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 辻馬車に乗ったり、歩いたり。

 何日もかけて王都に辿りついた。

 海に行こうと言っていたんだけれども、レツが花火を見てみたいって言うから。

 たまたま寄った街で聞いた、即位式の話。そして即位式の日に花火が上がるというのを聞いて、レツは花火を見なくては気が済まないと言い出した。

 確かに水竜の神殿では、花火なんて上げたこと無い。

 私も花火なんて数えるほどしか見たことが無いから、王都の、しかも即位式の日に上がる花火ってどのくらい凄いんだろうって気になったんだけど。

 でも、なんとなく立ち寄りたくなかったんだよね。

 その理由が何故なのかはわからないけれど、積極的には来たくなかった。

 王都に辿り着いて、何故「花の王都」と呼ばれるのか、とてもよくわかった。

 季節は春。

 そのせいもあるのかもしれないけれど、花が咲き乱れ、百花繚乱という言葉がとても似合う街だ。

 今まで旅してきた街にあった戦乱の傷跡や、リンが多分もたらした災害の爪あともどこにも無い。

 清涼感と、むせ返るような花の香りが街を包んでいる。

 そして街を分断する大河。

 この大河によって、王都の中の王宮とその他の部分が区切られているらしい。

 王宮の中ってどんな風になっているんだろう。

 ちょっと興味はあるけれど、入れるわけも無い。

 とりあえずは花火を見る為、レツと二人、即位式の日まで王都に滞在すると決めた。

 宿を出て、何をするわけでもなく二人で街の中を散策したり、買い物してみたり。

 とてもとてものんびりと時間が過ぎていく。

 終わりがあるとは思えないほど。


 即位式当日。

 持っていた服の中で一番レツが気に入っている服を着て、旅の間に伸びてしまった髪をセットして街へと出る。

 街行く人々がそわそわと、それでいてわくわくとした表情ですれ違い、自然と気持ちが高揚してくる。

「楽しみだね、花火」

 言うとレツが笑い返す。

「うん。一緒に見ようね」

 ぎゅっと繋いだ左手に力が籠められ、レツに微笑み返す。

 もう終わりの事は考えない事にした。

 今ここにいるレツ。そしてレツとの時間。

 それだけを大切にしていこうと思ったから。

「そういえばさ、新王の挨拶。顔見世みたいなの、あるらしいよ。見に行く?」

「えー。あんまり興味ないけど。レツは見たいの?」

 何が可笑しかったのかレツがぶっと吹き出して、口元を押さえる。

「あのさ、サーシャ。一応即位式見に来たんだよ。メインイベントだよ。見なくていいの?」

「だって本当にどうでもいいんだもん。っていうより、あんまり国王って近寄りたくない感じするんだもん」

「あー。前が前だしね。あんまりいい印象無いよね」

 空を仰ぎながらレツが言う。

 思い出してしまった。あのギラギラと脂ぎった嫌な顔。あの何とも形容しがたい気持ち悪さを思い出すだけで鳥肌が立ってくる。

「じゃあやめておこうか。どうせ混んでるだろうし」

「うん」

 頷いて、人の波が向かう方向とは反対方向に歩き出す。

 あのギラギラ先王と祭宮のウィズと血が繋がっている、国王になる人。

 そもそも先王とウィズが似ていないんだから、その人もきっと似てないのかな。でもそんなこと、どうでもいいや。

「花火、どこからだと一番よく見えるんだろうね」

 レツに問いかけると、レツはうーんと唸る。

「それは考えてなかったな。王都にいればどこからでも見えるのかと思ってた」

「どうせ見るなら、見やすいところから見たいよね」

 聞き返すとレツが頷き返す。

 見やすいところか。

 それ以前に、街側と王宮側、どっちから花火を上げるんだろう。それがわからない事には。

