火の粉
「アタシらがいた徒党の目的は……まぁ、そう、アンタらが言うように“吸血鬼の大財産”だね」
その後数分ごとに娘らが目覚めた為、司祭達はなけなしの食べ物を分け与え、事情聴取をする。
「やはりか」
「パーティの編成も重戦士重視ってのは当たりさね。指揮者1、重盾3、重剣2、軽拳闘1、弓使い1、魔法使い1、僧侶2、野伏1、召喚1、輜重4、商人1、奴隷が私達を含めて13だから、残り〜……9かな」
「編成はまぁ……屋内戦向きで平均的か……全員の等級は?」
「中年の軽拳闘士が準指導官級で、他は若いから全員中級だった」
「うーんそうか……指揮者がいて、準指導官級なぁ……厄介だな。ギルドはどこの支部だ? 大公条約機構か?」
「そう。そこの支部直轄の徒党で……」
「そうか。なら尚更厄介だな。パーティ名は?」
「パーティ名は─────」
リウジェンと、二番目に起きた紫の羽毛と短髪が目立つハーピー種の亜人娘……病魔と名付けられた娘は、ただいま“図書館”に侵入している徒党について討議し合っていた。
ルベンと言えば、その事に関する知識なぞほぼほぼ無いも同然であるので、傍に眠る、ヘドロを名乗る娘の頭を撫でてその討議の結果を待っていた。
「ルベン。今回はちと厄介そうだ……やはり出会うこと自体避けたいな」
「説明してくれるか」
「うむ」
リウジェンはドカッと胡座をかき、身振り手振りを加えつつ語り始める。
「懸念点は3つだ。①指揮官がいること。②準指導官級の等級保有者がいること。③ギルド支部直轄なこと」
「まず①の指揮者。これはまぁ想定内。文字通り、そのパーティに合う戦術を編み出したり、状況を見定めて戦闘隊の指揮をとる係だ。居ると居ないでは確実に違ってくる」
「②の準指導官級。これは想定外。ほぼほぼその職域のプロフェッショナルと言っていいかな。戦闘力がバカ高いから、味方に居る居ないで相当戦術の幅が変わる」
「③のギルド支部直轄。これも想定外だな。つまりギルドが出資するパーティで、ギルド全体から期待されてるパーティだ。万が一全員ぶち殺したとしても、直ぐに救援隊が組織されて派遣される」
「そもそも武力的に勝てそうも無いのに政治も絡むのか。なぜそんなのがここに……?」
「彼女達も分からないらしいから推測になるが……“図書館”が冒険者パーティにとって登竜門的なダンジョンなのかもな。俺は聞いた事ないが。期待のニュービーを鍛える為に準指導官級をお目付け役にしたとか」
「なるほど」
「そして現状、俺達が優位な点は次の通り。❶命令系統が二分されてる。❷野伏が少なすぎる。❸準指導官級と連携が取れていない。❹奴らは俺達を知らない」
「彼女達から聞いた話によると、準指導官級と指揮者が対立していて、お互い自分のやり方を押し付け合っている。実に良い報せだ。これではパーティの質の悪さで拍車がかかってパーティ全体が混乱しちまう。いざという時に隙を突きやすい」
「野伏が少ないのは、雇い代ケチったか指揮者と召喚士の状況把握能力で補完出来ると踏んだか……。まぁ正直、どんな状況でもこの重接近戦布陣なら対応出来る気がしないでも無い。だが戦いに来ていない俺らには充分なアドバンテージとなるな」
「相分かった。それじゃ出発しようか……キミ達は大丈夫かね」
ルベンがチラリと目をやった先には、先端が折られたらしい羊のような角を持つ娘“|苦味《amara gusto》”と、額に左右対称4つの複眼、口に虫のそれのような大顎が見られる娘“|厄介な問題《ĝena problemo》”がいた。
「ウチらは……大丈夫……だけど」
「abomeがな。先月からおかしいんだ。ボーっとしたり、かと思ったら癇癪おこしたり、泣き出したり、変なこと言い出したり」
abome……最初に起きた猫亜人娘の渾名。侮蔑同然のフルネームを呼ぶのはお互い堪えるからであろう。
「変なことって、例えば?」
「えー。何か、|目の前に傷だらけの自分がいるとか、自分の中の誰かが自分に命令するとか……」
「トラウマ反応。PTSDも発症してる可能性が高いな」
「間違いないな……あぁなんてことだ。なんて罪深いことだろうか。リウジェンよ。もう我慢ならん。私だけでも出向いて彼奴等を打ち殺してくれる」
