水虎
時太郎はゆっくりと父親の後を尾けていった。
ふらふらと、頼りない足取りで父親の三郎太は滝壺へ歩いていく。その先に聳えているのは、水虎さまの像である。
ざあざあと、水飛沫が像を洗っている。
時太郎は、どきりと立ち止まった。
なんと!
水虎さまの目が光っている。
ぼんやりと、祖母緑色に光っていた。
三郎太は立ち止まり、水虎さまを見上げた。その視線は、水虎さまの目に向かっている。
しばらく三郎太は、そのまま微動だにしなかった。
が、不意に三郎太は時太郎を振り向いた。
「時太郎、そこにいるんだろ? こっちへおいで」
穏やかな声だった。時太郎は即座に、それまで隠れていた岩陰から飛び出し、三郎太の前へ進んだ。
「父さん?」
三郎太は微かにうなずいた。
「時太郎、たった今、水虎さまの〝お告げ〟があった……」
父親の言葉に、時太郎は仰天した。
「〝お告げ〟?」
ああ、と三郎太はうなずいた。
「お前にも聞こえる筈だ」
意外な父親の言葉に、時太郎は「えっ?」と聞き返していた。
「おれに?」
「そうさ」と三郎太は水虎さまの像を見上げた。釣られて、時太郎も見上げる。
巨大な、水虎さまの像がのしかかるように聳えている。中天には双つの月がお互いの縁を接し、見る見る藍月が紅月を蝕すかのように覆い始めている。
ついに、藍月が紅月を完全に隠した。一瞬、まわりが深い青――瑠璃紺青色に染まる。
その瞬間──
──時太郎……
深い、穴の底から響いてくるような〝声〟が、時太郎の全身を満たしていた。