「あー。何でそんな基本的なこと、当日まで気が付かなかったんだろ」

 溜息交じりに言うと、レツが首を傾げる。

「王宮側と街側、どっちから花火上げるんだろうと思って」

「あー……」

 レツが目線を宙に泳がす。

「そんなこと考えもしなかったね」

 苦笑いを浮かべて、それからある方向にレツが指を指す。

「あの辺りのいかにも警備してますっていうのに聞けばわかるかもよ?」

 指差された方を見ると、確かに周囲に目を配っている兵士が等間隔で立っている。

 言われるまで警備の兵士がいることすら気付いてなかったよ。

「聞きに言ってみようか。おのぼりさん丸出しだけど」

「そこ気にするところ?」

 くすくす笑うレツの手を引いて、兵士たちに近付く。

「あの、すみません」

「はい」

「花火ってどの辺りで上がるんですか?」

 問いかけた兵士が首を傾げる。聞き方が悪かったのかな。

「あの、王宮側から上げるんですか。それとも街側からですか」

 聞き返すと、兵士がにっこりと笑う。

「川向こうからあげますよ。ですから顔見世を見に行くと良いですよ」

「わかりました。ありがとうございます」

 兵士に一礼してレツの顔を見上げると、レツがこくりと頷く。

「しょうがない。行こうか、サーシャ」

「そうだねー。あんまり見たくないなあ」

 クスクスとレツが笑い、くしゃっと頭を撫でる。

「今はボクがいるから大丈夫だよ」

 その言葉に胸の中があったかくなる。握った手から伝わる熱が、安心感を与えてくれる。

 レツが今ここにいてくれるなら、例えギラギラ先王よりももっと気持ち悪い感じでも大丈夫。

 温もりと笑顔が、不安を払拭してくれる。

 一緒にいれば、何も怖い事なんて無い。

 見上げてレツに微笑むと、包み込むような笑みが返ってきて嬉しくなる。

「ササ?」

 人波に乗って顔見世の行われる王宮のテラスが見える場所に行こうと踏み出した時、背後から声が掛けられる。

 こんなところに知り合いなんているはず無いのに。

 それに私のことをササって呼ぶのなんて、ごくごく限られた人しかいない。

 レツと顔を見合わせて、二人で同時に振り返ると、数年間会っていなかった幼馴染が兵士の制服に身を包んで立っている。

「やっぱりササだ。何でこんなところにいるんだ?」

 ガチャガチャと鎧の音を立てながら、王都で近衛兵になった幼馴染ルアが近付いてくる。

 こんなところで会うなんて。どうしよう。何て誤魔化そう。

 レツの方を見ると、レツが不思議そうな顔をしている。

「知り合い?」

「幼馴染」

 レツに問われて答えると、ふーんと気の無い返事が返ってくる。

「随分雰囲気変わったから一瞬わかんなかったけど、連れの人がサーシャって呼んだからやっぱりササなんだと思ってさ」

 数年前よりも精悍な雰囲気に変わっているルアに、どんな顔をしたらいいのかわからず、愛想笑いを浮かべてしまう。

「王都には観光? いやー。こんな所で会えるなんてなあ。ってことは、もう巫女……」

 咄嗟に両手でルアの口を塞ぐ。

「それはっ。その話はここではちょっと……」

 もし周囲に私が巫女経験者だってバレたら困る。変に騒動を起こしたくない。それに、本当はまだ巫女だし。

 絶対に誰にもその事は知られたくない。

「あー。そうだよな。ゴメンな。全然気付かなくて」

 ヘラヘラと笑うルアが能天気で、ガクっと身体から力が抜ける。

 そうだ。この人、そういう人だった。

 最近やたらと気の回るレツと行動していたから、全く気が回らないルアに若干苛立ってしまう。

 近衛なんだから、何が機密事項だとかわかっていそうなものなのに。何で迂闊に「巫女」なんて単語口に出すかな。ちょっと考えれば、その単語が引き起こす様々なトラブルくらい想像がつきそうなものなのに。

