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狂弥斎
破槌城には、広大な地下室があった。
普通、地下室は兵糧や武器を備蓄したり、あるいは敵の捕虜などを監禁するために存在する。それゆえ薄暗く、狭い。
しかし、破槌城の地下室ばかりは破格の規模であった。
天井は高く、広々としている。部屋の大きさは、大広間と比べて、少しもひけをとらない。
その地下室には、奇妙な機械が鎮座していた。
材質は木造で、移動させるための車輪と、操作するための棒が突き出している。太い木造の腕が突き出し、それには太い綱が幾重にも巻き付いていた。
投石器であった。
上総ノ介と藤四郎が姿をあらわすと、投石器の陰から一人の男が素早く立ち上がり、出迎えた。
襞のついた襟飾り、長袖、襦袢のような下穿き。足には革靴を履いている。
南蛮人であった。
長い手足をした、痩せこけた男だった。現れた上総ノ介に対し、南蛮人はぎろりと視線を送る。
鳶色に近い瞳は、地下室を照らす火明かりに猫の目のように光った。南蛮人は、狂弥斎と自称していた。それが本名なのかどうなのか判らない。