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ルルカと宿。

 「ねぇ、明日一緒に迷宮に潜らない?」


 武器屋から酒場に直行し、適当に食事をしていると、ルルカが俺達のテーブルにやって来てこう言った。

 そして、ちゃっかり席に座って大皿から料理を取ったり、酒の追加注文なんかをし始めた。

 今日はどうやら一人のようだ。


 「いや、お前、俺とは組まないとか言ってなかったか? それに、あの貧乳が絶対に嫌がるだろ」


 もしかして。

 もしかして引き抜きか。

 目当ては俺じゃなくてユエル。

 かわいくて優秀で愛らしい俺のユエルさんを引き抜きに来たのだろうか。


 「......あの子の前でソレ絶対に言わないでよ? かなり気にしてるんだから。えっと、パーティーが無ければシキとも一緒に迷宮に潜りたい、とも言ったでしょ? 今日あたりからね、フランの体調が悪くてパーティーでの探索はちょっとだけお休みなんだ。」


 あぁ、そういえばそんなことも言ってたな。

 なるほど。

 休みの日にルルカ個人とならオッケーってことか。

 所謂臨時パーティーってやつだな。

 ちょっと戦力に不安も感じていたし、三人だとどこまで行けるのか試してみるのもいいのかもしれない。


 「あー、そうだっけ。でもフラン、体調悪いのか? ルルカが何かしてくれるか、アイツが直接頼むなら治療しなくもないぞ?」


 「あ、あー、あはは。えっと、そういうのじゃないから心配はしなくても大丈夫だよ?」


 なんだろう、歯切れが悪い。


 体調不良。

 そういうのじゃない。

 今日あたりから。

 ちょっとの間お休み。

 心配しなくても大丈夫。


 あぁ。

 口角が自然と上がってしまう。

 そうか、そういう日もたまにはあるよな。

 女の子だもんな。

 月に一度ぐらい、体調が悪くなることもあるよな。


 そっか、今日からか。


 周期はどれぐらいなんだろうか。

 普通に一ヶ月とかなんだろうか。


 あぁ、一ヵ月後に「そろそろだろ?」なんて声をかけてみたい気持ちが膨れ上がってくる。

 最初は意味がわからなくてポカンとした顔をするフラン。

 けれど、俺のにやけ顔を見て意味を理解し、なぜ知っているのかという困惑、知られてしまったということへの羞恥、そしてそれを口に出す俺への嫌悪でぐちゃぐちゃになった彼女の表情を見てみたい。


