【水話】
時折、こーん、こーんという音が水中から聞こえてくる。
河童の【水話】なのだ。この【水話】を使って河童たちは水中の様子を〝見る〟ことができる。
こーん、こーんという単調な音が、きゅきゅきゅという急調子に変化した。おそらく、水中の獲物を探しているのだろう。
──時太郎のやつ、また喧嘩ふっかけてきたな……。
──馬鹿なやつ……〝土掘り〟のくせして、河童の力に敵うわけねえのにな!
けけけけ……と【水話】で河童たちは会話をしている。
明らかに、水中にいる時太郎に聞かせる狙いだ。どうにも堪らなくなって、時太郎は水中から顔を出した。
ざばりと水から上がると、いつもの自分の場所に腰を下ろした。ここは昼間中、日が差して暖かい。
河童は暑さが苦手で、あまりここには来なかった。そのため、時太郎専用の場所となっていた。
頭の中に〝土掘り〟という言葉が木霊していた。
〝土掘り〟とは、河童が人間を馬鹿にするときの呼び方である。河童淵に近い村で、人間が一生懸命に畑を耕している姿から、そう呼んでいるのだ。
時太郎は腰かけている場所から、沼の水面を覗き込んだ。水面に、自分の顔が写っている。
ぼさぼさの蓬髪。眉は太く、四角い顎の形をしている。両の目元にはっきりと判る痣があり、それが時太郎の表情に形容しがたい迫力を与えていた。一年中、ほとんど裸で暮らしているため、肌は真っ黒に日焼けしている。
いったい、自分は河童なのか人間なのか……。