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ルルカのパーティー。

 「よし、酒場に昼飯でも食べにいくか!」


 「はい、ご主人様!」


 昼過ぎまでゴブリン狩りを続けて、ギルドで買取をしてもらうと二千ゼニー以上になった。

 迷宮に潜っていた時間は大体四時間ぐらいだろうか。

 日雇い労働者の一般的な日当が千ゼニーいかない程度であることを考えると、半日でこの金額を稼ぎ出したユエルはかなり優秀だ。

 本当にいい買い物をしたと思う。


 ユエルは迷宮探索における戦力として優秀だというのに加えて、素直で良い子なのが何より良い。

 子供らしい無邪気な笑顔を振りまき、かつ面倒なわがままを言わない。

 しかも俺に大分懐いている。

 もしかしたら、目が治ってから初めて見た俺を鳥の雛みたく、親のように思っているのかもしれない。

 それに迷宮で戦闘が終わる毎に頭を撫でていたからか、俺に対する緊張のようなものも大分解れてきたような気がする。

 まぁユエルがどう思っているかはともかく。


 「美味しいですね、ご主人様!」


 目の前で美味しそうに食事を頬張るユエルを見ているとなんだか癒される。

 ほとんどユエルの稼いだ金で飯を食べているようなものなのに、含むところの無い晴れやかな笑顔を対面に座る俺に向けてくれる。

 これがエリスなら「人のお金で食べる昼食はおいしいかしら?」とか言いそうだ。


 「あ、シキだ。また会ったねー」


 声をかけられ振り向くと、赤毛にボーイッシュな雰囲気の女の子、ルルカがいた。

 今回も一人である。

 パーティーメンバーとやらはどうしたのだろうか。

 実はぼっちなんだろうか。

 もしかしたら寂しい子なのかもしれない。

 それならば是非ともベッドの上で慰めて差し上げたい。


 「あぁ、また会ったな」


 「ここに居たら来るかなと思ってずっと待ってたんだよー。シキとお話したかったから」


 「お話したかったから」のあたりで顔を背け、横目でこちらを伺うように見るルルカ。


 実にあざとい。


 こいつの発言や態度は真に受けてはいけない。

 ルルカは自分の容姿の価値と男にウケる仕草っていうものをよーくわかっている。

 真に受けて「こいつもしかして俺に気があるんじゃねーの?」とか考えた日には猫撫で声ですり寄ってきていつの間にか高い飯と酒を奢らされているだろう。

 そんなタイプだ。


 「あの、ご主人様、この方は?」


 そういえばユエルとは初対面だったな。

 紹介するべきか。

 でもユエルみたいな奴隷を買ったなんて言ったらロリコンとか言われそう。

 紹介したくない。


 「ん、ご主人様、ってことは奴隷なんだその子。うっわぁかわいい子だねー。でもシキ、幼女趣味は流石に私でもドン引きだよー?」


 おやおや、紹介するまでもなくロリコン扱いでしたか。

 でもどう見てもユエルは戦闘用の奴隷に見えないし仕方ないのかもしれない。

 納得したくないけれど。


 「そういうのじゃねーよ。ユエル、この赤毛はルルカだ。俺が治療師だった頃の客で、冒険者の先輩だ。で、この子はユエル、昨日買った奴隷でパーティーメンバーにしようと思ってる」


 「あ、あの、ユエルです。よろしくお願いします」


 おどおどと挨拶するユエル。

 俺にはすぐ懐いたのに実は人見知りなのか。

 あーでも買った時はこんな感じだった気がする。

 やっぱり人見知りなんだろうな。


 「ルルカだよー、よろしくね。えっと、また随分とかわいらしいけどユエルちゃんを迷宮に連れて行くつもりなの?」


 「今日軽く迷宮に潜って来たが、ゴブリンぐらいなら瞬殺だったな」


 流石に三階層以降は行かなかったけど。

 ユエルも万全ではないし三階層以降の魔物の情報も調べて無かったし。


 「へぇ、その歳でスキル持ちってこと? かわいいのに凄いんだねぇ」


 そうです。

 ウチのユエルちゃんはかわいいのに凄いんです。

 なんだか今なら子供を自慢しまくる親馬鹿の気持ちが少しわかる気がする。


 「あぁ、短剣のスキル持ちらしい」


 「じゃあ前衛アタッカーなんだ。いいなぁ、うちのパーティー、前衛が私だけで薄いんだよ。ユエルちゃん、もしこのご主人様が嫌いになったら私が身請けしてあげるからいつでもおいでー?」


