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第三話 じゃがいも好きのご主人様

 アダムがレオナルドの家にやってきて半月がたった。その半月で、レオナルドをとりまく環境は一変した。


 まず、ごみ溜めのようだった家が綺麗になった。オズヴァルドに連れて来られたその日のうちに、アダムは家中のごみを集めて庭で焚き上げた。文句を言ったレオナルドは風呂に放りこまれて服ごと洗われた。


 翌日からも、アダムは精力的に働いた。天井の煤を払い、床にモップをかけ、窓を磨いた。雨漏りしていた屋根を修繕し、ぼうぼうだった庭の木々を刈りこんだ。

 なお、草むしりだけは渋々レオナルドも手伝った。昔レオナルドが植えた(まま忘れていた)マンドラゴラが伸び放題だったからだ。


 作業を終え、再び浴室へ放りこまれたレオナルドが泥を落として戻ってみると、新たに植えられたナスとトマトの苗の間でマンドラゴラが気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた。


 アダムの働きでレオナルドの家は三年ぶりに息を吹き返したが、見ちがえたのは屋敷だけではなかった。家主のレオナルドもまた、ずいぶん面変わりした。

 アダムがこしらえる料理を消費しているうちに、がりがりだった手足にはうっすらと肉がつき、青白い肌には赤味が差すようになった。ばさばさだった黒髪も本来の艶を取り戻した。もっとも、これはアダムの根気強い「洗濯」の成果かもしれないが。


「おい、人形」


 その日、朝食に出されたじゃがいものパンケーキをつつきながら、レオナルドは家政夫に声をかけた。


「アダムです。ご主人様」


 二枚目のパンケーキをひっくり返しながら、アダムは律儀に訂正した。


「うるさい。人形の分際で口ごたえするな。それよりおまえ、なんでそんなに料理ばっかりしてるんだ」

「料理ばかりしているつもりはありませんが」


 掃除も洗濯も、なんなら繕い物までこなす家政夫はやんわりと反論した。


「一日に三度はやりすぎだろう」

「一日に三度は普通です」

「多すぎだ。量も多い。ぼくはそんなに食べられない」

「ではわたしがいただきましょう」


 パンケーキを皿にとり、アダムはレオナルドの向かいに腰かけた。

 オズヴァルドの最高傑作は食事もできる。まるで本物の人間のように。


「林檎のジャムがあればよかったのですが」

「合うのか? それ」

「とても」

「じゃあ買ってきたらいい」


 レオナルドはローブの隠しから金貨をつかみ出してテーブルに置いた。二日前に売ったマンドラゴラのおかげで懐は暖かい。

 金貨の小山を前にして、しかしアダムはめずらしく渋い顔をした。


「多すぎます」

「そうか?」

「そうです」


 アダムは金貨を一枚だけ取り上げ、のこりはレオナルドのほうへ押しやった。


「他に欲しいものがあれば買ってきますよ。夕飯は何がいいですか」

「べつに。芋があればそれでいい」

「じゃがいもがお好きなのですか」


 首をかしげながらもアダムがその晩作ったのは(ます)とじゃがいもの香草焼きで、やはり量が多かったため半分以上はアダムが平らげた。


 だから作りすぎなんだとこぼすレオナルドに、アダムはただ微笑を返した。


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