神々の物語3
そして、アマテラス様が、うずめさんとの昔話しが終わる頃にはご飯も炊き上がり、夕飯の準備が出来上がっていた。
「こちらの準備はオッケーじゃな。さて、風呂場担当はもう用意出来ておるかの。夕華、すまんが様子を見てきてくれんか?」
「はい。了解です!」
仕上がった料理を囲炉裏の近くにある、ちゃぶ台へと運び終えると、エプロン姿のまま風呂場へ向かう。
「さてと、あの二人はちゃんとお湯沸かせてるのかな?」
まぁ、くーちゃんがいつも一人で準備してるみたいだし、心配ないかな?そんな事を考えながら風呂場に向かって行くと、風呂場から二人のはしゃぎ声が聞こえてきた。
「うわー!もみもみ、すっごーい!お湯がすぐにわいたー!」
「ん、これぐらい余裕。」
何故だろう?もの凄く嫌な予感がする……。いや、まさかね。くーちゃんもいるし、大丈夫、大丈夫!と自分に言い聞かせつつも、足が少しずつ速くなっていく。
「紅ちゃん、くーちゃん、えっ!何……やってるの?」
「あ、夕華。ちょうど良い所に来たね。」
「ゆーか!みてみてー!もみもみ、スゴイんだよ!くーちゃんがいつも、三十分くらいかかってお湯沸かしてるのに、もみもみは五分で沸かしたんだよー!」
フフン!と自慢げにドヤ顔を決める紅ちゃんだったが、嫌な予感とは、本当に良く当たるものだと改めて実感した。まさかというか、案の定というか、紅ちゃんはカグラ舞で火を起こし、風呂を沸かしていたのだった。しかも、お湯がボコボコと沸騰するまで。
「紅ちゃん、お湯、沸騰してる……。」
焚き火近くで、火を形成していた紅ちゃんが、湯船を覗き込むと、あっ、と一言呟き、ゆっくりと私の方を向いた。しかも、冷や汗をだらだら流しながら。
「ど、どうしよう。」
「ま、まぁ、カグラ舞で水を入れたら温度下がるんじゃないかな?」
「そ、そうだね。そ、そうする。」
そう言って、急いで水のカグラ舞を何度も舞い、一生懸命に温度を下げる紅ちゃんと、それを横から応援するくーちゃんだった。
「いっただっきまーす!」
「うむ!お空、よく言えたぞ!お腹いっぱい食べるのじゃぞ!かっかっか!」
場所は変わって、囲炉裏の間。ちゃぶ台の上に、綺麗に夕飯が並べられており、それを四人で囲むように座っている。
「いただきます!……紅ちゃん、このお刺身凄くおいしいよ!」
紅白に彩られた、白身と赤身のお刺身を、アマテラス様特製の、山椒のソースでおいしく頂く。ちなみに紅ちゃんも特製の胡麻ベースのタレで食べている。
「ん!そうだね。こんなおいしいお刺身、初めてかも。」
あの紅ちゃんが、目を丸くして、驚いた表情をしている!
「かっかっか、そうじゃろ?何せ、わらわが今朝、龍神の川で捕ってきたんじゃから、鮮度は抜群じゃ!」
アマテラス様が、赤身の刺身を、箸で挟み、正面に突き出しながら私達に見せ付けてくる。神々のトップとは思えないほどの無垢な笑顔で。
「まぁ、しかし、お主達も初めての天界で疲れたじゃろ?夕飯を食べた後、しっかり風呂に入って疲れを取り、明日のカグラ勝負に備えておくんじゃぞ!あと祝詞も考えておくようにな。かっかっか!」
あぁ、そうだった。祝詞を考えなくちゃいけないんだった。ご飯を作ったり、お風呂の様子見に行ったりして忙しかったから考える間なかったけど。そうだよね、本来の目的は、願いを届けて、護符を貰うことだもんね。
「ねぇねぇ、紅ちゃん。」
小声で話しかける。
「ん?」
「もう、紅ちゃんは祝詞できてるの?」
「うん、まぁ、一応。」
紅ちゃんは、黙々と口の中へ、おいしそうにお刺身を放り込んでいく。
意外だった。まさか、もう紅ちゃんが祝詞できてるとは!もっと悩んでると思っていたのに。う~ん、後で聞いてみようかな。
そして、夕飯を食べ終えた私達は、食器を片付けた後、何とか温度調整したお風呂に紅ちゃんと一緒に入った。
少し高めのお湯と、檜で出来た、広い浴槽は、何とも言えないわびさびを感じさせる作りをしていた。
「うぅ~ん。いいお湯だね~。檜の香りも風情があって良いし。」
背筋をググ~っと伸ばすと、今日一日の疲れが癒されていくのを感じる。
「そうだね、頑張って温度下げた甲斐があった。」
紅ちゃんが髪を洗い終え、桶のお湯を頭からかぶる。腰まである赤茶色のストレートの髪が、しっとりと湿り気を帯びて、少し艶やかに感じる。そして、髪が湯船に浸からない様に、お団子状に丸くして、タオルで覆い、ゆっくりと湯船に入ってくる。
「それで、夕華はもう出来た?」
「出来たって、祝詞の事?」
「うん。」
「それがまだ出来てないんだよ~。紅ちゃんはもう出来てるんだよね。」
「まぁね。”自由に生きたい”って願いに何が必要かって事だよね。」
「う~ん、何が必要か、かぁ……。」
自由に生きるために必要な事かぁ……、アマテラス様に言われてから考えたんだけど、思いつかない……。
お金?愛?時間?仕事?色々考えてみたけどイマイチ、ピン!っとこないんだよね。
お金があっても、使う時間が無かったら意味無いし、愛って言っても、束縛とかされると自由じゃなくなっちゃう。まして、仕事をしていて、”自分は、好きな事を仕事に出来て自由だー”なんて、本気で言える人は、ごく僅かだと思う。う~ん、意外と難しい願い事だぞ。
「ちなみに紅ちゃんの祝詞はどんなの?」
「それは内緒。言うのが恥ずかしい。」
「えぇ~。どのみち明日、アマテラス様の前で言わないといけないんだから、言っちゃおうよ~。」
紅ちゃんの肩を揺らし、何とか教えて貰えるようにおねだりする。
「ダメ。祝詞は自分の考えで言わないと。」
うっ、確かにそうだけど、まったく思いつかないんだよなぁ~。
「でも……。」
「でも?」
「でも、ヒントぐらいなら教えてあげる。」
ガックリと肩を落とす私を見て、紅ちゃんが仕方ないなぁ、と言いながら教えてくれる。これが世に言う、ツンデレってやつなのかな?
「お、教えて下さい!紅様!」
「うむ。良かろう。かっかっか。」
腕を組み、フンっと鼻息を勢いよく出し、クオリティの低いアマテラス様のモノマネをする。
しかも、全然笑ってないし。