 巫女になった時だって、ウィズは巫女になるための儀式に出るというのは隠していたじゃないの。

 そういう事の意味だとか考えれば、すぐにわかりそうなものなのに。もうっ。

 昔からそうだけど、ルアといるとイライラする事が多いのよね。

「それよりも、この人は?」

 問われて、ルアの視線の先にレツがいることに気付く。

 斜め後ろに立つレツに視線を送ると、首を傾げて微笑む。

 でも優しい笑みじゃない。どっちかというとニヤリという形容がつきそうな感じ。

 試されてる、私。

 何て答えるか、面白がってる、絶対。

 水竜ですってバカ正直に答えるわけにもいかない。まあ言ったところで信じるわけも無いけれど。

 じゃあなんだろう。同行者、じゃないよね。

 わざとらしく腕組みをしてこちらを見るレツに、心の中で悪態をついた。

 意地悪。

 どうせ聞いてるんでしょ。意地悪。意地悪っ。

 仲間、知り合い、うーんそういう感じじゃない。友達とか親友っていう形容も当てはまらない。

 考えてみたけれど、答えは一つしか出てこない。

 それが相応しい言葉なのかわからないけれど。

「こ、恋人?」

 言って、顔が真っ赤になって熱くなったのがわかる。

 恥ずかしくって、レツの顔なんて見られないよ。

「何で疑問系なの」

 苦笑交じりに言うレツを正面から見る勇気はない。

「だって……他になんて言ったらいいのか、わからなかったんだもん」

 ポンポンと頭を撫でられるので、レツの顔を見上げると満足そうで楽しそう。

 悔しい。やっぱり恋人なんていうんじゃなかった。

 嬉しい半分、面白がってるの半分だもん。この顔。

「恋人か。そっか」

 ルアが目を細めて笑う。

「雰囲気変わったもんな。昔みたいにガサツな感じしないし、着てる服とかも女の子らしい感じだし。きっとその人の影響なんだな」

 ガサツとか、女の子らしいとか、すっごい失礼な言い分じゃないの。

 そっか。ルアに私はそんな風に思われていたのか。

 少なからずショックだわ。これでも一応ルアとお付き合いしていた時期もあったのに、酷い言われようじゃない。

「そう? そんなに変わったかな。そんな事ないと思うけど」

 悔しいからそう答えた。

「そうかな。俺には変わったように思えたけど。その人の影響じゃないとしたら、えっと、その、篭っていた数年間で変わったのかな」

 ルアなりの精一杯で神殿とか巫女といった単語は隠したらしい。

 どちらにしてもレツが私を巫女に選んだからって事かな。

「そんなに昔は無頓着だったかな、そんな事ないと思うんだけど」

 それなりに恋する乙女だったわけで、色々気を使っていたんだけどなあ。

 あんまり確かに手持ちの服とかなかったけれど、その中では一番いいものをデートの時には着たりしてたし、お化粧だってそれなりに出来る範囲でしたりしてたのに。

 そういう気遣いは伝わってなかったって事ね。最悪。

「ああ、そうだ。俺、もう村には帰らないことにしたから」

 唐突な切り出しに、目が丸くなる。

 何ですって?

「こっちで結婚したんだ。子供も生まれてさ。もう一人夏に生まれるんだ。だから村には帰らないから、村に戻ったらみんなによろしく」

 はいー?