 そうだ、もし今日か明日あたり、フランを見かけたら周期を尋ねてみようか。

 まさに怒髪天、ツインテドリルが天を衝く程に激昂するフランの表情もなかなかに見応えがありそうだ。


 「あんまり怒らせるようなことはしないでよー? あの子はそういうの、本当に嫌いだからね」


 ため息をついて、そう言うルルカ。

 俺の表情だけで、考えを察したのだろうか。

 よくわかっているじゃないか。


 まぁ流石に実行はしないかもしれない。

 ルルカのパーティーメンバーだしな。

 言ってしまえば、やはりルルカに嫌われそうだ。

 ルルカは割と寛容な性格をしているように思うけれど、パーティーメンバーを怒らせてもそうとは限らない。

 いや、そもそもフランなら衛兵でも呼んだり、魔法か何かをぶっ放してきたりする可能性も否定できない。

 潔癖という話だし。

 流石に不味い。


 でも、実際にフランを見かけたら何か言ってしまうかもしれない。

 不機嫌そうに「貴方のことが嫌いです」なんて態度を取られてしまったら、その表情を羞恥に染め上げてしまいたくなるのは当然のことだろう。

 最早、前振りにしか見えない。





 「ねぇシキ、私もシキと一緒の宿に泊まりたいんだけど、いいかな?」


 酒場を出たところで、ルルカがこんなことを切り出してきた。


 これはアレだろう。

 「私、酔っちゃったから送ってくれないかな」というやつだ。

 ついに俺にもモテ期がきたのか。

 顔も、ほのかに紅潮している。

 お持ち帰りされることを期待しているのかもしれない。

 きっと、これが女の顔、というやつなんだろう。

 デートも無しにいきなりベッドインなんて。

 積極的だ。

 普段もここまで積極的だっただろうか。

 いや、せいぜいが服を着たまま胸をたぷたぷしたり、押し付けたり、ほんの一瞬だけタッチさせてくれる程度だった。

 それも治療費と引き換えで。


 やはりモテ期がやってきたのか。

 こんなにもルルカを積極的にさせてしまうなんて、なんて俺は罪な男なんだ。

 おっと、表情がにやけてしまった。

 気をつけないとな。


 「あ、もちろんそういう意味じゃなくて、待ち合わせが面倒だから同じ宿にしようっていうだけだよ。部屋も別々ね。」


 あ、勘違いですか。

 そうですよね。

 顔が赤かったのはお酒を飲んだんだから当然ですよね。

 ちょっと舞い上がってしまった自分が悔しい。

 そして非常に残念だ。

 俺も酒を飲んでちょっと頭が回らなくなっていたのかもしれない。

 まぁ、ユエルがいるから同じ部屋で同じベッドに入ったとしても、実際は何もできなかっただろうけど。





 「そういえば、ユエルちゃんとは同じ部屋で寝てるの?」


 宿の受付を済ませた後、ルルカがこんなことを聞いてくる。

 俺とユエルの関係が気になるのだろうか。


 この質問をどういう意図でしたのかが気になる。

 俺とユエルの親密な関係に嫉妬しちゃっているんだろうか。

 それとも俺がロリコンかどうか確かめようとしているんだろうか。

 気になる。


 「あぁ、そうだよ。金ももったいないしな」


 本当はユエルが嫌がったからだが、これは言わなくても良いだろう。


 「いつもご主人様と同じベッドで寝させていただいてます」


 ユエルさん、それも言わなくて良いんだよ。


 ユエルの言葉を聞いて、ルルカがじっと俺の顔を見つめてくる。

 真実を探るような、真剣な表情だ。


 あぁ、やっぱりロリコンだと疑っていたんですね。


 目を逸らしてはいけない。

 きっとここで目を逸らしたら、俺はルルカの中でロリコン扱いされてしまう。

 もしもそうなったら、ルルカは俺にドン引きして交渉時のサービスなんてしてくれなくなるかもしれない。

 いや、それどころか目を合わせたり口を聞いたりすらして貰えなくなる可能性も無いでもない。

 子供を産む女性にとって、ロリコンというのはそれ程までに忌避の対象足り得るだろう。


 違うのだ。

 俺は本当に手を出していない。


 こちらも極めて真剣な表情で、ルルカを見つめ返す。


 「......やっぱり私、シキの隣の部屋に変えてもらってくるね?」


 それは夜中に変な物音や声がしないか確かめるということでしょうか。


 この安宿の壁は薄い。

 あんなことやこんなことをしたりなんかすれば、直ぐに隣にバレてしまうだろう。


 どうやら俺は信用して貰えなかったようだ。

 俺は普段からあんなにもユエルに手を出さないように努力していたというのに。

 なんだかほんの少しだけ理不尽を感じる。


 俺はこの感情の矛先を、どこに向ければいいんだろうか。

 






