十五夜紅VS天照大神2
紅ちゃんが両腕を半回転させ、自分の周りに風のカグラを形成する。
「大変だったよ、この状況を作るまで。」
ふぅ~、と言いながらも次々にカグラを形成し続けていく。
すると、紅ちゃんの体の回りに、パチッパチッと静電気が弾ける音が聞こえてくる。
「電気……いや、雷か。」
アマテラス様は顎に手をあてながら、発生する静電気をじっと見つめている。
「やっぱり、アマっちは知ってたか。そう、私の本当に得意とするカグラ、それは雷のカグラ舞。」
雷の……カグラ舞?そんなカグラ聞いたことがない、カグラ舞は火、水、風、土の四つでしか形成できないはずなのに、雷なんてどうやって形成するの?
「雷の発生する条件って言うのは、雲と雲がお互いに摩擦しあう静電気によって生み出されるんだよ。」
紅ちゃんの周りの静電気は、次第にビリビリッ!と、光の線が走りだし紫電が現れる。
「だから、火と水をぶつかり合わせる事で蒸気を発生させ、擬似的な雲を作り出した。後は……、」
「後は、風のカグラで蒸気をコントロールさせ、お互いに摩擦させる事で雷を形成するわけじゃな。」
アマテラス様が結論を言い当てる。
「正解。まぁ、厳密に言えば、雷じゃなくて、風のカグラ舞になるんだけどね。」
なるほど、原理は分かったけど、簡単に出来るものでない事も分かった。無策と思わせつつ、アマテラス様に火の玉で攻撃してたのは蒸気を発生させる為だったのか。
「かっかっか!まんまと策に嵌っておったとゆう訳か!」
「そゆこと。ここからが本番。」
紅ちゃんがアマテラス様のいる方向に手を伸ばすのと同時に、紅ちゃんの周りの紫電が、まるでムチで叩く様な動きを見せてアマテラス様に襲い掛かる。
「何のこれしき!」
神通力で空を飛べるのを利点に、アマテラス様は空中に退避しようとするが、
「遅いよ。」
紫電が、ジャンプしたアマテラス様の足首を掠る。
「――――――ッッッ!」
掠った足首を見てみると、火傷でもしたかの様な痕が残っていた。
「雷は、”光”なんだよ。光の速さは秒速三十万メートル、一秒間で地球を七周半できる、凄いでしょ?いくら神様とはいえ、この速度には簡単には反応できないはず!」
す、すごい!いつもぼーっとしている紅ちゃんが、饒舌かつ知的に解説してくれている!明日は雨か雪が降るね。
「ちなみに、この速度を超える事をワープと言う。」
さらには補足まで!あれは本当に十五夜紅なんだろうか!?しかもワープって、漫画とかアニメの世界の話じゃないの!?
「かっかっか!そうかそうか!ならその、わーぷとか言うやつをやってみようかの!」
足首の傷を擦りながらアマテラス様はニヤニヤしている。
「そんな事出来るはず――――――無い!」
紅ちゃんが腕を振り下ろし、空中に逃げたアマテラス様に、紫電のムチで追撃をしかける。
「よっと!」
紅ちゃんが腕を振り下ろすのと同じタイミングで、アマテラス様はその場から消えた。
「なっ!」
「どうじゃ?これがその、わーぷとか言うやつかの?」
声がする方へ目を向けると、紅ちゃんの背後にアマテラス様が立っていた。
「むむぅ。それは流石に反則じゃないの。」
紅ちゃんは一瞬目を見開き、いつも通りの口調でアマテラス様を責める。
「まぁ、神様じゃからの!じゃが、こんな事できるのは神様の中でも、わらわぐらいしかおらんがの。」
「だったら、連続攻撃で思考する間も与えない!」
そう言ってアマテラス様に、まるでガトリング銃で攻撃するかのような早業で、紫電のムチを連続で叩きつける。
しかし、そのすべての攻撃をアマテラス様は回避し続けながら、紅ちゃんに問いかける。
「これだけのカグラ舞の応用と、その場に合わせて気転を利かす柔軟性。流石は十五夜家の人間と言ったところか……。いやしかし、お主ほどの力があれば、何でも思うように物事が進むじゃろ?」
「べつに。何でも思うよう進むなんて事は無いよ。」
何か気にでも障ったのだろうか?紅ちゃんがぶっきら棒に返事をした。
「そうか?世の中には、己の実力不足がゆえに様々な可能性を諦めておる人が沢山おるんじゃぞ?」
比喩めいた表現で紅ちゃんに問いかける。
「だから?何が言いたいの?」
珍しく紅ちゃんがイライラしているようだった。言葉に少しトゲがあるのが分かる。普段の紅ちゃんならそんな話し方は絶対しない。
「いやぁ?その者達から見たら、お主は、何でも自分の力で手に入れ、好きな事をして、自由に生きてる様に見えるんじゃろな~っと思っての。」
まるで小馬鹿にするかの様に言い放ち、紅ちゃんの連続攻撃をワープというか、瞬間移動するようにして回避していく。
アマテラス様はアマテラス様で、明らかに紅ちゃんを挑発しているのが分かる。挑発する事で冷静さを欠かす作戦なのかな?でも、いつも冷静な紅ちゃんがそんな作戦に引っかかるはずないよね……。
しかし、こんな見え透いた挑発をいつもの紅ちゃんなら軽く受け流すのに、アマテラス様の言葉一つ一つに、少しずつイラついていく様だった。
やはり、今の紅ちゃんは何処かおかしい。
「確かに、他の人から見ればそうかもね。十五夜家の人間と言うだけで、地位と名誉、財力や十五夜家だけが使える特殊能力、それが全て手に入るのだから。」
「そうじゃろ?それだけの物があれば、好きなように生きていけるじゃろ?欲しい物は手に入り、ツクヨミの暴走を止める一族として、他の者から尊敬の念と羨望の眼差しを受けられる。うらやましいのぉ~、自由に生きれて。」
アマテラス様の言葉を聞き、紫電のムチを飛ばそうとした右腕をゆっくりと下ろす。そして、時が止まった様にピタリと攻撃が止まる。
「……私は……。」
「ん?」
俯き、地面をじっと見つめ、小声で何か言う紅ちゃん。そして、次の瞬間!
「私は!」
大声を上げ、大きく目を見開き、まるで獲物を目の前にした蛇の様に、鋭い視線をアマテラス様に向ける。
「十五夜家の人間として生まれた時から、自分が自由に生きてるなんて思った事は、一度も無い!」