 ほんの数年前に私に結婚してとか言わなかったっけ。

 いや、待つなって言ったの私なんだけれど、切り替え早いな。

 思わず苦笑してしまうと、ルアも笑う。

「ササが幸せそうでほっとしたよ。なんか俺カッコつけて色々言ったから、なんか気まずくてさ」

「気にしてないから、ルアはルアで幸せになってね」

 本当にここ数年、正直思い出した事もあまりなかったし。

 ルアが王都に行っちゃうって涙を流したのは何年前なんだろう。

 その頃はルアの事がすっごく好きだったと思うんだ。

 それなのに、今はあっさり結婚や子供が出来たことを祝福できる。

 そうやって徐々に「誰かを好き」という気持ちは風化していくのかな。

 レツと離れて何年かしたら、やっぱりルアの事みたいに思い出になるのかな。

 でも今はちょっと考えただけでも、胸がぎゅーっと締め付けられる。思い出になんてしたくないのにな。

 暗澹たる思いに溜息をつくと、レツがトントンと肩を叩いて目を細める。

「行こうか、サーシャ」

 全部わかってるのに、それでいてレツは笑うのね。

「うん。行こう。じゃあね、ルア」

 精一杯の笑顔を向け、ルアに別れの挨拶をすると、ルアがぎゅっと眉をひそめて険しい顔をする。

「俺、本当に中途半端でゴメンな。でも俺はサーシャの味方だから。困ったら頼ってこいよ」

 その気持ちだけで十分嬉しかった。

「うん。ありがとう。私とルアが幼馴染なのは一生変わらないから。じゃあ、元気でね」

 手を振ってルアに背を向け、レツと手を繋ぐ。

 コツンと頭をレツの肩に寄せると、レツの手がくしゃくしゃっと頭を撫でる。

 撫でた手が離れていくので目を上げると、レツがふっと溜息をつく。

「甘ったれ」

 甘ったれでいいもん。レツがいてくれるなら。


 人波に流されるように、王宮と街を分かつ大河の傍までやってくる。

 せり出すように台座が王宮側から作られていて、恐らくそこに新王はやってくるんだろう。

 他の人たちに倣って、地面に腰を下ろしてその時を待つ。

「いつ頃始まるのかな」

 座ってからかなり時間が経つので、足が痺れたりして頻繁に座りなおしたりしている。

 聞いてもしょうがないとわかっているけれど、レツに問いかけてしまう。

「さあね。夜までには始まるんじゃない? 顔が見えなくても困るだろうから」

 空は一部が朱色に変わり始めている。

「じゃあそろそろ始まるのかな」

「かもね」

 そっけない返事をして、レツは目を閉じてしまう。

「眠いの?」

「んー。ちょっとね」

 本当に眠ってしまったのか、声を掛けてもレツが一切反応をしない。

 いつの間にか頭を私の膝に乗せて、寝息を立て始める。

 疲れてるのかなと思って、それ以上声を掛けずに空を仰ぎ見る。

 リンに会って以来、赤いものを目にするとリンのことを思い出す。

 そういえばリンは花火なんて見たことあるのかな。それともあんまりそういう事には興味ないのかな。

 まだリンがどういう性格なのかもよくわからないから、想像もつかない。

 リン。紅の竜。

 ちょっと怖いけれど、でも綺麗な人だったな。


 --我を人扱いするな。サーシャ。


「リン!?」

 その声に驚いて声を上げてしまうと周囲からの視線が一斉に集まるので、ペコっと頭を下げる。騒がせてしまって申し訳ないし。

 コホンと咳払いをして誤魔化し、心の中でリンに語りかける。


 どうしたの。急に声がしたからビックリしたよ。


 --そちが望めば、いつでも我の声を聞くことは容易いぞ。もっとも意識が水の方に向いているから我の声には気付かないのかもしれぬな。ああ、今は寝ているのか。成程な。


 一人納得した様子のリンに首を傾げると、頭の中に声がまた広がっていく。


 --我に意識が向いているのはそのせいかと思っただけだ。そちは今何をしている。


 王都で戴冠式を見るの。新王の顔見世が終わると、花火が上がるのよ。リンは花火って見たことある?