 「んっ......はぁっ......どうですかっ、ご主人さまぁっ」


 ユエルが精一杯、という雰囲気で俺の気持ち良い部分を刺激してくる。

 ユエルの触れる場所には、じんわりと熱が広がり、強い快感を感じる。


 「あぁ、すごく良い。ユエルは最高だ。とっても気持ち良いよ」


 ユエルは少し辛そうだ。

 それに、口には出さないが、技術はそこまで上手くない。

 初めてなのだから仕方が無いことではあるが。

 だがそこが良い。

 きっと、ユエルがしてくれるからここまで気持ち良いのだろう。


 「はっ......っ......ふぅっ......わたしっ、痛いですけどっ、頑張りますからっ!」


 硬い肉に触れるユエルが、辛そうな声を上げつつも、一生懸命に刺激を続ける。

 痛いか。

 やはり、まだ十二歳のユエルには厳しかっただろうか。


 「痛いのか? 無理はしなくていい、やめてもいいんだぞ?」


 「いえっ、わたしっ、ご主人様のためなら頑張れますっ」


 健気だ。

 ユエルは汗を俺の身体に落とす程に一生懸命に、俺を刺激し続ける。




 荒れる息、漏れる声、滴る汗。




 「ちょ、ちょっと! なにやってるの!? ユエルちゃんに手は出さないん......じゃ......」


 そして――ルルカの叫びとともに、部屋の扉が大きく開かれた。


 ルルカが部屋に乱入し、その光景を見る。




 俺がユエルに肩を揉んでもらっている光景を。




 計画通りである。


 「ん? どうしたルルカ、そんなに慌てて。何か気になるところでもあったのか?」


 「え、えっと、あの、その」


 もちろんわざとだ。

 俺がユエルに肩を揉むように頼み、そして肩に力を込めて子供の力では揉みにくくした。

 声も壁の向こうまで聞こえるように、気持ち大きめである。


 治療院では自分から色々してきたルルカでも、流石にこの勘違いは恥ずかしかったのか、吃りながら顔を赤面させている。

 ルルカはどちらかと言うと攻めてくるタイプだ。

 俺からセクハラする、というよりは向こうからアピールしているような印象である。

 そしてその術中にはまる俺から金を毟りとっていく。


 あまり見れる表情じゃない。

 珍しいものを見せてもらった。


 俺だって、ルルカにいいようにやられるばかりでは無いということだ。


 「どうした、慌てて部屋に入ってきたからには何か理由があるんだろう? 言ってみたらどうだ」


 ルルカが顔を赤面させながら、ジト目で睨んで来る。


 言えるわけないよなぁ。

 そうだよなぁ。

 いかがわしいことをしていたと勘違いしてました、なんて言えるわけがないよなぁ。

 恥ずかしいよなぁ。


 それに俺の近くには親指をぷらぷらさせて、指の痛みをとっているユエルが居るのだ。

 なおさらだろう。


 羞恥に染まった表情のルルカは、薄手の寝巻きを着ている。

 ヘンリーネックのシャツに、柔らかそうな素材でできたショートパンツ。

 いや、キュロットだろうか。

 普段も厚い生地のデニムのようなショートパンツを履いているが、服の素材が違うだけで大分雰囲気が違う。

 後ろから見たら下着のラインが透けて見えるんじゃないかと思うぐらいだ。


 上から下まで、たっぷりと、じっくりと眺める。

 重力に引かれる薄い布、僅かに浮き上がる肉の曲線。

 普段は見れないルルカの表情が良いアクセントになっている。


 しかし、ルルカは目を瞑り、深いため息をひとつ吐くと、呆れたような表情に戻ってしまった。

 あぁ、もう終わりか。


 これが俺の仕込みで、わざと勘違いさせられた事に気づいたのだろう。

 やはりルルカはよくわかっている。

 それに、切り替えも早い。


 ルルカが怒るかな、とも思ったが、俺は実際には何もしていない。

 ただユエルに肩を揉んでもらっていただけだ。


 確かにユエルに肩を揉んで欲しいと言ったのは俺だし、ルルカが勘違いしやすいように言葉を選んではいたが、声もユエルに肩を揉んで貰って気持ちよかったという感情を表現しただけだ。

 ちょっと肩に力を入れて、ユエルが肩を揉む力を強くせざるを得ない状況を作ったりはしたが、それはルルカにわかることじゃない。

 嘘は無い。

 恥ずかしい勘違いをしたのはルルカ自身なのだ。

 だからこそ、ルルカは怒ることもできずに呆れた表情をしているんだろう。


 これは一矢報いたと言っていいだろう。

 俺にロリコン疑惑をかけたことは、これでチャラにしてやってもいい。


 今日はルルカの薄手の寝巻き姿と、あの赤面した表情で決定だ。

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