第二話 校長先生の自信作
「久しぶり、レオ君。あいかわらず不健康そうだね」
散らかり放題の居間で、金髪の美少年はレオナルドに笑いかけた。
「……お久しぶりです。校長先生」
魔道学校の校長オズヴァルドを前にして、レオナルドは隈の浮いた目を瞬いた。徹夜明けの視界に映る美少年がまぶしい。もはや視覚の暴力だ。
埃と頭垢で半ば白くなった黒髪をかきまわし、レオナルドはおざなりの挨拶を返した。
「先生もお変わりなく……」
嘘である。以前会ったオズヴァルドは妖艶な美女だった。その前は筋骨隆々たる戦士だったと思う。どちらの姿もたいそう暑苦しかった。
悪戯好きで秘密主義のこの校長は、まるで服でも着替えるように姿を変える。その偽装術は完璧で、天才レオナルドですらオズヴァルドの真の姿を見破ることはできていない。
「ありがとう。今回は自信作なんだけど、どう? きみこれ好き?」
「いいえ。新しい殻を見せびらかしにいらしたのなら、どうぞお帰りください」
「やだなあ」
オズヴァルドはにっこりと笑った。
「見せびらかしたいのはぼくじゃないよ。こっちのほうさ」
こっち、とオズヴァルドは隣の青年に目を向けた。
「紹介しよう。アダム君だ」
アダムと呼ばれた若者は、無言でレオナルドに会釈をした。
年はレオナルドより二、三歳上といったところか。金の髪に緑の瞳。オズヴァルド(の殻)ほどではないが、すっきりと整った容姿の青年で、ソファに身を沈めていてもそれとわかるほど背が高い。
王宮でよく見かける手合いだな、とレオナルドは思った。
あの、門や廊下に等間隔で並んでいるやつだ。高価な置物のような、血統のいい猟犬のような、近衛騎士とかいう生き物たち。
もっとも、この若者が近衛騎士でも何でもないことくらい、ひと目見たときからわかっていたが。
「いい『人形』ですね」
レオナルドがそうほめると、オズヴァルドは得意げにうなずいた。
「そうだろう。ぼくの最高傑作だよ」
魔道学校の校長には、いっぷう変わった趣味がある。人形づくりがそれだった。魔石を心臓代わりに埋めこんだ人形は、本物の人間のように動き、話し、笑うのだという。
「よかったですね。ではごきげんよう、校長先生」
「はいはい、帰るよ」
口をとがらせてオズヴァルドは腰を上げ、ソファに座ったままのアダムの肩をぽんとたたいた。
「じゃ、あとは二人で仲良くね」
「…………は?」
久しぶりに、それこそ十年ぶりくらいに、レオナルドは間の抜けた声をあげた。
「あのね、忙しいぼくがわざわざ元教え子に作品を自慢しにくると思う?」
「思います。だって先生、友達いないでしょう」
「それきみにだけは言われたくないなあ……ま、とにかくこれ、きみへの贈り物だから」
「いりませんよ、そんなもの。ぼくに人形遊びの趣味はありません」
不意に、アダムが目を上げた。澄んだ緑の瞳が、ひたとレオナルドに向けられる。
「わたしはお役に立ちますよ」
高すぎず、低すぎず、耳に快い落ち着いた声音。その響きから逃れるように、レオナルドは目をそむけた。
「……役に立つって、どんなふうに」
「そうだねえ」
後を引き取ったのはオズヴァルドだった。荒れ放題の居間をぐるりと見わたし、魔道学校の校長はにっと口の端を持ち上げた。
「とりあえず、家政夫としてかな」