番外編!? 料理対決!
※前回の続きではありません。それよりも少し先のお話です。
ここは世界の上空『スカイ・キャッスル』
ここでは、神様達が日夜人間の生活について話してる…………。
今回は、イタリアの上空よりお送りします。(だからと言って、時事ネタは出ないよ!)
「第一回!」
「チキチキ!」
「「お料理選手権~~!」
「はい! 司会を務めますは私、火神と!」
「全知全能の神です~~」
どうしてこうなった……。
事は昨日に起因する。
「最近暇だねぇ」
木神がため息混じりに言う。
「そうですね」
これと言った事務も回ってこないし、大きな行事があるわけでもなく、俺たちは暇を持て余していた。
「私復帰したばかりなのに、なんなの? この暇さは」
金剛神も文句を垂れていた。
「おい、全知。いいのか? こんなに暇で」
今思うと、雷神がそんなこと聞かなかったら良かったのかもしれない。
「すること? あるよ? ねえ、火神?」
「うん、あるよね~!」
そういって、全知と火神が目配せをし、ニヤリと笑った。
何だこれ、嫌な予感しかしねえ……。
「「発表します!」」
背筋がぞわりとした。
「「料理対決を!」」
「「開催します!」」
「「開催日は、明日!」」
「「場所は地下闘技場!」」
「「ルール、制限なにも無し!」」
「「ただただ旨い飯が食いたい!」」
見事にハモらせ、そう告げると、チラシをずいっと差し出した。
俺の嫌な予感は奇しくも当たってしまったのだった。
「今これ、ここの全員に一斉送信したから」
廊下をチラシから精製された式神が、大量に飛んでいく羽音が聞こえてきた。
うわあ……用意周到……。面白そうだな! って言っているの地神だけだからね? 風神なんて、
「………………無意味」
ばっさり切り捨てているし。
「あ、因みに、ここのみんなは強制参加ね」
『ええええええええええええええ』
その他大勢の声が重なった。異口同音。だって面倒くさいから。
「因みに商品も用意してるよ~」
その一言に女性陣が敵陣営に付いた。いや、俺以外のみんなが敵陣営に付いた。
「水神さんは、何で乗り気じゃないんですか? あ、料理下手なんですね、フッ」
太陽の言い方はいつも毒がある。いや、俺が参加したくない理由はそうじゃなくて……。
「審査と毒味は誰がやるんだ?」
ということだ。
「それは、ちゃんと審査員をよういしているよ~」
審査員? 不安だ……。ま、まあ、この二人がやるんじゃないなら良いか。
「むう……それなら……」
と、渋々承知してしまったから、今こうなっている。
回想終了──時を今に戻す。
今正に、参加するメンバーがゾロゾロと地下闘技場に集まってきている。。
だ、だりい……。でもやらなくては……。バックレると後がうざい。
みんなが揃ったところで開会式、及びルール説明が始まった。
「只今より、第一回料理対決を始めます!」
「では、審査員を紹介します!」
「料理クラブ部長、食物神様!」
「お招き頂き有り難う御座います。本日は誠意を込め、公平な審査に務めます」
「同じく副部長、野菜の神様!」
「いやぁ、参加出来てほんとうに嬉しいわ。今日は宜しくお願いするわ」
「特別審査員! 元老院総長、創造神様!」
「今日はどんな創造されるのか、とても興味深いです」
どこから突っ込めばいいのか……。というか、本編未登場の方々をこんなところで放出してしまって良いのか。
補足だが、元老院というのは、神を辞めた人が入る部署で、地球を作った時点で疲れ切った創造神が創設したとか。
「では、火神君! ルール説明を!」
「はい! ルール、制限なにも無し! ただし時間は2時間!」
「「ただただ旨い飯が食いたい! それだけだ~~~~」」
そこで俺は信じられないことを耳にした。
ルール、制限、何も無し……だと? しかもここは地下『闘技場』。料理をするだけなら別の場所もあるというのに……。嫌な予感に背筋が凍る。この大会、荒れるぞ……。
「では、後の司会は全知全能神様に任せて! 私も参加しま~す」
「では、すた~~と!」
『ドガーーーーーーン』
料理開始の銅鑼が勝手に鳴り響いた直後、後ろから火の手が上がった。と言うか、噴火した。
「あ、わりい。ガスコンロが噴火したわ」
「何でだよ! なあ、地神よお!」
もうやだ……お家帰りたい。
その後は何も無く進んだら良かったのにね。
開始30分後の事だった。
「ちょ、なんで私の野菜が急激に成長してるのよ!」
見れば雨神が文句を叫んでいた。あ、居たんだ。
「知らないわよ~? 私」
よく見ると木神さんと口論してる。
「くう~~~~~」
怒りの余り顔が真っ赤になっていた。あ、これヤバイやつだわ。
