長老
時太郎とお花は河童淵に戻ると、すぐ長老を探した。
沼を取り囲む崖には所々、穴が開いている。穴の一つ一つが河童たちの住処になっている。
長老の住まう穴は、沼を見下ろすやや小高いところに突き出した場所にあった。崖に刻まれている坂道を登り、二人は長老の住まいを訪ねた。
穴の入口には、太った大人の河童がごろりと横になっている。河童の周りには胡瓜や、魚が散らばり、手を伸ばして時々口に入れている。二人が近づくと、太った河童はじろりと見上げた。
お花は飛び切りの笑顔を作り、小首をかしげて話しかけた。
「こんにちわ! 長老さま、いらっしゃるかしら?」
河童は無言で頷くと、顎をしゃくった。お花の笑顔には興味も一切ない、といった顔つきである。
お花は肩をすくめた。
二人が中へ入っていく時も、河童は再び胡瓜を齧っていた。
「あれで、長老さまをお守りする役目が果たせるのかしら?」
お花は気分を害したらしく、口を尖らせている。
「さあね」と時太郎は相手にならない。
長老の住まいは冷んやりとしている。穴の内側には、びっしりと苔が生えていた。
奥深くが一段ほど高くなっていて、そこには柔らかな枯れ草が積まれてある。枯れ草の中に埋もれるように、一人の老いた河童がちんまりと座っていた。
相当の年齢らしい。肌は真っ白に色が抜け、同じ白い色の髪の毛は全身を覆うばかりに伸びている。眉と髭も伸び放題になっていて、白い毛に全身が埋もれていた。
二人が近づいてきても、河童の長老はぴくりとも動かない。まるで置物である。