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日暮夕華VS天照大神4

過去・カグラ士育成アカデミー 小等部・放課後


「や~い、や~い!能無しゆうか!お前まだ、火のカグラしか使えないのかよ~、どんくさい奴だな~。そんなどんくさい奴には、はい、これ。」

授業終了のチャイムと同時に、数人の男子に取り囲まれて手渡された物は、箒と塵取りだった。

男子達が私に掃除当番を押し付けようとしているのは一目瞭然だった。


「そ、そんな事ないもん!他のカグラだって、練習すれば出来るようになるもん!」

「無理無理!だってお前この間、水のカグラを形成する授業で一人だけ形成できなくてずっと泣いてただろ、鼻水は作れても、水のカグラは作れないお前には、掃除当番ぐらいしか出来ないだろ?だから、これ!」

勢いよく突き渡された掃除道具を、私は無言で受け取るしかなかった。

まただ……いつもこうだ。カグラ舞が皆より上手く出来ない事を理由に、すぐ面倒な事は私に押し付けて来る。


「…………。」

黙って掃除道具を受け取るしかない。何も言い返せないし、言い返した所でさらに酷い言葉が返ってくるのは目に見えるし。本当に嫌になる、言い返せない自分も、カグラが上手く舞えない自分も。


「じゃあな!しっかり掃除しとけよ、能無し夕華!」

そう言って男子は颯爽と教室から楽しそうに去っていこうとした。

あぁ、またいつものパターンか……。何て諦めかけていた、その時だった。


「何、してるの?」

一人の女の子が仁王立ちで男子の前に立ちはだかる。

赤茶色のロングストレートの髪に、鮮やかな真紅の瞳。そしてその少女はもう一度確認するように、淡々とした口調で繰り返した。


「今日、君達が掃除当番だよね?」

「げっ、十五夜もちづき!な、なんだよ。何か文句あるのかよ。」

男子たちはバツの悪そうな表情をして顔を背ける。男子達の目の前に現れたのは、アカデミー内でもトップクラスのカグラ舞の実力を持つ、同じクラスの少女、十五夜紅もちづきもみだった。


「なんで、日暮ひぐらしさんがやろうとしてるの?」

「そ、それはっ……。」

言葉に詰まった数人の男子達の中の一人が、声を上げる。


「あ、あれだよっ!日暮はカグラ舞もロクにできないじゃん?」

「だから?」

「だっ、だから、おれ達は何にも出来ない日暮に出来る仕事を与えてあげたんだよっ!」


「ふぅん。」

十五夜と呼ばれた少女は、ゆっくりと腕を前に突き出し手中に火のカグラを形成した。


「な、なんだよっ……。」

男子達は戸惑いながらジリジリと後ずさりする。


「なら、私よりカグラが舞えない君達に仕事をあげる。今すぐ日暮さんと掃除を代わって。でないと……。」

手中にある火のカグラが火力を増す。


「く、くそっ!いいのか!?お、お前、十六総家の名門のお嬢様なんだろ!?ア、アカデミーで問題起こしたら家に迷惑掛かるぞっ!」

男子達は、カグラ勝負で十五夜さんに勝てないのは自覚しているらしく、必死の形相で、脅しまがいに反論するが、


「何?脅しのつもり?だったら意味ないよ。私は家柄なんて気にしない、私は私だから。ここで君達が黒こげになっても関係ない。」

キッパリと言い切った。


「……ッッ!わ、わかったよ!やればいいんだろ、やればっ!」

そう言って男子たちは、私から掃除道具を奪い取ると黙々と掃除を始めた。


「日暮さん、行くよ。」

十五夜さんは私の手を取り教室を後にした。



半ば連れ去られるように教室を出てから、一言もしゃべることも無く廊下を歩き、中庭に辿り着くと、そこでようやく手を離して、初めてお互いの目が合う。


「大丈夫?」

私の顔を覗き込む様にして確認する。


「あ、うん。大丈夫、その……ありがとう。も、十五夜さん。」

「別に大したことはしてない。本来の掃除当番はさっきの男子たちだから、日暮さんがする必要はない。」

「う、うん……。」

あまりの正論と、その淡々とした口調に気押しされ、何て言い返せばいいか分からなくなり沈黙が続く。


「そ、そっかぁ。でも、ありがとう。」

何とか言葉を見つけて会話を試みる。

「ん、気にしないで。それより一つ聞いて良い?」

はて?成績トップクラス&アカデミー屈指の実力者の十五夜紅さんが、取り得無し&劣等生の私に聞きたい事なんてあるのかな?


「う、うん。」

「なんであの時、言い返さなかったの?」

あの時?あぁ、掃除道具を渡された時のことかな。


「そ、それは……。」

「何で?何で?」

どう言っていいか分からず悩んでいる間も、十五夜さんはグイグイと顔を近づけてプレッシャーを掛けて来る。


「だ、だって、私、カグラ舞も他の子より上手く舞えないし……取り得無いし……能無し夕華だし……。」

自分のコンプレックスというか、ウィークポイントを言うのはやっぱり辛く、だんだんと声が小さくなり、思わず顔を背けてしまう。


「だから?」

十五夜さんの視線はブレずに真っ直ぐに私の方を見つめたままだ。


「だから……、何も出来ない私は……掃除ぐらいしかできないから……。」

「ん、……そっか、それが理由か。分かった、それじゃあね。」

切り捨てる様に言い切ってその場を立ち去ろうとする。

あれ?普通こんな時は、『そんな事ないよ』とか言って慰めたりしてくれる場面だよね?