急にゲリラ豪雨が会場を襲った。俺は冷静に水を操り、難を逃れたが、他のみんなは料理がパアになっていた。
「あれ? 水神君は平気なの?」
前の調理台で料理をしていた金剛神さんが俺に尋ねる。
「まあ、一応水を統べる神ですからね。このくらいは朝飯前ですよ」
「ふーん。水神君、だけ、無事なのね」
「あ~。なんかすみません」
「いいのよ、気にしないで」
「はあ……」
そう返事をし、手元に目を移すと、使っていた包丁がハグ○メタルもかくやといった、どろどろ具合になっていた。
「ふふふふふふ」
そう不敵に笑いながら、金剛神さんが俺の方を顧みる。
「水の芸術 包丁(ウォーターアート ナイフ)」
そんな金剛神さんに気付かない振りをして、今し方みんなの料理をダメにした雨をリソースに、包丁を精製。再び、料理を開始する。ちらりと前方を見ると、とてつもなく悔しそうな金剛神がいた。
それだけでトラブルは止まらない。
料理を再開して数分後、俺に向かって火の玉が飛んできた。
「防御水壁」
咄嗟にで詠唱してそれを防いだが、それはダミー。反対から突進してきた火神が俺の確保した卵を全て割りやがった。
「てっめぇ……」
「これで、水神もパアだね! はっはっは~」
主催者側から邪魔された。
「ふっ。馬鹿め! 卵なんか無くても、俺の作ってる物には関係ねえ!」
はっはは~。と、俺も続けてみた。
「ええ~~じゃ、じゃあ」
火神が反撃のためにフレア……と詠唱しだしたところで、俺は、
「水球監獄」
と素早く詠唱し、火神を水のボールに閉じ込める。火属性の彼女には大ダメージだった。
「おおっと! 火神、リタイアだ~~」
司会者から、料理対決ではついぞ聞いたことがない文句が飛び出した。なんておっかねえんだ……。『料理対決』……。
その後も小さな乱闘があったものの、運営に支障が出るレベルの大乱闘は無かった。が……。
「おっと……? 風神の鍋が溶け出したぞ……?」
司会者が恐ろしいことを言い出した。さっきから何か異臭がするな……。とは思っていたが、まさか。
辺りを見回し、風神を探し当てると、その周りには、何やら紫色の液体──スライム(?)が彼女の周りを浸食し始めていた。
それは、触れた全ての床を溶かしているようで、大量の湯気を伴い、他の料理人の元へと流れ出ていた。
「おい! 風神! なんが床が溶け始めてるじゃねぇか!」
雷神の怒号が飛ぶ。ひぃっ……。何? 何アレ……。化学物質? 審査員達の方を見ると、総員顔から血の気が引いていた。そしてどん引きしていた。
「おーい。水神よ」
後ろから声がする。
「なんだ? 地神」
「あれ操って始末できないの?」
「やってるんだが……」
実際、何度も詠唱している。
「……なんか魔法が効かない」
「はあ!? あれ反魔力物質なの!? 怖っ」
見ると徐々に俺の元へも迫ってるみたいだった。
あ、そっか直に触れなくても良いんだよな。
「大波小波」
魔法の水で風神の元に液体(?)を押し戻す。押し流されたそれは、風神を襲い、彼女の服を溶かした。
「きゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
あられもない姿になった風神が、悲鳴を上げ倒れた。自業自得とはいえ、怖い……。
「風神リタイアーー」
次々と出場者がリタイアしていく中、何とか生き延びている面々は着々と料理を完成させて行く。
会場に美味しそうな臭いが立ちこめて来た所で、
「終了~~」
全知の間の抜けた号令により、料理の時間は終了した。
「それでは、只今より審査に移らせて頂きます」
「各自、完成した料理を5人分装って、提出して下さい」
なんとか復活した火神が司会に参加していた。
そして、俺が自慢のカレーを装っていた時だった。
『ざわざわ』
なにやら、観客席がざわついていた。その原因を探ろうと、辺りを見回してみるけど、別段変わったことは無い。何なのだろう……?
その原因は直ぐに知ることが出来た。
「ちょっと待って、私これ食べるの!? 本当に!?」
火神が何か文句を垂れている。よく見てみると、審査員席にイノシシの丸焼きが鎮座していた。5体も。そんなの誰が作ったんだよ!? え? ちょ、ワイルドだな~。
「というか、こんなの食材に無かったよね!?」
火神の文句は続いている。というか、もっともな文句だった。だって、俺の知る限り、捌いてある肉しか無かったわけで、あんな剥製の様な見たまんまの動物は無かったのだ。
「あん? それは、俺が昨日狩ってきたんだよ」
雷神が平然と答えた。つか、制作者お前かよ!? 気象部、料理大丈夫か!? 風神の『毒物』に、雷神の『丸焼き』。雨神の料理スキルを持ってしても+-0ってとこだぞ? でも何故だ? 何故他の審査員から文句が上がらない?