「ルベン! 先走るな! 預言者とて不死では無いのだぞ。まずは神の御意志を汲もう」
「……そうだな。主の御意思が全てに優先される」
「世界をお創りになられた尊き我が主よ。尊き天の御国の君主よ。貴方様のお声を、天使に載せて届けて頂きたい」
司祭2人が跪き、平伏すと、彼らの左手にある木の幹が突如大きな音を立てて裂けた。“何ぞ雷でも轟いたか”と皆が視線をやると、幹の外見と裂けた故に見える中身は焦げて煙をあげている。
[何故見破った……!? このオレを─────]
風穴の向こうには、サソリともザリガニともつかぬ化け物が明らかに警戒態勢でそこに居た。
リウジェンは戦人ゆえの反射神経で短剣を3つ投げ、化け物の身体に2本、頸に1本命中させる。
[がっ……あ!? テメェこれじゃ逃げれねェじゃねぇか! ]
サソリもどきは刃にて地に繋がれた為、逃げようとしても逃げられず、
「その声はその魔物本人のものか? それとも……|貪食《f o r m a n ĝ i》パーティ所属の召喚士か?」
リウジェンが言葉を突きつけると、蠍はもがくのをピタリと止め、舌打ちした。
[やっぱりかよ……どのアマだァ? そのガバガバの上の口から俺らの情報ぶちまけたのはァ!? 折檻が欲しいならまた裸にひん剥いてゴブリンの巣に放り込んでやるかぁ!? あぁッ!? なにか言えや淫婦共ッ!? ]
巻舌まじりの大声は響き渡り、大顎をガチガチ鳴らし、尻尾をビタンビタンと激しく動かして我々を威嚇する。
青黒い血が、動く度動く度に流れ出る。
四人の娘の泣きそうな表情と震えの様子もあいまって、司祭二人の怒りは頂点に達していた。
「聞け下衆。不本意だがこちらからお前らに仕掛けることは無い。だからお前達も我々を無視しろ。良いな? お前達も無駄な戦で消耗したくないだろ」
[テメェら俺らと対等って勘違いしてんのか? 有罪坊主共よォ。お前らは俺らの目に留まったその瞬間から狩りの対象なんだよゴミオケラ共がッ! ]
「………有罪だぁ?」
[一ツ、俺らに不遜な態度と物言いをとったことォ。一ツ、俺らの財産を強奪したことォ。一ツ、俺らの存在に気付いていながら装備、その他有用なアイテムを進呈しなかったことォッ! 有罪! 有罪! 有罪! テメェら全員万死に値するッ! ]
「テメェ頭に何つまってんだぁ? 脳みその代わりに穴ぼこだらけのチーズでも入れられたか? 言ってること賊以下なの自覚してっか〜?」
[お前ェこそ寝ぼけてんのか。法はここに無ぇし、冒険者は強者が総取してナンボが不文律だろ!? 同業殺ろうが何だろうが強けりゃ許されんだよッ! よってお前らは奴隷含め全員殺してやるッ]
「話にならんな。俺らは火の粉を払うだけだ……やってくれルベン」
「あぁ」
ルベンが魔物の頭に手をかざすと、召喚士の声がくぐもりノイズがかって途絶え始める。
「主よ。貴方の法を以て奸悪者に厳罰を……!」
ブツン
そんな音がしたと同時に、連中の喧しい声は閉ざされて、魔物も大人しくなった。
「リウジェン。そいつの刃を抜いてやれ。野に返そう」
「そうだな」
◆
ボンッ
そんな音がしたと同時に、さっきまで“操獣”越しに叫んでいた召喚士の頭上にパッと閃光と火が花開いた。
爆発の衝撃により、徒党のクルーが振り向く間もなく後ろ向きにヘドバンした彼の後頭部は壁に激突。言いようのない音を奏でながら、まるで、まるでトマトを壁に叩き付けたようになって絶命した。
一番最初に振り向いて彼を見たのは僧侶だった。何か自分と似た様な、それでいて莫大な力が、召喚士と蠍を繋ぐ導線を食い破りつつ逆流し、ここに流れるのを瞬間的に察知していたからであった。
「マイセンッ!」
顔の皮膚と少しばかり表層の肉が吹き飛ばされ、煙を吐いて動かない彼の名前であった。
僧侶が転びそうになりながら駆け寄り、治癒の祈りを捧げるが────────
「……なんだ? 死んだのか!?」
「は……!? ちょっと……どこから攻撃されたの!?」
一向に起き上がらない召喚士を目の当たりにして、やっと状況を掴めたらしい重盾士が声を荒らげ、商人は警戒して首を振り、周りを過剰な程に見渡す。
パニックが全体に染み渡り始めたという所で、群れの真ん中に立つシルクハットの長身が二回手を叩いた。
鶴の一声、のような雰囲気の柏手は、ざわつきを鎮め静寂で場を支配する。
