意見
かつて啄木鳥の甚助と名乗っていた男である。今は木戸甚左衛門と名を変え、上総ノ介の侍大将の一員となっている。時姫の一件で出世を果たしたのだった。
正式な家来となった現在では、かつての遊び人風の風体は改め、月代はきちんと剃って、青々とした頭を見せている。
「今の報告、そちは何と見る?」
はっ、と甚左衛門は頭を下げ、ちょっと首をかしげた。
「やはり幻術かと……」
ぱちり、と上総ノ介の扇子が鳴った。
「そちは以前には、素破、乱破を稼業としておったな。そのような幻術に、心当たりはあるか?」
「はて、幻術にも色々ございまして、それがしには、どのようなものか、ちと判別しかねます。しかし、幻術は幻術。打ち破ることはできましょう」
上総ノ介の顔が綻んだ。
「そちならば、河童の幻術を負かすことができると申すのだな? 面白い、では、そちに河童淵の探索を任そう。すぐに手勢をまとめ、河童淵に向かえ!」
はーっ、と甚左衛門は平伏した。
「では、早速に……」
膝を浮かし、退出する。
さっと上総ノ介は、手にした扇子をぱらりと開いた。
「者共、下がってよいぞ!」
その場にいた家来たちは次々と頭を下げ、退出していく。