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転生、豊臣秀頼  作者: 森部 かい
第1章 豊臣家を背負う者
3/9

03話 母上と朝ごはん

 ――――――


 「秀頼(ひでより)様!お召替(めしか)えが完了いたしました!」


 「うむ……」


 豊臣秀頼(とよとみひでより)6歳、悲しくも同じく6歳の子供に着替えさせられたのである。


 ――――――


 さかのぼること15分前……


 「それでは秀頼(ひでより)様、お召替(めしか)えさせて頂きます」


 「う、うん」


 何を隠そうこの秀頼(ひでより)様、『お召替(めしか)え』が何かわかっていない。


 どうするのだろう?そんなことを思っていると、重成(しげなり)が近づいてきて、秀頼(ひでより)が今着ている服を脱がし始めたのである。


 「うぉい!ちょっと待てええええい!!!」


 「な、何事(なにごと)ですか??」


 重成(しげなり)不思議(ふしぎ)そうに秀頼(ひでより)を見つめる。


 「着替えぐらい自分でできるから!その服貸して!!あっち向いてて!!」


 「で、ですが!!」


 「いーから!」


 「は、はい……」


 そう言って、重成(しげなり)から綺麗(きれい)空色(そらいろ)の着物と紺色(こんいろ)(はかま)を受け取ると、今着ている着物を脱いでそれを着ようと試みる。


 「ん?なにこれ、どうするんだ?くっ……こうか?」


 現代の洋服とは当然異なるため、彼は苦戦しているようである。

 

 「うーん……よし、できたぞ!!」

 

 「そちらを向いてもよろしいですか?」


 「うむ!どうだ!!」


 「……」


 彼は重成(しげなり)自慢(じまん)げに見せたが……(えり)も逆、(はかま)の向きも逆、ぜーんぶ逆のオンパレード。


 「秀頼(ひでより)様……」


 「うむ!」


 重成(しげなり)秀頼(ひでより)の前にスッと片膝(かたひざ)を立てて座ると、『御免(ごめん)っ!!』と言ってサササーっと、ものすごい手際(てぎわ)でぐちゃぐちゃの着物を脱がしていく。


 「ぎゃああああ!!!」


 「ぎゃあ!ではございません!!このような格好で、淀殿(よどどの)との朝餉(あさげ)にどうして向かえましょうか!!」


 「あ、あさげ?」


 「朝食にございます!」


 そう言って重成(しげなり)秀頼(ひでより)の「お召替(めしか)え」を始め、15分後に戻るのである。


 ――――――


 「秀頼(ひでより)様!お召替(めしか)えが完了いたしました!」


 「うむ……」


 この時代の服の不便(ふべん)さを実感しながら、恥ずかしい時間は過ぎ去ったのであった。


 「それで重成(しげなり)、朝ご飯はどこで食べるの?」


 「はっ、今我々のいる西(にし)(まる)御殿(ごてん)御座(ござ)()にございます」


 「に、にしのまる?」


 「(それがし)がご案内(つかまつ)りますので、御同道(ごどうどう)(たまわ)りたく存じます」


 「ごどう……なんて???」


 重成(しげなり)よ、彼に難しい言葉は使わないであげてほしい。


 すると彼は、秀頼(ひでより)が理解していないのを(さっ)したのか……


 「えっと、ついてきてください!」


 「は、はい!」


 すぐに主君(しゅくん)()()み取り、簡単な言葉で言い直すとは……重成(しげなり)はできる男である。


 そのまま重成(しげなり)について部屋を出ると、優しそうな中年(ちゅうねん)の男が廊下(ろうか)(ひか)えていた。


 「お(ぬし)は誰じゃ?」


 秀頼(ひでより)時代劇(じだいげき)のような言葉(づか)いを意識して(たず)ねてみた。


 「はっ、御前(ごぜん)(はべ)りまするは豊臣(とよとみ)家臣(かしん)片桐且元(かたぎりかつもと)にございます」


 片桐且元(かたぎりかつもと)、彼は豊臣(とよとみ)家の家臣として(つか)え、史実(しじつ)において秀吉(ひでよし)にその才能を買われ、戦略・軍事などで重要な役割を果たした。


 豊臣(とよとみ)家が徳川家康(とくがわいえやす)によって滅亡(めつぼう)の危機に(おちい)った際、且元(かつもと)徳川(とくがわ)との交渉などに東奔西走(とうほんせいそう)するも、結果は史実(しじつ)の通りである。


 「(はばか)りながらこの且元(かつもと)若君(わかぎみ)御身(おんみ)を守るべく、御方様(おかたさま)よりご下命(かめい)(たまわ)り、()くの(ごと)()(さん)じた次第(しだい)にござりまする」


 (あわ)れなるかな秀頼(ひでより)よ、またしても難しい言葉が盛りだくさんである。


 「???」


 当然の反応である。


 「秀頼(ひでより)様!」


 「んあ……??」


 「彼は、『秀頼(ひでより)様の目の前にいるのはあなた様の家臣の片桐且元(かたぎりかつもと)でございます。(おそ)れ多いですが、秀頼(ひでより)様をお守りするように淀殿(よどどの)からご命令がありましたので、このように来た次第(しだい)です』と、(もう)しておいでです」


