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クロニクル・ゼロ《刻印者の黙示録》 (加筆修正版)  作者: 52hz
第一章:記録のない世界で、目覚めた僕は
1/5

第1話:時のない目覚めと、無垢な世界

記録と記憶の違い、止まった世界の構造、そして“刻印”の存在。

SFと幻想が交差する新たな第1話として再構築しました。

世界観をより深く、静かに迫っていく形でお楽しみください



 ――目覚めた。


 それが「目覚め」だと気づいたのは、理由がある。

 さっきまでの“無”と、“今”の間に、微かな音が鳴ったからだ。


 世界には、音がない。

 耳鳴りでも、鼓膜の故障でもない。

 ただ、この世界そのものが沈黙している。


 けれどそのときだけ、確かに聞こえた。


 **カチリ――**という、歯車が噛み合うような、乾いた音。


 まるで、それが合図であるかのように。

 世界はゆっくりと、“動き”を取り戻した。


 


 目を開けると、視界を埋めるのは巨大な球体群。

 それぞれがガラスのように透き通っていて、空中に浮かぶ泡のように見えた。


 泡の内側には、古びた都市の断片――

 かつてそこに“人の暮らし”があったような風景が閉じ込められている。


 俺は、その泡の一つの中心に、横たわっていた。


 


 重力はある。呼吸もできる。身体も動く。

 けれど、どこか現実感がない。


 銀色の地面。ぼんやりと反射する足元。

 空を見上げれば、空は淡く曇り、針のない時計の歯車が静止していた。


 ……ここはどこだ?

 そして、俺は――誰だ?


 


「…………」


 言葉にしてみようとしたが、声が空に吸い込まれるだけだった。

 いや、声は出ている。なのに、音がない。


 何を叫んでも、誰かに届くことはないような……そんな静けさ。


 


 ふと、目の前を数人の“人影”が通り過ぎていった。


 彼らは、まるで同じ動きを繰り返していた。

 歩く、止まる、振り返る――

 しかしそこに感情はなかった。


 無表情。無反応。無言。


 人間の形をしているのに、“誰でもない影”のような。


 


 だが、その背後に見えたのは――泡の表面に映る“映像”だった。


 誰かが笑い、泣き、手を取り合う。

 鮮明で、美しく、それでいてどこか嘘くさい。


 この世界では、感情や記憶は存在しない。

 代わりに、かつての出来事が“記録”として保存され、

 泡の表面に映像データのように再生されるのだ。


 記録は、記憶とは違う。

 記憶が「内側に刻まれるもの」なら、記録は「外側に貼りついた模倣」だ。


 この世界の住人たちは、記憶を持たない。

 ただ、泡に映る過去をなぞるように“今”を繰り返すだけ。


 都市全体が、“記録”の再生装置に成り果てていた。


 


「……どんな悪趣味な世界だよ」


 俺はつぶやいた。

 声はあっても、やはり音にはならない。

 けれど、空気がわずかに震えた気がした。


 俺だけが、何か違う。

 この沈黙の中で、“動いている”感覚がある。


 


 そして――

 俺の左手が、微かに熱を帯びていた。


 見下ろすと、掌の甲に淡く輝く紋章が浮かんでいる。


 円環を描くライン。その中心に刻まれた、青白い光の印。


 刻印エンブレム――

 そう呼ばれる“名前”が、脳裏に閃いた。


 


 その瞬間、空に埋め込まれた歯車が、一瞬だけ震えた。


 音もなく、回転もなく、ただ……共鳴したような感覚。


 世界が、静かに、歪んだ。


 


「……っ」


 思わず立ち上がる。

 頭の奥がズキリと痛む。

 けれどその痛みと同時に、“視線”のようなものを感じた。


 誰かが、こちらを見ている。


 振り返ると、そこに――


 


「ようやく、起きたんだね」


 


 ――少女が、いた。


 


 白髪のロングヘア。純白のローブのような衣。

 不思議なことに、彼女だけはこの世界に“浮いて”いなかった。


 存在感がある。音はないのに、声が“届いた”気がした。


 そして、彼女の瞳が、まっすぐ俺を見据えて言う。


 


「……アーク・クロノ」


 


 名を、呼ばれた。


 思い出せないはずのその名が、なぜか――懐かしいと感じた。


 けれど、そんな感情は一瞬のうちに消え、疑念が胸に湧く。


 


「なんで……俺の名前を知ってる?」


 


 問いかけた俺に、少女は微笑む。

 それはまるで、“ずっと前から知っていた”と言わんばかりの――


 


「わたしは、《器》だから。君の名は、最初に“刻まれて”いるの」


 


 意味がわからなかった。けれど、彼女はそれ以上は語らず、ただ――


 


「ようこそ、刻印者クロニクル


 


 と、まるで祈るように、俺の“存在”を肯定した。


 


 ……この世界で、たった一人。

 “今”を動かす者として。


 


 俺の物語は、ここから始まる。


最後までお読みいただきありがとうございます!

少しずつ動き出す世界と、記憶を持たぬ人々――

彼らの“静寂”に違和感を覚えるあなたは、もう刻印者かもしれません。


今後も世界の謎やキャラたちの運命が、少しずつ交差していきます。

応援やブックマーク、感想コメントがとても励みになります!

よければ、次回もぜひ読みに来てください!


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