出発とただいま
宿を出て二人は今、城下町を歩いている。
「昨日は、街を見る余裕がなかったけど、結構賑わっているのね」
「そうだな。街の者たちが活き活きしているな」
二人の言う通り、明るい時間の街は、夜とはまた違う賑わいを見せている。
様々な店が立ち並び、呼び込む声があちこちから聞こえてくる。
「アクセサリー類の小物も売っているのね。長期休みにゆっくり見て回るのもいいわね」
「食べ歩きもできそうだ」
二人は辺りを見回しながら、一度暗闇の森へ戻るため出入り口の門へ向かう。
「貴方は本当に食べるのが好きね」
彼の食い意地の強さに、レイに僅かな笑みがこぼれる。
「今に始まったことじゃないだろう」
二人はセレイム王国の門を潜って、暗闇の森へ向かった。
セレイム王国を出発して、数時間。
太陽が真上に上り昼となった頃、フェンリルの姿に戻ったレオン、もといフェンに乗りレイは暗闇の森に戻ってきた。
家に帰ってくると、庭で彼女たちの帰りを待っている森の生き物たちがいた。
ルビーラビットや、セレリス、黒ヒョウだ。
カインが来た時は、警戒して姿を見せなかった者たちだ。
ルビーラビットは、白い体毛で額にルビーのような魔石を持つウサギに似た下位魔獣。
セレリスは、二本の短い角を持つ小型の黒い馬のような下位魔獣。
コハク以外の黒ヒョウもレイとは顔見知りの関係だ。たまに、レイたち一緒にご飯を食べる。
彼らはレイの帰宅に気付くと、一斉に彼女のもとへ飛んで来た。
「わっ。皆、ちょっと待って」
彼らのあまりの勢いに、姿勢を崩し、尻餅をついたレイ。
そんなことは顧みず、彼らは彼女の傍から離れない。
「ただいま。昨日は、急に家を空けてごめんなさい。びっくりしたわよね」
レイが声を掛けると、彼らは彼女から離れ行儀よく話を聞く体制を取った。
レイも改めて座り直すと、一匹のルビーラビットがぴょんと膝に乗ってきた。
「どこに行ってたの?レイが居なくなって寂しかったよ」
彼は、レイの膝の上で後ろ足で立って訴えた。
「ごめんね。セレイム王国ってところに行ってたの」
レイは、彼に対し子供に話しかけるように穏やかな口調で話かける。
「怖いところ?」
「ううん。賑やかなところだったよ。皆に先に伝えておくね」
そう切り出したレイ。
彼らの間に不安げな空気が漂う。
「私とフェンは、明日からしばらく森を空ける」
「やだ!」
間髪入れずに、ルビーラビットがレイの膝の上で飛び跳ねて抗議する。
「この森を出ていくってことじゃないから、安心して。時間を見つけたら、時々戻ってくるから」
レイは、抗議している彼を掬い上げて彼を諭す。
「やだやだ!」
しかし、聞きたくないと長い耳を折り曲げて、彼女の手の中でうずくまってしまった。
「レイ、本当に?」
セレリスも信じられないとレイに問う。
「ええ。でも、ちゃんとここに帰ってくる。嘘はつかない」
レイは、セレリスの目をまっすぐ見て伝えた。
「……うん。分かった約束ね」
彼女の言葉に嘘はないと確信したセレリスは、レイの額に自分の額を合わせてそう言った。
「ええ。約束」
二人の会話を聞いていたルビーラビットが、レイの手の中から飛び降り、四つ足でセレリスの足元に行く。
「セレはなんで受け入れられるの!悲しくないの?」
彼女の物分かりの良さが気に食わなかったのか、きつく当たる。
セレリスは、体を屈ませ彼と同じ目線になる。
「あたしだって寂しい。でも、わがままを言ってレイの迷惑になるのはもっと嫌だ」
レイは、二人のやり取りを静かに見守っている。
「迷惑になるのは、ぼくもやだ」
セレリスの言葉が刺さったのか、ルビーラビットはしゅんと耳を垂れ下げた。
「だったら、出来ることは一つだよね」
「うん」
セレリスの言葉に素直に頷いた。
「レイ」
彼はセレリスのもとから、レイのところへ戻る。
「なに?」
レイは、優しく声を掛ける。
「ぼく、もう、わがまま言わない。レイが帰ってくるの、ちゃんと待つ」
彼は目に涙を溜めながらも、彼女の目を見つめて言い切った。
「分かってくれて、ありがとう」
レイは、泣き出しそうな彼の頭を親指で優しく撫でた。
ふとレイは機転を利かせ、ある提案を出した。
「今日は庭で皆で夜ご飯食べようか」
彼女の提案を聞いて、庭にいた者たちが声を上げた。
今日は、宴並みに賑やかになりそうだ。
「ふぁ~。ん?飯か?」
庭の端でうたた寝をしていたフェンが起きてきた。
「おはよう。ねぇ、一緒に今日の夜ご飯の材料、取りに行かない?」
レイはフェンとセレリス、ルビーラビットに声を掛けた。
「うん!行く!」
「あたしも」
「ああ、そうだな。美味い肉を狩りに行くか」
「じゃあ、着替えてくるから。待ってて」
しばらくして着替えを終え、庭に出てきた彼女は、着古した白の長袖のブラウスに、茶色の皮ベストを羽織り、ゆったりとしているが裾が絞られた深緑のズボンを穿いていた。
この服装は、彼女が食材調達に行くときのお決まりの格好だ。
またレイは、採集用のウィーテと呼ばれる穀物の茎を編んだ筒型のかごも用意した。
「コハクと他の皆は、留守番お願い」
レイは動きやすくするため、長い髪を後ろで束ねながらコハクたちに指示をする。
「わかった!美味しいお肉、とってきてね~」
コハクは同じ黒ヒョウたちと戯れながら、返事をした。
留守番を頼まれた他の者たちも、それぞれくつろいでいた。
「楽しみに待っておれ。今日は宴だ」
コハクの返事に対し、フェンが笑みを浮かべながら応えた。
「やった~!」
彼の言葉を聞き、コハクは尻尾をこれでもかというくらいに振る。
その姿はヒョウではなく、まるで大型犬だ。
「そうと決まれば、今日はいつもより狩らねばな」
フェンは、鼻高々に言った。
「お肉の調達は貴方に任せて、私はこの子たちと木の実とかキノコを採ってくるわ。日が暮れる前に湖の前で合流しましょう」
「ああ。分かった。では、私は先に行っておるぞ」
「あまり暴れすぎないようにね」
「ああ。手加減はする」
フェンは言い終わると、颯爽と駆けていった。
「よし。じゃあ私たちも行こう」
フェンが狩りに出たのを見送ると、レイも編かごを背負いセレリスたちに声を掛けた。
「うん!」
そうして彼女たちも今晩の食材採取のために家を出た。
【森の愛し子~治癒魔法で世界を救う~】
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