☆十五話☆
王子様は、私が落ち着いたのを確認すると、私を撫でるのをやめて私をじっ、と見てきました。
「な、なんですか?」
私は、若干目を反らしながら言いました。今まで前世も含めて、美形にこんなに見つめられることなんてありませんでしたから。
....誰ですか?今、『あぁ、人並みの目立たない平凡な容姿、もしくはそれ以下の容姿だったのか』とか、言った奴?聞こえてますよ?猫ぱんち喰らいたいですか?猫ぱんち嘗めないで下さいよ。決して肉球でポンッとかいう可愛いものじゃないんですからね。貴方の顔に綺麗な引っかき傷つくってやりますよ?
確かにっ!前世は、お世話にもそんな目立って可愛いとか綺麗とか言えない容姿でしたよ!!平々凡々な容姿でしたよ!!悪いかっ!!
だがな、猫になる前の今世の私は、自分でいうのもアレだけども、絶世の美少女だぞ。百人すれ違ったら、百人に振り向かれるような美少女なんだっ!!お前なんか足元にも及ばないんだからなっ!!月とスッポン以上の差はある!!
「ナナ?」
王子様に名を呼ばれ、私は、はっ、と我にかえりました。今は、私の容姿についてアレコレ語っている場合ではありませんでした。っていうか、王子様はずっと私をみていたのでしょうか?そうだったならば、恥ずかしすぎます。猫一匹分が入れる穴はどこにあるでしょうか?
「ナナ、可愛い。」
そう言って、王子様は再び私を撫で始めました。私は王子様に向かって
「そうですよ!!私は可愛いのです!!今頃、気づいたのですか?遅すぎますよ?」
と言おうとしたけれど言えませんでした。たとえ冗談のつもりでも言える雰囲気ではありませんでした。...いや、半分くらいは本気だったけれど。王子様の顔は、とても真剣な顔をしていました。
「あの...?」
私が、おずおずと声をかけると、王子様は私の存在を確かめているかのように触れました。
「ナナ、可愛い。」
王子様は、先程と同じ言葉を口にしました。やはり、顔は真剣な顔をしています。
「王子様?」
私が呼びかけると、王子様は微苦笑しました。
「僕の名前は、『王子様?』ではないよ。」
「それくらい分かってますよ!!でも、名前を知らないのだから仕方がないじゃないですか!!他になんて呼べば...「それに、僕はただの王子ではないよ。」
王子様が私の言葉に静かに遮りました。中々、強引ですね。っていうか、ただの王子様じゃないってどういう意味ですか?神に選ばれし者だの、勇者だの、中二病くさいことを言うつもりですか?王子様のその惚れ惚れするような声で言われると、何かのアニメのワンシーンのような感じがしますが。もし、生まれ変わって日本に住むことになったら、声優とかどうですかねぇ。
「ナナ。」
王子様に呼ばれ、私は思考の渦から這い上がってきました。っていうか、私の名前はナナじゃないんだけどなぁ...。まあ、今はそのことについてはいいでしょう。私は空気が読める猫ちゃんですから。
「ねぇ、ナナ。知ってる?」
王子様が、呟くように言いました。
「いえ、知りません。」
とか、
「なんのことでしょうか?」
などとは言いませんよ。私は、空気が読める猫ちゃんですから。王子様はきっと、私に返事を求めていないでしょうから。その証拠に、王子様は私から顔をはずして、窓の外を見ています。ここは、王子様が言葉を再び紡ぐのを待って何も言わないのが正解です。
「王族の中でも、」
王子様は、再び呟きはじめました。王族の中でも、なんでしょう?
王子様が私の方に顔を戻して口を開きました。
「人魚と結婚することができるのは、王となる人間だけなんだ。」
この時、私がどんなリアクションをとったのか、あまり覚えていません。ただ、ひとつ言えることは、気がついたら翌日の朝になっていたということだけです。