 「な、なるほど!」


 木村重成(きむらしげなり)、できすぎる男である。


 6歳にしてなんという気遣(きづか)い、このおバカには勿体(もったい)ない程である。


 「且元(かつもと)よ!」


 「ははぁー!」


 「しっかりと守っておくれ!」


 「はっ!この命に代えましても!!」


 別に命まで()けなくても……秀頼(ひでより)はそんなことを思いながら淀殿(よどどの)の待つ御座(ござ)()へと向かった。


 「こりゃ迷路だな……」


 「秀頼(ひでより)様!あちらにございます!」


 重成(しげなり)の元気な声に(はげ)まされながら、小さな歩幅(ほはば)でせっせと歩いていると、彼を起こしに来た綺麗(きれい)な女性が座って待っている部屋が見えた。


 「あれが母上(ははうえ)……」


 先ほどはせかせかと出て行ってしまってあまりわからなかったが、よく見てみると、とんでもない美人である。


 「秀頼(ひでより)様」


 「よし、じゃあ行こうか!」


 重成(しげなり)の手をつかんでその広間(ひろま)に入ろうとすると、且元(かつもと)が言った。


 「では(それがし)は隣の部屋で待機しております」


 「え、そ、そうなの?一緒に食べないの?」


 「お、(おそ)れ多きことにございます!御儀(おんぎ)の場ならばいざ知らず、(つか)えるべき御方(おかた)共餐(きょうさん)(いた)すなど!!」


 また難しい言葉を使ったな……と思いながら、秀頼(ひでより)が『じゃあまた後でね』と言うと、且元(かつもと)は『では』と一言を添えて隣の部屋へ向かった。


 「重成(しげなり)は?」


 秀頼(ひでより)がそう(たず)ねると、重成(しげなり)淀殿(よどどの)一礼(いちれい)をして「(それがし)秀頼(ひでより)様の後方にて待機致しております」と言って、秀頼(ひでより)が座るのであろう場所の後ろに向かった。


 そして秀頼がお(ぜん)の手前に座ると、少しだけ近寄って重成(しげなり)も腰を下ろした。


 しばしの沈黙がその場を包む。


 初めに口を開いたのは、やはり淀殿(よどどの)であった。


 「秀頼(ひでより)、今日はずいぶん時間がかかったようですね?新しい小姓(こしょう)手際(てぎわ)が悪いのですか?」


 淀殿(よどどの)はちらっと重成(しげなり)のほうを見て秀頼(ひでより)(たず)ねた。

 

 後ろを見なくても重成(しげなり)の不安そうな顔が目に浮かぶ。


 あんなにできる男は重成(しげなり)をおいて他にはいない!!そう思いながら少し食い入るように秀頼(ひでより)は答えた。


 「いえ!母上(ははうえ)!今日(おそ)くなってしまったのは、自分で()()()()をしようとして、でも出来なくて重成(しげなり)に初めから直してもらったからなのです!」


 「それと、重成(しげなり)が家臣として相応(ふさわ)しいかどうか()()をしておりました!!」


 「あらまあ……試験??」


 まるで友達と遊んで帰ってきた子どもの話を聞くかのように、淀殿(よどどの)(ほが)らかな笑みを浮かべながら秀頼(ひでより)の話を聞いている。


 「はい!重成(しげなり)は、出した問題に丁寧(ていねい)に答えてくれました!しかも、且元(かつもと)が難しい言葉を話して困っていた時に分かりやすい言葉に直して教えてくれました!!」


 「ふふ、そうですか、それはよかったわね」


 淀殿(よどどの)は明るく話す秀頼(ひでより)を見て、嬉しそうに答えた。


 「では重成(しげなり)と仲良くなさい」


 「はい!母上(ははうえ)!」


 重成(しげなり)は、安堵(あんど)の思いに加えて、秀頼(ひでより)()めてもらえたことに(うれ)しさを隠しきれず、感謝の気持ちを込めて秀頼(ひでより)に向かって深く頭を下げた。


 どうやら淀殿(よどどの)は、食事中あまり話さないようで、あれよあれよという間に食べ終わってしまった。


 「では秀頼(ひでより)、今日は(ひつじ)(こく)ぐらいにまた呼びに行きます。それまではゆっくりしていてね」


 「は、はい!」


 そういって淀殿(よどどの)はどこかへ行ってしまった。


 「秀頼(ひでより)様!我々も戻りましょう!」


 「うん!」


 大広間(おおひろま)を出て、隣の部屋の且元(かつもと)を呼びに行く。


 「且元(かつもと)!食べ終わったよー!」


 「はっ!ではお(とも)いたします!」


 そうして、3人は秀頼(ひでより)の部屋まで帰った。

次回、「お勉強の時間(前編)」

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