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HERO  作者: キタノユ
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プロローグ:ミッション

 夜明け前のポート・ベリタス港湾地区、コンテナヤード。

 巨人の積み木のように乱雑に積まれたコンテナの群れを、銀色の針のような雨が無数に打ちつけていた。


 指定された倉庫の周囲には、すでに市警のパトロールユニットが音もなく展開し、人間とアンドロイドの警官たちが静かに包囲網を維持している。


 その輪の中心、大型装甲車の内で、特殊部隊隊長《SWAT》グラント・ドノヴァンはタブレットの映像を凝視していた。ヘルメットの下からのぞく黒に近いブラウンの瞳は、寸分の揺らぎも見せない。


 四十を手前にした男の貌には、厳しい任務が刻んだ微かな皺と傷、そして瞳に熾火おきびの光が同居していた。身長は百八十に満たないが、分厚いタクティカルギアの上からでもわかる、贅肉のない機能的な体つきは、日々の過酷な訓練の賜物だ。


「……状況は」

 低く、静かな声が車内に響く。


「偵察ドローンより最終報告。倉庫内の武装勢力は三名。熱源の位置、変わりません」

 部下の報告に、グラントは頷きもせず、画面に表示された倉庫の三次元マップを指でなぞる。


「アルファは正面から。ブラボーは側面コンテナ裏より侵入。突入は十秒後」

 グラントの簡潔な指示が、隊員たちのヘッドセットに飛ぶ。


 彼の指揮に無駄な言葉はない。

 予測、判断、命令。

 その全てが、流れる所作の一部として完結している。


 指先でカウントダウンを開始すると、グラントは自らもライフルの安全装置を外し、装甲車のドアに手をかけた。


「ブリーチ!」

 カウントがゼロになると同時に、倉庫の扉が轟音と共に内側へ吹き飛んだ。閃光弾が投げ込まれ、網膜を焼く白い光と鼓膜を突き破るような炸裂音が内部で炸裂する。


 間髪入れず、黒い戦闘服に身を包んだ影の集団が、統率された動きで倉庫内へ流れ込んだ。怒号と、抵抗むなしく床に叩きつけられる男たちのうめき声。


 全ては、三十秒にも満たなかった。


「クリア」

 グラントが硝煙の匂いが立ち込める倉庫に足を踏み入れると、部下たちがすでに五人の男を取り押さえている。


「確保」

 短く本部に報告を入れ、グラントはゆっくりとヘルメットを脱いだ。

 雨に濡れた夜明け前の冷気が、汗の滲む額に心地よかった。


「お見事です、隊長」

 副官が傍らに立ち、安堵の息を吐きながら言った。

「今回も完璧でしたね」

 グラントはただ頷き、部下たちが手際よく容疑者を確保していく様子を鋭い目で追う。


「全員無事か?」

「はい。味方に死者、負傷者ともにゼロです」


 その言葉に、グラントの肩からほんのわずかに力が抜けた。

 彼にとっての「作戦成功ミッション・コンプリート」とは、つまりそういうことなのだ。


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