 「人のパーティーメンバー引き抜こうとしてんじゃねーよ!」


 俺の参加は断るくせにパーティーメンバーを引き抜こうとするとか。

 まぁ流石に冗談なんだろうけど。

 いやでもユエルが本気で身受けして欲しい、とか言ったらどうなるんだろう。

 ちょっと考えたくないな。


 「わ、私がご主人様を嫌いになるなんて絶対にありえません!」


 そうか。

 絶対にありえないか。

 嬉しい事を言ってくれるけど、こんな人を信用しやすい性格でこの世の中生きていけるんだろうか。

 あ、既に奴隷になってるか。

 納得です。


 「ねぇシキ、本当に昨日買ったばかりなの? 一体何をしたら一日でこんなに慕われるの? まさか本当に!」


 「ち、治療したんだよ。奴隷市場で見かけた時は顔に傷があったからな」


 「はい、見えなかった目も、潰れた鼻も、千切れた耳も、全部ご主人様が治療してくれました。それに、とても優しくしてくれました。ご主人様は私の大切な人です!」


 「あー、なるほど、そういうことね。うーん、でもそんな酷い傷があったようには見えないね、跡も残ってないし」


 「まぁそれは俺の実力だろうな」


 治癒魔法で傷を一切残さない程精密な治療をするには、かなりの技術と魔力が要ると言われている。

 俺の場合は意識しなくても傷は残らないし、魔力も最大値が高すぎて特別多く使っているような気はしないので余り実感はないけれど。


 「そんな実力のあるシキさんにお願いがあるんですよー」


 「嫌だ」


 大方予想がつく。

 どうせ無料でヒールして、とかだろう。

 別にヒールしたところで俺にデメリットがあるわけではないが、そう簡単に利用されてやるわけにはいかない。

 働くからには対価が欲しい。


 「えぇー、私とシキの仲でしょー? シキがエリスさんのところクビになっちゃったから、あれぐらい安くて傷跡もしっかり消してくれる治療師なんてもうほとんど居ないんだよー。ちゃんと二百ゼニー払うしヒールだけでいいから、ね?」


 そういえばエリスも傷跡まで消すのは厳しいと言っていた気がする。

 緻密な作業で時間がかかるし、相応の魔力と集中力を使うから普段からはできないとか。

 しかし、てっきり負けろとか無料にしろとか言うかと思ったら妥当な値段だ。

 まぁ相場と比べれば安くはあるんだけど、エリスの所と同じ金額である。

 それにしても珍しい。

 いつもなら金属製の胸当てを外して豊かな胸をたぷたぷしてみたり、その状態で背中から抱きついてみたりと凶悪な交渉手段で値引きを強行したり無料にしろと言ったりするのに。


 「治療か。ちゃんと金を払うなら良いよ。あれ、でも怪我なんてしてなくないか?」


 俺としては金が無いから体で値引き、という展開が楽しいんだけれど流石に酒場でそれをやるわけにはいかないのだろうか。

 治療院をクビになった弊害がここにも。

 ちょっと寂しい。


 「良いって言ったね? ちゃんとヒールしてよ?」


 ルルカがバンクカードを取り出して金を支払ってくる。

 先払いなんて珍しい、と思うと同時になんだか嫌な予感がしてくる。

 足早に立ち去っていった奴隷商人と同じような雰囲気だ。

 気が変わる前にさっさと進めたい、という意思を感じる。


 「ほら、おいでー」


 ルルカが見る方向には二人の女の子が居た。

 一人は金髪をツインテールにしてドリらせている気の強そうな魔法使い風の女。

 もう一人は青い髪をボブカットにした穏やかな雰囲気の弓を背負った女。

 金髪は十六歳、青髪は十八歳ぐらいだろうか。


 二人は座っていたテーブルから立ち上がると、こちらに歩いてくる。

 金髪ツインテドリルは睨みつけるような目でこちらを見つめながら。

 青髪ボブはそんな金髪の様子を見てため息をついている。


 「こっちの金髪の子がフランで、青髪の子がセラ。私のパーティーメンバーだよ」


 「ふん......」


 「セラです。いつもルルカがお世話になっているようで」


 フランと呼ばれた女は不機嫌そうに鼻を鳴らし、セラと呼ばれた女は丁寧に挨拶をしてきた。


 「あぁ、俺はシキ、こっちがパーティーメンバーのユエル。よろしくな」


 「よ、よろしくお願いします」


 それに返すように俺、ユエルが挨拶をする。


 そういえばルルカが潔癖気味なパーティーメンバーがいる、と言っていた気がする。

 間違いなくこのフランとかいう金髪ドリルだろう。

 今も不機嫌そうな顔でそっぽを向いている。

 男とは会話する気もないらしい。

 

