003
装備の説明回……。って説明回ばっかやんけ! と言わずにお付き合いください……。
「あの、これを売りたいのですが……」
おどおどしている僕を訝しげに少女は見る。
僕は視線を外したまま道具袋をひっくり返し、大量の兎の毛玉を出した。
あまりの量に少女の顔が引きつる。
「すいません、すいません。少しが多いんですけど、所持重量もオーバーしているみたいで、でもNPCは買い取りをしてくれなくて……、安くても良いので買って下さい!」
無言で僕と商品を交互に見ていた少女はしばらくして大笑いを始めた。
「別に多い分には怒ったりしませんよ! 素材を大量買い取りできるなら、こちらも嬉しいですしね。それよりもここからは相談何ですが――」
僕は感じの良い少女の対応に胸を撫で下ろしつつも相談何ですが、と真剣な表情で人差し指を立てた少女にすぐさま表情を引き締め、息をのむ。
「貴方は見た所初期装備のようですね。そして私はこんなに大量の兎の毛玉を買い取るお金を持っていません。なのでこの兎の毛玉で貴方の装備を私が作りましょう。そして余った兎の毛玉を私が貰う。それでいかがでしょうか?」
布装備は僕の適正装備である。
願ってもない申し出に僕は二つ返事で了承した。
そして出来上がった装備を見つけてステータスが面を確認する。
胴:ラビットウェア VIT+13 AGI+7
足:ラビットシューズ VIT+6 AGI+7
セット効果:ラビットエスケープ AGI+5
「セット効果?」
僕が装備を確認しながら呟くと少女は満足げに残った兎の毛玉を道具袋にしまいながら答えた。
「胴と足を同系統の装備で揃えるとセット効果がつくんです。あとは耳、指、首も同系統で揃えるとセット効果がつくそうですが、私はアクセサリーは作れませんので……」
申し訳なさそうに少女が頭を下げる。
「あと、ラビットシリーズは初期村周辺で材料を集められる布装備なのですが、AGI上昇効果なので、実際は布装備を使う魔術師系の方にはあまり好まれないのです。稀にシーフ等の軽装系の方が装備する事はありますが……」
作ってから言う辺りが商売人魂を感じるが、VIT上昇値だけを見ても断然こちらの方がいいので僕としては大満足だ。
攻撃力より防御力優先のプレイスタイルの僕は防具は少しでも充実させておきたい。
「いえいえ、大満足です。それで……あのぅ……これを……」
僕はここへ向かう途中寄ったカード販売NPCから購入したフレンドカードを差し出した。
「今後も素材が集まったらお世話になりたいのですが……」
満を持して切り出した僕への少女の反応は意外にあっけらかんとしたものだった。
「ビーンさん……。それでは私のカードもどうぞ。申し遅れましたが、私はリティル。裁縫職人クラスのリティルと申します。以後、よろしくお願いします」
「リ、リティルさん。こちらこそ、よろしくお願いします」
僕はカードを受け取り、リティルの元を後にした。
――――――――――――――――――――
僕が次に向かった先は武器売場。
マイスターズの世界には多彩な武器が存在するが、僕が目をつけたのは銃である。
それも長距離射程を誇るスナイパーライフル。
掲示板ではリロードに時間がかかりすぎて使い物にならないとの評価が下されているが、臆病者であまりモンスターに近づきたくない僕が全武器中最大射程を誇る武器を扱いたいと思うのは当然である。
銃器を並べている露店の前に立ち止まり、品物を並べる。
けれど、ハンドガンやショットガン、マシンガンといった物は並んでいるもののスナイパーライフルがない。
露天商の強面のおじさんに勇気を振り絞って声をかける。
「あの……スナイパーライフルって……ないのでしょうか?」
「あぁん!?」
と何故か怒ったように返すおじさんに僕は驚き、身を縮める。
「……驚きすぎだろ。スナイパーライフルは売れねぇから作ってねぇな。こっちとしちゃあスキル経験値の多いスナイパーライフルは練習台としてはもってこいなんだけどな。幾分――」
スキンヘッドの頭を撫でながらおじさんが続ける。
「――要求STRが高くって、なまじ持ててもSTRがかなり高くねぇと発射時の反動を押さえられねぇ。連射もきかねぇから一発で仕留めるか、優秀な盾役がいねぇと接近されて詰んじまう。そりゃあ使えねぇわって話だ」
やれやれと顎ひげを撫でながらおじさんが右側を指差す。
「それを聞いてもまだスナイパーライフルを使いたいなら、ここの四つ隣の露店で取り扱ってるぜ」
僕はおじさんにお辞儀を一つして、おじさんに案内された店へと向かった。
座っていたのはゴーグルをつけた長身痩躯の青年。
「ん? 客か? 珍しい」
ぶっきら棒にそう言って立ち上がった青年は僕を品定めするように見る。
「あんた、魔法職か? 魔法職がスナイパーライフルなんてどうしようってんだ?」
「遠距離から攻撃したいと思いまして……」
「まぁ買ってくれるなら文句はねぇが、どれにする?」
「1銀貨で買える物を……」
僕はそう言って、1銀貨を差し出した。
1銀貨の価値は1000銅貨と同等であり、僕の所持金は1銀貨と120銅貨。
つまり1銀貨はほぼ全財産である。
「それなら、こいつがいいかな」
青年は並べてあった中から比較的小振りなスナイパーライフルを持ちあげた。
よく見てみると並べてあるのはすべてスナイパーライフルだ。
「装備して性能を確かめてみな」
スナイパーライフルを持ちながらメニューを開く。
両手:九十七式改 DEX+40 STR-8
「すごいDEX補正ですね」
得意げに青年が語り始めた。
「まぁ射撃攻撃力はDEX依存だからな。射撃武器の最大のメリットはDEX極振りで攻撃力も命中精度も上げられる点だ。普通の近接武器ならSTRとDEX両方上げていかないといけないから効率が悪いのさ。まぁ確かにスナイパーライフルの場合、STR上げとかねぇと反動で身体が持って行かれちまうが……後、何故かスナイパーライフルは装弾数が1に固定してあるから、一発撃つたびにリロードが発生しちまうが……、でもな威力は保障するし、射程も保障する! どうだ?」
ものすごい勢いでまくしたてられ、僕は思わず頷いてしまった。
怯える僕に「悪い、喋りすぎた」と一言謝罪をした青年はこう言った。
「でもな、俺様作の九十七式は特別なカスタム仕様なんだぜ」
もう数話説明回が続きますが、ご辛抱下さい。
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