「まず報告を聞いて。発言はその後……ターロンくんと他何人かは何か感じたんでしょ?」
シルクハットの女は、棚から落ちたであろう床に散る本達を拾い集め、棚に戻すでなく床に積んでいく。
「……信じ難いけど、状況としてはマイセンとメナシサソリを繋ぐ導線を伝って逆流してきた高エネルギーが炸裂したとしか説明出来ない」
「私の見解も一緒だな。アレは僧侶が使うエネルギーだ。魔物じゃない。間違い無く連中の技だろうよ」
女僧侶もため息つき、煙草に火をつけつつ述べる。
「そんなん出来る術者、俺は見たことないねー。魔法使いでも僧侶でも……普通、導線って不可逆的なものなんだよ。それに逆流させて攻撃だなんて、技術と発想がイカれてる」
「もう正直言うとお相手さん完っ全に格上だと俺は思う。怖いから戦いたくないね。撤退も視野に入れた方がいいかも」
「ナマ言ってんじゃねーぞォ」
魔法使いが消極気味の進言をすると、女重剣士の一人が立ち上がって詰め寄る。
「ったく軍師気取りが……たかだかそれだけだろ? ギルドにゃどう報告する? 手品にチビって敵前逃亡しましたってか? そうなったらアタシら全員この業界で生きていけねーの分かんだろ? あ?」
言葉を繰り出しつつ、サウレンはチュトスの肩を何度も突き飛ばして壁に追いやる。
「酷い戦いになるぞ。敢闘精神で何とかなる話じゃない」
その言葉が気に食わなかったのか、彼女の前蹴りが炸裂し、轟音を立てて彼の顔のすぐ横の石壁を砕き穴を開けた。片耳の蝶のピアスが揺れて松明の光を乱反射して煌めく。
他のクルーの何人かは慌てふためいているが、それでも毅然と、魔法使いは剣士の目を見つめ続けている。
「胸糞悪ぃ………」
舌打ちをし、彼女は俯きつつその場を離れた。
「で、どうする? ヤトック。俺らはアンタに従うぜ」
重盾の男がシルクハットの女に進退是非を問うた。
「……そうだね。一人殺られちゃったし待ち伏せ攻撃しようか。パジャール! このエリア全体に“索敵網”を敷け! そして全員は3班に別れてエリア内に潜伏、対象の侵入と同時に密かに包囲し撃滅する」
「敵は未知の方法で攻撃するなど、侮れない部分が多い! 少数なのも気がかりだ。いつも以上に気を引き締めて掛かるようにしろ!」
「おい! 待て待て待て待て………ヤトックちゃんよォ俺の意見は聞かねぇのかい? えぇ?」
さっきまで机に突っ伏していびきをかいていた男が、テーピングされた拳で空の酒瓶を持ち、ヤトックに寄りかかって、どさくさに紛れて胸を鷲掴む。
「……あぁ、起きてたんですね。ヘウバさん」
件の準指導官級に痴漢され続ける指揮者は、害虫にやるような目を向けてから口を開いた。
「ったく相変わらず身長はデケェ癖して薄い乳とケツしてんなぁ……? 小さくて悩んでんなら、俺がガキこさえさせてやろうか? え?」
そう言ってヘウバは酒瓶を捨て、胸を揉んでいるのとは反対の手を彼女のズボンに滑り込ませる。
「警告します。それ以上触ったら連中より先に始末しますよ。勿論拷問してからね」
微笑みつつ、指揮者は諭すように拳闘士に説得する。
「いいじゃねぇかよぉ♡嫌よ嫌よも好きの─────」
「コラオッサン。気色悪ぃことしやがって。生爪剥がされたくなかったらリーダーから手ぇどけろや」
「死にてぇのかハゲオラァッ!? その寂しい頭に火ィつけんゾ!?」
二人の重剣士が両肩を掴んで制止するが、その瞬間拳闘士は裏拳で左側の重剣士の顎を正確に打ち、振り返って右肩に手を置いていた重剣士の腕の肘に頭突きし、関節の可動域の反対側に腕を折った。
「誰がオッサンだァ!? 誰がハゲだァ!? あァ!? ガキがよぅ言ってくれるじゃねぇかコラァッ! 下手に出てりゃあ良い気になりやがってオガクズ共がッ! 俺が支部で好きなように喋りゃあテメーら奴隷行きなの忘れンなよッ!?」
「まぁその前にテメェらを殺せもするんだからな。そうしねぇのは俺の温情だと心得ろや。な?」
「ったく興醒めだわマジでェ……疲れたしもう一眠りすっかなァ〜。オラッ!」
「ばぐふッ!?」
軽拳闘士は酒瓶の底で重剣士の鳩尾を突いた後、ドカッと再び椅子に座り、いびきをかき始める。
「ゲホッエ゛ッオ゛ェ……ッ……痛ぇぇ〜〜〜……ッ!」
「畜生ッ!」




