人とオオカミの間(あいだ)
ここは人狼学園。その昔、人間という種族が滅びたあと、今や世界は人狼のものとなった。
「ねぇ、知ってる? 学園寮に、人間が紛れ込んでるっていう噂」
「人間⁉ あの、一年じゅう発情期が続いてるっていう伝説の生きもの⁉ 怖ーい!」
この学園に限らず、種族は全員が女性であり、不死に近い生命力と若さを皆が持ち続ける。繁殖の必要もなく、牙や鋭い爪もなくなって、彼女たちは平和に暮らしていた。
「雑食で、なんでも手当たり次第に、いろんな意味で食べちゃうエロい生物よね。菜食主義者の私たちには信じられないわ」
「なんとかしないと。会長、どうしたものでしょう?」
学園のあちこちでは、面白おかしく人間の噂が語られている。生徒会室では会議が行われていて、副会長が会長へと意見をあおいだ。
「落ち着きなさい。騒がれているのは、最近になって転校生が学園に入ってきたからでしょう。むやみに吊るし上げて、その子を考えなしに排除するのは恥ずべきことです。たとえ彼女が人間であろうとも、まずは話をして、理解し合うべきではないですか」
「ふーん、そういう会議があったんだ。それで生徒会長さまが直々に、私の部屋まで来てくれたってわけ? ありがたいなぁ」
「ええ、魔女狩りみたいな裁判ごっこは避けたかったので。私たち人狼は、人間を怖がっています。そういう恐れを持って貴女を取り囲めば、けっして良い方向へ、ものごとは進みません。もし貴女が悪人で、私が殺されるとしても、そのときには私の犠牲によって貴女が裁かれます」
今は夜で、学園寮の就寝時間である。週末であり、明日は授業もないので、じっくりと話し合うことができる。お互いにパジャマ姿であった。
「決死の覚悟だねぇ、ちょっと誤解があるんじゃないかな。私の手を見てよ。貴女たちと、なにか違う? 鉤爪もないし腕力だってない。誰も傷つけないわ」
転校生の彼女が、手を伸ばして生徒会長の頬をなでる。優しい手つきだった。
「だから、お願い。どうか私を拒まないで……」
やや涙ぐんだ声で、転校生が顔を近づける。生徒会長は彼女を拒まなかった。
その後、生徒会長によって、学園の噂は正式に打ち消されて。それからの学園では、今まで以上に生徒たちが仲睦まじく過ごすようになった。そこに生徒会長と転校生の影響があったかは、誰にもわからない。
私たちはそれぞれが違う存在である。そして違うもの同士が仲よくなることには、なにも問題はない。




