表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クロニクル・ゼロ《刻印者の黙示録》 (加筆修正版)  作者: 52hz
第一章:記録のない世界で、目覚めた僕は
5/5

第5話:監視と刻印の対話

刻印者と観測者、ついに“言葉”が交わされる一話。

神の代行者フィオナ・ルクス、その静かな威圧と、セラの覚悟。

第1章クライマックス、ぜひご覧ください。




 泡の中心に立つ、銀髪の観測者。


 その名は――フィオナ・ルクス。


 長く伸びた髪は白銀に光り、瞳は感情のない青。

 何も語らず、ただこちらを見つめている。けれど、その視線には明確な“意志”が宿っていた。


 


 音のない世界で、言葉が生まれた。


 


「――刻印者クロニクル

 その力、泡の均衡を乱すもの」


 


 フィオナの口が動く。声は出ていない。

 だが、言葉は確かに“脳”に届いた。まるで直接思考に刻み込まれるような感覚だった。


 


「君は、本来存在してはならない者。

 記録の中に“今”を持ち込む異物。――排除対象」


 


「排除って……なんだよそれ」


 


 思わず言い返す。

 けれど彼女の表情は、まったく変わらなかった。


 


「泡の檻は、永遠を守るための記録装置。

 刻印は、それを壊す力。君は、この世界にとって“危機”」


 


 静かな宣告。感情のない言葉。

 なのに、妙に心を刺すのはなぜだろう。


 


 フィオナの足元に、小さな光が浮かんだ。


 それは、俺の刻印と似た形をしていた。

 けれど、色が違う。青ではなく、無彩の白――いや、“光のない白”。


 


「それ……刻印か?」


 


「これは、“刻印殺し《エリミネーター》”。

 刻印の力を無効化し、泡の構造を維持するために存在する武装」


 


 エリミネーター――

 嫌な名前だ。だがそれが、泡の秩序を守るための“兵器”なら……。


 


 彼女は、俺の真逆だ。


 “時”を動かす者に対して、“時”を封じる者。


 俺が動けば、彼女は止めにくる。

 まるで、最初からそのために作られたように。


 


「……なぁ、フィオナって言ったよな」


 


 言葉をかけると、彼女はわずかに瞳を揺らした。


 その反応が“対話”に見えたことが、なぜか嬉しかった。


 


「お前が何のためにここにいるのか、理解はした。

 でも、俺にはやらなきゃいけないことがある。

 それを壊されたら、世界はずっとこのままだ」


 


「それが、“記録”にとって望ましい」


 


 その瞬間、胸の奥で“刻印”が脈打った。


 


 ――ダメだ、こいつと話は通じない。


 


 けれど、引き金を引くにはまだ早い。


 俺が一歩前に出ようとした、そのとき。


 


「待って、アーク!」


 


 セラの声が響いた。

 音のない世界で、なぜか“聴こえた”。


 


 彼女は、俺とフィオナの間に立ちふさがった。

 細い体で、腕を広げて。


 


「彼は、敵じゃない。彼は……ただ、止まった世界を見たくなかっただけ」


 


「セラ……」


 


 フィオナは動かない。

 だが、その瞳の奥に、わずかな“揺らぎ”を感じた。


 


「――器。貴女の行動もまた、“予定外”」


 


「……なら、私ごと“記録外”にすればいい」


 


 一瞬、空気が凍りついたような気がした。


 


 セラは何を……? “自分ごと”って、どういう――


 


 その瞬間、フィオナの槍がわずかに傾いた。


 


 構えではない。撤退の動きだった。


 


「刻印者、器。

 貴方たちは“観測済”とする。

 次の干渉時――処理を実行する」


 


 言い終えると同時に、彼女の姿は泡の奥へと溶けていった。


 まるで、最初からそこに存在していなかったかのように。


 


「……消えた?」


 


 俺はセラの肩をつかんだ。


 


「おい、さっきの“自分ごと記録外に”って、どういう意味だよ!」


 


「……ごめん、アーク。

 でも、今はまだ……全部は言えない」


 


 そう言った彼女の目に、一瞬だけ“影”が差した。


 


 この世界は、まだ多くの謎を抱えている。

 俺たち自身にも、きっと知らされていない“真実”がある。


 


 でも今は――


 


 刻印が脈を打っている。

 次に、俺が進むべき場所を教えるように。


 


 泡の檻を越える時が、来ている。


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

第一章、ここで一区切りです。

この世界の構造、敵と味方の境界、そしてセラの謎。

第二章では、さらに深く“記録と記憶”に踏み込みます。

感想・ブックマーク、心よりお待ちしています!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