「ま、待って!」

「ん?」

思わず引き止めてしまったけど、何て言ったらいいか分からない。

脳内の全思考をフル稼働させ、ある一つの疑問を問いかけた。


「な、何で私を助けてくれたの?十五夜さんの家って有名な家系なんでしょ?」

詳しくは知らないけど、十六総家っていうカグラ舞の名門、その十六ある名門の一つが十五夜さんの家らしい。


「なのに、私みたいな普通の子を助けて問題でも起こしたら、男子達が言ってたみたいに、家に迷惑がかかるん……」

「家は関係ないっ!!!」

拳を握り締めて吐き棄てるように言い、私の方に振り返り目と目が合う。その赤い瞳はまるで燃え上がる火の様な力強さが宿ってるみたいだった。


「私は私、家柄なんて関係……ない。」

言葉はハッキリとして意志を感じるのに、どこか十五夜さんは辛そうだった。


「男子達が掃除サボろうとしてるのが許せなかっただけ。」

「そっかぁ……でも、ありがとう。十五夜さんは強いね、何にも出来ない私とは大違いだね。カグラ舞もトップレベルだし、自分の言いたい事もハッキリ言えるし何でも出来るし……。」

ほんと、私とは大違いだ……。


「出来る、出来ないは関係ない。自分がそうしたいからしてるだけ。それに、日暮さんと私が違うのは当然。だって違う人間でしょ?」

何で当たり前の事聞いてるの?みたいな表情で、首を傾げられても、少し意味が違うというか何と言えばいいのやら。


「それに周りの皆が日暮さんの事を、”能無し”って決め付けているから、日暮さん自身が何も出来ないって思い込んでるみたいだけど、私はそうは思わない。」

「えっ?」

「初めて授業で日暮さんのカグラ舞を見た時は、カグラ士になるの止めた方がいいって思った。」

うぐっ……、かなりどっ直球な言葉に泣いてしまいそうだ。


「でも、放課後に毎日あなたが校庭の隅で火のカグラ練習して日に日に上達しているのを見て驚いた。まさか本当に火のカグラが形成出来るようになるとは思ってなかったから。」

あぁ……、心底出来ないと思われてたんだなぁ、もう泣いてもいいよね。ってか、練習してるの見られてたんだ、誰にもバレてないと思ってたんだけどなぁ。


「本当にカグラ舞が出来ない人は、火のカグラの形成自体が出来ないから、それが出来た日暮さんはカグラ舞の才能があると思ってもいい。」

「で、でも……私、他の子より飲み込み遅いし……。」

「それは、あれだね。不器用なだけだね。」

不器用なだけって、あっさり言われたけど、アカデミー屈指の実力を持つ、十五夜さんが言うのなら、あながち間違いじゃないのかもしれない。


「じゃ、じゃあ、私ももっと練習したらクラスの子より、上手く舞えるようになるのかな?」

「それは知らない。」

呆気なく言い切られた。ここは嘘でも、『出来るよ。』って言って欲し所なんだけど。


「でも……」

「でも?」

期待の眼差しで十五夜さんを見る。


「出来るようになるのも、出来なくなるのも日暮さん次第。自分の事は自分で決めないと。」

「自分の事は自分で決める……。」

噛み締めるように言葉を繰り返した。

確かに、今までの私は、周りの事ばかり気にして自分は何も出来ない子だと決め付けていた。


「こんな私でも変われるのかな?」

「全ては自分次第だよ。」

もし、十五夜さんの言葉を信じるなら、私は変われるかもしれない。ううん!変わるんだっ!


「分かった!決めたよ、十五夜さん!私、生まれ変わるよ!能無し夕華じゃない、本当の私に!」

「うん、頑張れ。まぁ、私も大口叩いちゃったし、カグラ舞の訓練くらいなら付き合うよ。」

「ほんとっ!?うわぁ、十五夜さんが訓練してくれるんだったら心強いよ!」

「ん、ただし私の訓練は厳しいよ?」

腕を組み、鼻息をフンッ!と荒くする。


「はいっ!お願いしますっ、十五夜教官っ!」

「ん、それと……私の事は……もみ……でいい。」

ん?最後の方が声が小さくて聞き取れなかった……?


「えっ?今、何て?」

「もみ……紅でいい。十五夜さんじゃ、余所余所しい……から……ね?」

「あぁ~、なるほど。じゃあ私の事は夕華って呼んで……紅ちゃん?」

「うん、わかった……夕華。」

少し照れくさそうに頷く十五夜さ……紅ちゃんであった。



――――――――そう、これが私と紅ちゃんのファーストコンタクトだった。



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