反感
髭を扱きながら、長老は眉を下げ、考え込んだ。
「水虎さまが、のう……」
つぶやく。
巨大な海岸紅杉の森に、急ごしらえの長老の小屋が掛けられていた。その内部に枯れ草を積み上げ、長老が胡坐をかいている。
背後には数人の河童が、疑いの目で三郎太と時太郎の二人の背中を見つめていた。
「長老さま。三郎太はともかく、時太郎が水虎さまの〝お告げ〟を耳にしたとは、とうてい信じられませんな」
一人が、いかにも不快そうに声を上げた。声には、ありありと不審の心情が滲んでいる。もう一人が、それに同意した。
「そうじゃ! こんな半人前……いや〝土掘り〟の童っぱに、われらの守り神の水虎さまが直々に声をお掛けになるとは、夢にも考えられぬことじゃ! おそらく、その〝土掘り〟めの作り事じゃろうて!」
時太郎とは呼ばずわざと〝土掘り〟と呼びかけている。
あれから河童たちの、時太郎に対する態度は、ぎすぎすしたものとなっていた。皆、ふとしたことでも時太郎に辛く当たるようになっている。
長老の前に座る時太郎は、強いて河童たちの敵意に満ちた視線を無視していた。
──おれは河童だ! 〝土掘り〟なんて呼ぶな!
大声で叫びたい。だが、必死に我慢している。
長老は杖にすがって立ち上がった。
「ともかく、水虎さまの〝声〟を確かめてみなくてはなるまいて……」