藤四郎
「上様……」
上総ノ介は声の方向を見た。
貧相な顔つきの男が、上目がちに立っていた。細い顎。口元にはまば疎らな口髭を蓄え、唇からは、四角い前歯が覗いている。
「鼠か……何か申したいことがあるのか?」
その男は、まさに鼠そっくりな顔つきをしていた。髪の毛は若白髪に灰色に染まり、口元に蓄えた髭は、鼠のひげ髯のように疎らで、長い。
さらには、口元から覗いた四角い前歯が、さらに男の顔を鼠そのものに見せていた。木本藤四郎であった。
かつて啄木鳥の甚助を家来にしていたが、時姫の一件で出し抜かれる形になり、同格の侍大将となってからは、深く根に持っている。
「よろしいので、あのような胡乱な者を、このような重大な使命に……?」
くくっ、と悪戯っぽい顔つきになって上総ノ介は笑った。
藤四郎の真面目くさったしたり顔を見ると、つい若い頃の癖が出る。
「そちは、これがそれほど重要なものと見るのか?」
主人の意外な言葉に、藤四郎は呆気にとられた。
「どういうことでござりましょう?」
「金鉱など、どうでもよい」
「えっ!」
「金鉱など、どうでもよいのだ。金が欲しければ、いくらでも方法はある」
「し、しかし、金鉱が見つかれば……」
「そう……、金鉱が見つかれば、確かに目出度い。しかし金鉱が見つかったとしてもじゃ、金を採掘して精錬するまで、手間暇がかかろう? その間、京の公卿どもは待ってくれぬわ! ま、将来のために金鉱を探すのは良い。じゃが、すぐにどうこうできるわけでもないからの」
「それなのに、なぜ、甚左衛門めに、あのような任務を?」
「余の憂慮するのは、いくら河童どもとは申せ、余の差し向けた山師を手玉に取ったということが問題なのじゃ。ま、ちと、彼奴らに懲らしめを与えるほどのことじゃ。甚左衛門には、うってつけであろう……」