第五話 冬眠のすすめ
寝巻にローブを引っかけたレオナルドが階下に降りると、その場にいた全員が一斉に振り返った。
燭台を手にしたアダムを、三人の男たちが取り囲んでいる。一人は貴族のような身なりの初老の男。あとの二人はその従僕といったところか。
「なんだ、おまえは」
従僕らしき二人のうち、若いほうが居丈高に尋ねた。
「家主だ」
簡潔すぎる答えを放って、レオナルドは「おい」とアダムに目を向けた。
「こんな連中を家にあげるな」
すみません、とささやくようにアダムは詫びた。蝋燭の灯りに照らされた顔は白く固く、ひどく作り物めいて見えた。
「無礼だぞ、貴様……」
声を荒げた若者を、主人らしき男が身ぶりで止めた。銀髪を綺麗に撫でつけたその男は、尊大な物腰でレオナルドに向き直った。
「おぬし、魔道士か。このお方を知らぬとは、たいした身分の者ではなかろうが、まあよくやった。褒美を……」
「うるさい。出ていけ」
にべもなく言い放ったレオナルドに、もう我慢ならんとばかりに若者がつかみかかってきた。若者の指がレオナルドのローブに触れかけた、そのとき、
「なっ……」
驚きの声が、誰の口から漏れたのかはわからない。それを確かめる間もなく、三人の姿がかき消えた。
グエッ、と床で何かが鳴いた。アダムが燭台を床にかざすと、小さなカエルが三匹、光の輪から跳ねて逃げた。
レオナルドは壁に立てかけてあった箒を手にとり、床を跳ねまわるカエルを外に掃き出した。バタンと大きな音を立ててレオナルドが扉を閉めると、アダムは我に返ったように顔を上げた。
「あれは、これからどうなるので……」
「さあな。どこかで冬眠でもするんだろ」
カエルなだけに、と言い捨てて二階に戻ろうとするレオナルドを、アダムは呼び止めた。
「待ってください。お話があります」
「ぼくにはない」
取り付く島もない、という表現のお手本のような態度だった。
「ぼくも寝る。春まで起こすなよ」
「眠れるのですか」
レオナルドの足が止まった。
「知っています」
ひっそりと、アダムは笑った。
「あなた、夜はほとんど眠れていないのでしょう」
振り向いたレオナルドの目の下には、いつもと同じ濃い隈が浮いていた。
青白い肌に赤みが差しても、棒きれのようだった手足に肉がついても、その黒だけは変わらずレオナルドの顔に染みついていた。まるで古い呪いのように。
「あなたがそうなったのは、わたしのせいです。わたしは……」
ほんの一瞬口ごもり、アダムはその言葉を吐き出した。
「わたしが、あなたを壊しました」