《16》クローバー同盟
「結香……」
私、高山茜は足早に去っていく親友の長澤結香のことを見送る事しか出来なかった。
「何かごめん俺のせいで……」
本当にそう。
文人はいつもいつも……。
心の中ではそう思っているのに……どうして言葉に出てこないんだろう。
今の私は不思議と彼が生きてくれている。
―その事実―だけで十分だった。
彼には他の何も求めていなかった。
だから不思議といつもの怒りと言う感情が沸いてこないんだろう。
それにさっきまであった、夏蓮ちゃんの行動に対しての焦りも文人の姿を見ると自然と落ち着いてきていた。
「陸……。ごめんだけど結香のことお願いしていい?」
「えっ?茜は来ないのか?」
「後から必ず行くから……。今は3人にして欲しい」
「……わかった」
そう言って陸は私の気持ちを察してくれたのか、ゆっくりと教室から出ていった。
今の結香に必要なのは、この世界の何も変化していない陸であり、今の私だとまた変な不安を与えてしまうかと思ったからだ。
それとタイムリープした者同士しか分からない文人への想いがある私たちが、その当事者の文人の3人で、もう一度この後の時間をどうするのか、ゆっくりと話し合うべきだと考えに至った。
本当に改めてそう思うと、私も3年間でかなり大人になったなぁって思う。
だって前の世界線で教室から飛び出して行ったのって私だったのに……。
今はこうやって冷静に考えることが出来る経験や余裕があるっていうのは夏蓮ちゃんにも負けない部分の1つなのかなと思う。
「私もごめんなさい。余計なこと言っちゃったみたいで……」
そう申し訳なさそうに呆然と立ったまま謝る夏蓮ちゃんに対して私はこう言った。
「ねぇ、夏蓮ちゃん。私とメッセージ交換しない?」
「えっ……?」
夏蓮ちゃんは、このタイミングで何を言い出すんだろうという表情で私に視線を向けていた。
でも私は、このタイミングだからこそ、彼女と交換をすべきだと思っていた。
このそれぞれの心が、すれ違いかけている今だからこそ。
繋げれるものは繋げておかないと……。
―そのチャンスは無くなるのだから―
「わかりました」
そう言って彼女もスマホを取り出してくれた。
「えっ、それいまだと最新型じゃない?ケースもめっちゃ可愛い!」
私は彼女のスマホを見て気づいた点を話してみた。
「そうなんです。入学祝いで買ってもらったばっかりで。実は恥ずかしながら、まだあんまり使いこなせてないはずだったんですが……。確かケースも本体を買った時に気になったんでセットで買ってもらったんです」
よーく聞くと訳ありの会話ではあるものの、文人にはバレないようにオブラートに包んで会話をする私たちだった。
「登録の仕方は分かる?」
「はい。今は何とか分かるようになりました」
そりゃそうだよね。買ってもらって3年経ってるんだから。
「はい完了。文人もグループに作って招待しておくから夏蓮ちゃんに何か入れてあげてよね」
「えっ…?」
文人も夏蓮ちゃんも驚いた表情を見せて私の方へ視線を向けた。
確かにその反応になる。
私は夏蓮ちゃんに対して塩を送ったようなものなのだから。
でも……。
私と同じような悲しい想いをしている彼女が、文人と接する機会を逃して欲しくもないし、最終的に選ぶのは文人自身の気持ちなのだから。
今はこうやって時間の流れを大きく変えて、文人を救う事が先決であると思った。
「グループ名は何にしようか……。あっ、(クローバー同盟)にしよう」
「えっ、茜ちゃん?本当にその名前で良いんですか?」
本当に夏蓮ちゃんはさっきからずっと、ただでさえ大きな目を丸めて驚いているよね。
その顔だって女子の私からみたって可愛いすぎるよ。
「だって夏蓮ちゃんも文人も鞄に同じアクセサリー付けてるでしょ?」
「えっ、本当だ……小花さんと同じのを付けてる」
文人ってばもう……今まで気付いても無かったんだ。
私が指摘するまで夏蓮ちゃんの鞄にもアクセサリーが付いてるということを気付いてなかった文人。
と言うことは……文人のこのアクセサリーに対しての思い入れって……。
「私だってここにちゃんとあるんだよ」
余裕ぶっていた私だったが何だか少し悔しくなっていた。
「ちょ、ちょっと茜ちゃん」
そう夏蓮ちゃんが少し恥ずかしそうな表情を見せるのを気にも止めずに、私は制服のリボンとブラウスのボタンを一番上の1ヶ所だけ外して、2人の鞄に付けているアクセサリーと同じデザインの物を二人に見せつけた。
「文人?これ覚えてるよね?このアクセサリーのこと?まさか……忘れたとは言わせないからね」
「うん……。覚えてるよ……」
文人からは相変わらずの曖昧な返事が返ってきた。
「本当に?あの地元の神社での夏祭りの日のこと覚えてない?」
「神社の夏祭り……」
私が文人の記憶からアクセサリーの想い出を掘り起こそうとしていた……
―その時だった。
「うっ…っ…」
突如、席に座っていた文人が頭を抱えて机に顔を擦り付けた。
―さらにその直後にイスから落下し、席が並ぶ通路の間に横たわった文人。
「文人!?」
「大沢くん!?」
私と夏蓮ちゃんは慌てて文人の側に駆け寄った。
文人はかなりの汗が出ていて、ただならない状況に思えた。
「茜ちゃん、早く救急車を呼ばないと!」
「うん。えっと救急車は119番だったよね?」
そうやって再びスマホを取り出し救急車の番号を確認するために夏蓮ちゃんの方へと目線を向けると……。
「って、夏蓮ちゃん!?どうしたの??」
夏蓮ちゃんも文人と同じように頭を押さえて横たわっていた。
「って……うっ……うっ……っ」
私も頭がっ……
……っぁぁ。
そんな2人を見ていた私にも、2人と恐らく同様の症状が襲ってきていた。
何これ。座ってもいられない。
早く……文人と……夏蓮ちゃんを……助けないと……いけないの……に。
そして、いつの間にかクローバー同盟全員がその場で意識を失っていた。




