにくいんだろう。
「ゆ、ゆーか……。」
困り果てて、私の袖を掴み助けを求めて来た。
困った表情も可愛いな~……っと、こんな事考えている場合じゃない。くーちゃんとの約束を果たさないと!アマテラス様に外の世界に行きたいって一緒にお願いしないと。
「大丈夫、私がついてるから。」
「う、うん……。」
そう言ってくーちゃんの背中を優しく叩いてやると、少し安心したようで、ゆっくりと深呼吸をしてから再びアマテラス様の方を向き、今度はしっかりした眼差しで目と目を合わせた。
「あーちゃん……。」
「ん?どうしたのじゃ?」
「くーちゃんね……お外の世界に行きたいの!いろんな事知りたいの!海とか、空飛ぶ乗り物とか珍しい食べ物とか、くーちゃんの知らないこともっとしりたいの!だから……おねがい!」
勢いよく手のひらを合わせて拝むようにして頭を下げた。
「私からもお願いします!昨日の夜くーちゃんに外の世界のこと色々聞かれたんですけど、その時のキラキラした目は本物です!どんな事情があるかは分かんないんですけど、くーちゃんの目を曇らせたくは無いんです!お願いしますっ!」
くーちゃんに続くように私も同じポーズを取る。
「…………。」
それからアマテラス様の沈黙。時間にして1~2秒といった所だろうか、ただ返答を待つだけの僅かな時間が、今の私達にとっては30秒くらいの長さに感じる。
「…………よいぞ。」
くっ!やっぱりダメか!でも、長期戦なのは覚悟の上、断られる前提でのお願いなのは重々承知だ!ここまできたら一歩も引くわけにはいかない!
「はい!無茶を言ってるのは分かってます!でもくーちゃんは本気なんです!お願いします!」
「あーちゃん!お願いっ!」
私達二人揃って、もう一度頭を下げてお願いした。
よーっし!こうなったら、了解を貰うまで帰らないよ!徹底抗戦の構えだよ!
「いやいや、じゃから『よいぞ』と言うておるではないか。」
「で、ですが、くーちゃんはアマテラス様に認めてもらう為に現神化までして、本気だという事を証明したんです!だから、お願いします!」
「あーちゃん!お願いっ!」
さらにもう一度頭を下げる。
これで3回目の礼だ!現世の偉人、諸葛亮孔明だって3回目の礼の時に仲間になってくれたっていうし、これで駄目ならもう後がないよ!
「…………お主ら……っ!」
一瞬だけ場の空気が静かになり、アマテラス様に何か変化があったのかと思い下げていた頭を少し上げると、アマテラス様が身体をプルプルと小刻みに振動していた。
あ、あれ?もしかして……怒ってる?何か変な事でもした?……あっ、あれか!頼み方が悪かったのかな?もっと土下座するくらいの方が良かったのかな?
などと、手を顎に当てて考え込んでいると、バイブレーション並みに震えていたアマテラス様の動きがピタリと止まる。
「あ……アマテラス……様……?」
「……らっ!……お主ら……っ!」
小声で何か言っているみたいだったが、まったく良く聞き取れず、アマテラス様との距離を縮めて何て言っているか確かめようと近づいた、次の瞬間!
「お主らっ!人の話を聞けーーーーーーっ!」
バンッッッ!と大きく自分の膝を叩き、勢いよく立ち上がると、その小さな両腕を精一杯振り上げ交互に上下させながらガニ股で地団駄を踏み、見た目相応な駄々っ子の動きで私達に講義してきた。
「えぇーーーいっ!さっきから、『よいぞ』と言うておるだろうに!わらわの話しを無視するでない!それとも何か?わらわが、小っちゃいから無視をしておるのか?うがぁーーーーーーっ!」
マシンガントークで言いたい事を全て言い終わると、ドンッ!とあぐらを掻くように座り込み、
「……まったく、良いと言うておるのに、何だか相手されておらんみたいで……寂しくなるではないか。」
と小さく呟き、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
ん?最後の方が聞こえなかったけど、今の会話からして、くーちゃんのお願いはOKが出たってことでいいのかな?
「えっと、つまり~、外出OKって事で?」
「うむ。さっきからそう言うておるじゃろ。」
「ホントに?」
「本当じゃ。」
「…………。」
今度は私達が沈黙した。約5秒くらいだっただろうか、その間に私とくーちゃんは目を合わせ、お互いに今の状況を阿吽の呼吸で整理した。
そして、短いサイレントタイムの後、遅れてやって来たアマテラス様の言葉を脳内で処理し終わると、ようやくくーちゃんの願いが聞き入れられた事を理解した。
「……や、や、や…………やっっったぁぁぁぁーーーーー!やったよ!くーちゃん!OKが出たよ!これで外の世界にいけるよーーーっ!」
嬉しさのあまり思わずくーちゃんに抱きついてしまう。
「うんっ!うんっ!ゆーかっ、ありがとっ!」
そしてくーちゃんも同様に抱きついて来ると、とても嬉しそうな表情でにっこりと笑い、目元にうっすらとした涙が見えた。
「おー、何か分かんないけどオメデトー。」
私達のなりゆきを後ろで見守っていた紅ちゃんもキョトンとした顔をしながらも、訳が分からないままパチパチと無機質な拍手を淡々と叩いていた。
「くーちゃん!これでいろんな物がいっぱい見られるよ!海も、沢山の人も、空飛ぶ乗り物だって!」
興奮気味に話しかけると、「うわー!」と嬉しそうに囲炉裏の周りをトタトタと走るくーちゃんの姿があった。
そんな様子のくーちゃんを微笑ましく見ていると、ある一つの疑問が脳裏に浮かんだ。




