ひと段落
「これが、貴方一人の問題なら力だけあればいいと思う。けどそうじゃないでしょ?貴方は今、竜騎士団の一員。貴方の行動一つで戦いの命運を変えてしまうのよ?その自覚はある?」
『……』
「貴方が力にこだわるのはどうして?」
レイは、小さな子供に話しかけるようにして言葉を掛ける。
その後は、ただじっと彼が話し始めるのを待つ。
『俺には、弟がいた。いつも俺の後ろをついて回る可愛い弟が』
グレイがゆっくりと口を開いた。
彼が話し始めた家族の話に、レイは静かに耳を傾ける。
『その弟がある日、縄張り争いに巻き込まれて殺されたんだ。俺はその時、何もできなくて。逃げることしかできなかった。力があれば、弟を守れた。逃げることしかできなかった自分が憎くかった。だから強くなりたいって思った』
グレイが自身の想いを紡ぐ。彼の強さにこだわる理由が明確に語られた。
「貴方は、今のまま弟のいるところへ行きたいの?」
グレイは逡巡し、答える。
『今はまだ、あいつのところへは行けない。俺はあいつに顔向けできるほど強くなれてない』
「だったら、こんなとこで終わりにしないで、空で貴方を見ている弟に、強くなったお兄ちゃんの姿を見せないといけないんじゃない?」
彼女は、微笑みかける。グレイはレイの言葉に、力なく笑ったように見えた。
『……それもそうだな』
そう零すとグレイは、力が抜けたのか体勢を崩してうずくまった。
その様子を見てもう大丈夫だと判断したレイは、グレイに触れられるほどの距離まで進み、 その場に屈み優しく問いかけた。
「癒しの力を受けてくれる?」
『ああ。頼む』
素直に受け入れるグレイ。
今の彼に先ほどまでの威厳はもう、ない。
「ありがとう。それとね、今より強くなりたいならちゃんと味方を守りながら連携を取ることも覚えるといいわよ」
『守る、連携……』
「そう、連携力のあるチームほど戦いは有利になる。攻撃が剣だとすると、守りは攻撃を防ぐ盾。剣一本しかもっていない騎士と、剣も盾も持っている盾だと騎士だと戦力が全然違うでしょ?」
『そうだな。今度あんたの言うその守る戦い方を教えてくれ』
「ええ。貴方にぴったりの戦い相手もいるわ」
「そうか、楽しみにしてる」
そういうと、グレイは瞼を閉じた。
彼は体力の限界だったらしくそのまま眠ってしまった。
「眠ってしまったわ」
「グレイをここまで手なずけるとは、さすがレイ殿」
一部始終を見ていたカインが呟いた。
「とりあえず治癒魔法をかけないと。―癒しの力」
癒しの力の光景は、何度見ても温かく美しい。
「うん。これで、この子はもう大丈夫」
治癒を終えたレイがグレイを一撫でした後、振り返りカインに声を掛けた。
「ありがとう」
寝ているグレイを起こさないように、レイたちはそっと竜舎を出た。
「さすがに疲れたわ」
レイは今日一日の長く目まぐるしい出来事に苦笑した。
すっかり日は沈み、城から見える町は街灯に照らされている。
「この後は、また森に?」
「いえ。今日はもう遅いし、二人とも宿に泊まるわ」
「だったら、夕飯を一緒に食べないか?礼もちゃんとできてないし」
「飯なら、肉のうまい店に連れていけ」
今まで空気になっていたフェンが、久しぶりに会話に入ってきた。
「私の行きつけの美味い店があるので、そこにしましょう。レイ殿も構わないか?」
「ええ。私は何処でも」
「では急いで着替えてくるので、お二人は竜の間の前でお待ちください」
「分かったわ」
「ああ」
「では、また後で」
そうして、二人はカインと別れた。
「来週から、学園に通うのよね。明日戻ったら森のみんなにしばらく家を空けるって、伝えておかないと」
「そうだな。森の奴らは寂しがるだろうな」
レイとレオンは竜の間へ向かいながら、学園のことについて会話をしていた。
「特にあのルビーラビットの子は、ついて行くって言いそうね」
「そうだな」
「はぁ。通い始めたら、きっと面倒な事に巻き込まるわね」
虚空を見つめるレイ。学園へ通うことに、まだ前向きに離れていない様子。
彼女の憂鬱とした思いとは反対に、二人が歩いている廊下から見える空は、満天の星で輝いている。
「少なからずあるだろうな。まあ、私が常にいるし、心配ないだろう。それに、お前の力を見せたら、誰も文句を言う奴はいなくなるぞ?」
「そんなことしたら、その子たちの親が仕返しに来るわよ」
「それはそれで見物だな」
「もう」
まるで他人事なレオンに彼女は呆れる。
「にしても、ほんとに今日は色々あったわね」
「そうだな。おかげで退屈しなくて済んだぞ」
歩きながらそんな会話をしていると、二人は竜の間の前に戻ってきた。
すると二人が着くと同時に、竜の間の扉が内側から開いた。
【森の愛し子~治癒魔法で世界を救う~】
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