 ふっと鼻で笑われたのがわかる。

 やっぱりくだらない事を聞くんじゃないって思われたかな。


 --我は炎を操れる。別にわざわざ火薬を空に飛ばさんでも、やろうと思えば今そこで花火の一つくらい披露するぞ。


 ゴメン、私が悪かったからやめてっ。

 一歩間違えたら惨事が起こしそうで本気で止めると、リンがふふっと笑う。


 --折角だからそちの目を通して、戴冠式も新王も花火も見てみることにしよう。また用があれば呼べ。出来ればこんなくだらない事で呼び出すな。


 すーっとリンの気配が遠ざかったいく。

 試しに名を呼んでみたけれど、何も返事は返ってこない。そういうところはレツと同じなんだな、気まぐれで自分の言いたいことを言い終えたらいなくなってしまう。

 別に呼び出したつもりなんてないのに、勝手に出てきたんじゃない。

 そんな事言い返したら、痛い目見そうだから言わないけど。

 顔を上げ、茜色に染まる空を眺める。

 リンの紅とレツの蒼。まるでその二つが混ざり合っているみたい。

 何となく人の気配がさざめき、これから何かが行われそうな雰囲気が漂ってきているけれど、視線を動かしてレツの顔を見ると深く眠ってしまっていて起きそうな気配はない。

 このまま起こさないほうがいいのかな。花火が始まる前に起こせばいいかな。

 でも、何も声を掛けなかったらその事を後から言われそう。

「レツ。そろそろ始まりそうだよ」

 耳元で囁くように告げると、声がざわめきの中に溶け込んでいく。

 レツの耳には届いたのか届かなかったのか、ピクリとも動かない。

 空気の玉が弾けるように、うわっと歓声が一斉に上がる。

 顔見世の為に作られた台座に人が現れたんだ。

 新王かな。

 身を乗り出すように見て、米粒みたいに小さくしか見えない人に目を凝らす。

 ウィズ?

 幾人かの人の中に、見知った顔がいる。

 さーっと全身の血の気が引く。

 豪奢な服を着て、観衆の歓声を一身に浴びても怯まずに微笑みを浮かべている。

 すとん、と体の力が抜ける。

 そっか。そうだよね、王族だもんね。祭宮だもんね。

 周囲の熱狂の中、何故か私だけは興奮する事も出来ずに、台座から目を逸らす。

 わーわーという歓声が耳に痛いくらいなのに、今は何故か耳よりもずっと胸が痛くて苦しい。

 あの人は対等に語り合えるような人じゃない。

 今までも十二分にわかっていたのに、王宮と人々を分断する大河が、その事を深く認識させてくれる。

 右手の親指に嵌まった指輪を見つめ、もう一度台座に目を向ける。

 その中央に王冠を頭に載せた、絢爛豪華な衣装に身を包んだ王が立ち、王から数歩下がったところにウィズがいる。

 王の顔見世のはずなのに、どうしてか私にはウィズしか視界に入らない。

 見なきゃ良かった。そうしたら気付かないで済んだのに。生きる世界が違いすぎる人だったって。

 ぎゅっと手の中に、胸元にある石を握り締める。

 立派な巫女になれるようにって、ウィズが思っていたの? それともそう思ったのは祭宮なの?

 庇護者になろうと言ったのは祭宮? それともウィズ?

 レツの姿が水竜と人間の二つに見えるように、ウィズもまた祭宮カイ・ウィズラールとウィズ、全く異なった二人に見えるよ。

 ふわっと伸びてきた手に頬を撫でられ、視線を落とすとレツと目が合う。

「おはよう」

 笑顔で言うレツに笑いかけると、レツが視線を台座へと向ける。

「ああ、始まってたんだ。今度の王様は前の王様よりもガツガツしてない感じだね」

「え。あ、うん。そうだね」

 言われて初めて新王の容貌に目を向ける。確かにレツが言うような感じはしない。

 視線を感じてレツの方へ目を向けると、レツがじーっと目を覗き込んでくる。

「何?」

「いや。何でも無いよ。アレの匂いがするなと思っただけだよ」

 アレって、リンの事かな。

「さっき、リンが私の目を通して顔見世を見るって言ってたからじゃないかな」

「そう。本当にキミって感応力高いよね」

 感応力?

 そう言われても、自分では特別何かをしているわけではないからよくわからない。

 レツの声が聴こえる。レツの姿が見える。リンの声が聴こえる。

 だけど意識的に何かをしているわけじゃない。

「ボクが……」

 レツが何かを言いかけた時、ドンという地響きがして空を見上げる。

「花火だ。ねえ、花火だよ、レツ」

 レツの腕を揺すって空を見上げる。

 空に咲く大輪の花を、ドンドンという地響きと沢山の歓声の中でレツと二人で首が痛くなるまで見上げ続けた。

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