褒美
「だが、完全には信じていない、というのが本音だ」
彼女の瞳をまっすぐ見つめながら言う。
「しかし君が嘘を言っているようにも見えない」
そう言うと、レイにウインクをしたセルビオス。意外に子供心がある男らしい。
「それに、カインから受けた報告で、カインの聖竜に乗ったのだろう?」
「はい」
「あの竜が、パートナー以外乗せたというのは、初めてのことだ」
「そうなの?」
レイはすぐ隣にいたカインに聞く。
彼は力強く頷く。
「ああ。言っていなかったが、リリィが俺以外を背に乗せたのはレイ殿が初めてだ」
「そのことが直接な証拠にはならないが、君には何か力があるというのは伝わるよ」
レイに優しく微笑むセルビオス。
「レイ殿。改めて言わせてもらう。カインと、竜の間にいた竜騎士たちを助けてくれて、本当にありがとう」
彼はその言葉と共に、深々と頭を下げた。頭に乗せている王冠が落ちそうだ。
「陛下、頭を上げてください。私のような者に頭を下げる必要はないです」
レイは、彼の行動に表情は変わらないが内心ぎょっとする。
周りにいる関係者も彼の行動にどよめいた。
「私の国を助けてくれたのだ。頭を下げるだけでは足らんよ」
「セルビス、あまりレイを困らせてくれるな」
焦る彼女を庇うように一歩出て、助け舟を出す。
そんな彼に、セルビオスは目を丸くする。
「そなたが人を守るとは、昔では考えられんな」
「レイは特別だ」
「ほう?特別か」
セルビオスは意味深長な顔をする。
フェンは、彼のその表情に、むっと眉間に皺を寄せ、尻尾を体に対し水平にゆっくりと左右に振る。
「何か勘違いしているようだが、私も暗闇の森で、この子に助けられた身なのだ。レイがまだ魔法も使えぬ子供の頃に出会った。今となっては、家族同然だ。お前の思っているような関係ではない」
「そう睨まないでくれ。そうか、そんな小さい頃から森に……」
セルビオスの声のトーンが少し落ちる。
「はい」
「苦労したろう」
「いえ。森での暮らしは、むしろ快適なくらいです」
レイはまっすぐ彼を見て言い切った。
彼女の芯の通った発言に、彼は驚いた表情を見せる。
だが、すぐにいつもの優しい表情に戻る。
「そうか、そうか。失礼なことを言った」
「気になさらないでください」
「セルビス」
「なんだ?」
フェンがセルビオスに話しかけた。
セルビオスの視線がフェンに移る。
「レイの活躍に、何か褒美をくれて貰わねば、釣り合いが取れないと思うのだが?」
「ちょっと、フェン。何を言ってるのよ」
何か良からぬことを企んでいそうなフェン。レイはそれを止めようとする。
「確かにそうだな。レイ殿、褒美は何が良い?」
「い、いえ。私は何も要りません」
セルビオスに向き直り、首を横に振る。
「お前は欲がない。宝石の一つや二つねだれば良いのに」
彼女の返答にフェンは、つまらん、とため息をつく。
セルビオスは、面白そうに二人のやり取りを見ている。
「宝石なんて、いらないわよ」
「本当に何もいらぬのか?」
二人の会話に、セルビオスが入る。
フェンに向いていた顔がセルビオスに向けられる。
「はい。ただ、一つだけ願いを聞いていただけますか?」
「もちろん。構わんよ」
「今回の一連の件に、私が関与していたということを伏せていただきたいです」
「何故だ?君はこの国に貢献したのだぞ」
レイの申し出に、真剣な国王の顔を見せるセルビオス。
「私が関与していたことを公表すれば、少なからず、この力を利用しようとする者が現われます」
「あり得るだろうな」
自慢の白い髭を撫で、彼女の先見の明に感心した様子を見せる。
「カイン団長を助けたのは、私の暮らす場所で死なれるのは居心地が悪いので助けたまでです。私はこの国のために行動したわけではありません」
「ふむ。セレイム王国の騎士だから助けたと言う訳ではなく、そうでなかったとしても君は彼らを助けたと、そう言いたいのだね」
「はい」
「だが、竜の間の件に関しても同じことを言えるのか?」
レイには、質問を続けるセルビオスが世間体のために褒美を与えたいとういう思惑があるように見え、警戒してしまう。
「竜騎士に関しては、確かにカイン団長に頼まれましたが、私はそれに応えたつもりはありません」
「ほう。ではなぜ助けた?」
「聖竜リリィに頼まれたからです。私は、魔獣の助けをしたまでです」
「ふむ。つまりあの森でカインらを助けたのは、自分の生活を守るため。また騎士たちを助けたのは、聖竜の願いのために手を貸しただけでどちらも国のためではない。だから褒美もいらない。そういうことか?」
セルビオスはレイの言い分を簡潔にまとめた。
「はい」
【森の愛し子~治癒魔法で世界を救う~】
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