「って、みんなどん引きしてる~~」
このギャグ展開について行けない天界の皆様がそこにいた。創造神様を筆頭に皆さん唖然とした表情で凍り付いている。まあ、そうだよな。流石に、こんな手抜き料理が『料理対決』で出てくるなんて、誰も予想だにしないよな。
「き、気を取り直して試食してみましょう!」
「ああ、お願いする。皮を剥いて食してくれ」
みんな皮より目を剥いてるよ! だが、各審査員がおそるおそる肉を口に運ぶ。
「「「「「んま~~~~~~~~~~~~~~~」」」」」
「旨いのかよ!!」
「美味しい。美味しいです。ワイルドな見た目に寄らず、あっさりとしていて、且つ、口の中でとろけるように肉汁がジワァァと湧き出てきます~」
あんだけ文句言ってた火神が手のひらを返した。
どれ。と、手を伸ばそうとしたが、審査員以外は触れるなと怒られてしまった。
その後はつつがなく審査が進……まなかったんだよ。そう、良い意味で雨神の事を忘れていた。
「こ、これは!」
食物の神様が唸った。それもそのはず、そこには豪華絢爛と称す事しかできない、フレンチのフルコースが並んでいたのである。しかも、五人分。飴細工や、ソースのかけ方一つにおいても、非の打ち所がない、完璧な料理。こいつを『雨』の神様に留めておくことに、とてつもなく惜しい気がしてきた。だが、
「ん? フォアグラなんてあったか?」
創造神様が疑問の声を上げる。
「あ、それなら、今朝人間界まで買いに行ったんです」
何だよ!? 雷神と言い、こいつと言い、みんな自由かよ! フリーダムなんですか!? え? こちとら、あるものだけで作ったんだぞ!?
雨神の料理──作品を口にした審査員の面々が恍惚とした表情を浮かべている。
「わた、私、こんなの生まれて初めて食べるよ! うま~~~~~~~~」
火神に関してはもう泣いていた。号泣していた。そ、そんなに旨いのか? 唾をゴクリと飲んでみたが、それが俺の口に入ることは、万に一つも無いのだった。
その後は、やっと、平穏な、ツッコミを入れなくて良い時間が過ぎていった。ただ、俺を含め、雨神の圧倒的料理に圧倒された神々は既に諦めモード。お通夜の参列者のごとき料理人の顔は、自身の努力が水の泡となってしまった事を物語っていた。
「「結果発表~~~」」
「の、前に!」
「優勝賞品発表~」
「賞品は~?」
「人間世界の番組が見放題の! 47インチTVだぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああ」
うおおおおおおおおおおおおお! と、会場が沸く。これは……。欲しい!
「それでは、審査員代表『創造神様』壇上へどうぞ」
火神の指示に従い、創造神様が壇上へ上がっていく。そして、重々しく口を開いたのだった。
「え~……
誰もが雨神の勝利を確信していた。いや、正確には1人──雷神だけは期待を持った顔をしていた。
……優勝は! 雷神です!」
「ふっ! やっぱりな」
「ど、どういうことだよ雷神!? お前、何か事情を知ってるんだろ!? 話せよ」
「……水神よ、まだ分からないのか?」
「は?」
「見た目の奇抜さ、そしてそこに持たれる味への不安、恐れ。それを覆す味。このホップ・ステップ・ジャンプこそ! この! 対決の! 鍵だったんだよ!」
ばっばーんと、ちゃちなSEが鳴ったような気がした。
「な、なにい!?」
「くそっ! 私としたことが、優等生な振る舞いばかりに気をとられて、マニュアル通りの事しか出来なかったんだわ」
雨神がガチで落ち込んでいる。いや、これ、そういう小説じゃないんだけど。つか、優等生は雨降らせないよ? うん。
「私、修行し直してくるわ~~~~~~~~~~~~」
叫びながら、闘技場を飛び出して行く雨神。
いや、本当に何の話だよ。一応「な、なにい!?」とか合わせてはみたけどさ、置いてけぼり感が否めないよね。
あ、因みに、俺のカレーは4位でした。地神のドリアが3位であとはドングリの背比べです。
でも。ま、こんな平穏が続けば良いなぁって思うわけで。俺は俺なりに今を楽しんでいるのだった。
END
暴走紅茶復帰第一作!
水神が、神官連合の代表として決意を新たにするお話は、次回から始まります。次回から、第二章に突入する予定です。よろしくお願いします。