 「でねー、シキにはフランの肩を治療して欲しいんだ。アサルトバットに噛まれちゃってさー。一応の止血はしてあるんだけどやっぱり女の子の肌に傷を残すなんて嫌じゃない?」

 

 じゃあなんで冒険者なんてしてんだよ、と思わないでもないがこの世界はスキルさえあれば例え女でも魔物と戦える。

 迷宮探索は危険もあるが実入りも大きい。

 男女による職業意識の差は元の世界より小さいのかもしれない。


 しかしフランとかいうこの少女。

 魔導師風のローブを着ているから怪我自体は見えないが、ローブが少し破れ、その中には僅かに包帯の白色が見える。

 そしてやはり視線を合わせようとしない。

 これが「こんなイケメン治療師さんに治癒魔法をかけてもらうなんて頭がフットーしちゃうよぉ!」という照れ隠しでそっぽを向いているのなら俺も喜び勇んで治癒魔法をかけた後押し倒すんだけれど、どう見てもフランの表情はそうではない。

 不機嫌と嫌悪と侮蔑を足してミキサーにかけたような顔だ。

 デレのない強気女に価値は無い。

 こいつはただの失礼な女でしかない。

 正直やりたくない。

 「ねえねえ、なんで頭の横にドリルつけてるのー?」とか言ってやりたい。

 ドリルじゃ通じないか。

 巻貝とかがいいかな。

 とにかく毎朝早起きして頑張ってセットしているだろうあの特徴的な髪型を全力で馬鹿にしてやりたい気分だ。


 「シキ、お願いね。もうお金も払ったでしょ?」


 あぁ、先払いはこれが理由か。

 ルルカは俺の性格を良くわかっている。

 もし先払いじゃなかったら「ほっぺにチューしてくれたら治す」とか言い放っていたかもしれない。

 激怒して酒場を出て行くフランの様子が目に浮かぶようだ。

 「患部が良く見えないなー、そのローブ脱いでくれる?」という手段でセクハラするのはアリだがその場合でもやっぱりフランは激怒して出て行くだろう。

 金を貰ってしまった以上治さないというわけにもいかないから俺は彼女を怒らせるようなセクハラはやりにくい。

 やってもいいんだがその場合、今度はルルカが怒るだろう。

 本当に良く考えている。


 「はぁ、ヒール」


 最低限の仕返しとして舐めるようにフランの身体を視姦しながらヒールをかける。

 しかし胸のあたりを見ると、起伏が全くと言っていい程無い。

 性格が残念なら胸も残念だ。

 セラはパッと見てわかる程には大きいものを持っているし、ルルカも胸当てで隠してはいるが、隠れ巨乳だ。

 今度会った時にはパーティーの中でお前だけ貧乳だよなとでも言ってやろう。


 ヒールが発動し、暖かな光がフランの肩に集まる。

 確認はできないがまぁ多分治っただろう。

 フランは肩の調子を確かめつつも不機嫌そうな表情を崩さない。


 「お礼ぐらい言ってもいいんじゃねーの?」

 

 「私は頼んでないもの」


 おう。

 かなりイラっとしたがこの程度でキレる程俺は短気じゃない。

 今の俺にはユエルという癒しがあるのだ。

 それにユエルに見苦しい姿を見せたくはないし、怒っているところを見られて怯えられるのも嫌だ。

 これが子持ちの親の性格は穏やかになるというアレだろうか。


 「あ、あはは。ごめんねシキ。フランも悪い子じゃないんだよー」


 刺々しい態度を崩さないフランにすかさずルルカがフォローを入れる。

 しかし男嫌いにも程があるな。

 会話するのは嫌、お礼も言えないとなると普通に生活するのはかなり難しいだろう。

 あぁ、だから冒険者になったのか。


 治療を終えるとルルカ達三人は酒場を出て行った。

 ルルカは「またよろしくねー」と言っていたけれど、フランの治療は正直もうやりたくない。

 次があっても断固拒否で決まりだな。

 どうしてもというなら胸でも揉ませてもらおう。


 あ、でも貧乳だったか。

 やっぱり残念だ。



現在の所持金、おおよそ二千六百ゼニー。

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