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《15》放課後の彼を求めて

「ねぇ、陸。さっき結香とも話してたんだけど、この前から話していた学校近くの神社に放課後に行くってことなんだけど―」


 私、高山(たかやま)(あかね)の人生2度目の入学式はあっという間に過ぎ去り、再び『ぞろぞろ』と私たち生徒は各教室へと戻り、後はホームルームを残すのみになっていた。


 そんな中で、その合間で私は陸に話しをしていた。


 と言うのも、放課後に()()()()4人で学校近くにある神社で、これからの学校生活を送る為にお参りをしておこうと、私は陸に。

 結香は文人を誘うと言う話しをして体育館を後にしていたからだ。


 ……陸の返事は。


 あっさりとオッケーだった。


 正直返事がどうこうと言うよりも、今の私が単独で陸に話し掛ける方が勇気のいる話しなんだけど……。


 私たちグループの中で陸と同じクラスなのは私だけなので、陸には私から声を掛けるしかなかった。

 

 もちろんグループメッセージとかでやり取りをしても良いものの、わざわざ同じクラスでいるのに―と言うか目の前の席に居るのに話し掛けないのは、かえって不自然でもあるし……。



そうこうと考えているうちに「と、言うわけで今日からよろしくね!」と私と陸のクラスであるニ組の担任になった若くて爽やかな山本(やまもと)(さとる)先生の挨拶が、気がついた時には(すで)に終わっていた。


「いやー山本先生のホームルームは早く終わるから助かるよなぁ。文人たちのクラスはまだ終わってないみたいだけど……分かりやすく教室前の廊下で待っていようか?」


 陸が隣のクラスをチラッと覗いて話し掛けてきた。


「うん。そうしよ」


 陸が言うならそうするに決まっている。


 文人の姿が見られる嬉しさはあるものの、文人の席の前には夏蓮ちゃんがいる。


 同じ教室に居るのが私じゃなくて夏蓮ちゃん。

 この現実と向き合うのは辛いものではあるけど……。

 

 ―この現実を向き合わないことには先に進めない。


 意を決して陸と共に隣のクラスの前の廊下に歩みを進めた。


 夏蓮ちゃんに結香、そして文人がいる一組の教室には関西弁で威勢よく語り掛ける、一組担任の中山(なかやま)耕作(こうさく)が―いや、ちゃんと先生をつけないとだよね。

 中山先生が教壇に立って語り掛けていた。


 そんな中山先生が私たちの方をチラッと向いて何かを察したのか「えらい長く話しすぎたみたいやな。もうどっかの教室は終わってるみたいやし、今日はみんな解散ってことで」


 こう言って私たちのお陰もあってか少し早めに一組のホームルームも切り上げられ、ゾロゾロと一組の生徒が教室から出てきて下校をしていく中、文人たちの姿はなかなか教室から出てくることはなかった。


「おい。お前らも、はよう帰れや」


 そう教室に向かって言葉を発して、一組担任の中山先生が私たちの前に姿を表した。


 それと同時に「あれ?教室に残ってるのって文人たちじゃない?あんなところで集まってなにしてるんだ?」


 そう言って陸は一組の教室の中へと入って行った。


「ちょ、ちょっと陸。待ってたら」


私も取り残されまいと陸に付いていった。


「だから前から約束してたでしょ。みんなで行くって。大沢もう忘れたの?」


 教室の中では文人の顔の前に結香が自身の顔を近付けるようにして何かを言っている様子が見られた。


「おいおい。長澤~どうしたんだ。そんな殺気立って」


「あっ、相馬。それに茜も。別に殺気立ってなんかないから。ほら、待ちくたびれて二人も教室に入ってきたじゃない。早く一緒に行くわよ」


「だから、ごめんって。今日はその……。別の約束をしてしまったからみんなとは行けないんだって」

 

 相変わらず文人らしく歯切れの悪い言い方だった。


「だったら別の約束ってなに?私たちと一緒に帰るより大切なことだったらハッキリと言ったら?てか、おばなさんだっけ?どうしてさっきから私の後ろにくっついてるの?私たちの話しに何か用でもあるの?」


 そう。

 結香の後ろには夏蓮ちゃんが気まずそうに立ち尽くしていた。


 いつもは落ち着いていて私たちグループのまとめ役を(にな)っている結香がこんなに感情的になっているなんて……。


 私がタイムリープしてこれまで見ていた結香と比べると幼く見えるから?

 

 それとも……。


 ―もしかして夏蓮ちゃんが側にいるから……?

 

「ようは……大沢くんに用事はあります!私が大沢くんと帰る約束をしたから―」


「―あっ、小花さん!」


 小花さんの声を(さえぎ)るように文人は夏蓮ちゃんの名前を呼んだ。



「やっぱり。それじゃあ大沢は私たちと前からしていた約束よりも、今日会ったばかりのこの子との約束を優先するって言うことよね?」


 呆れた顔で再び文人に詰め寄る結香。


「別に行かないって言ってるわけじゃないじゃん。後から必ず行くし……。別に俺が居なくたって……。」


 いつものように自信なさげにどっちつかずな返事をする文人。


「あっ、そうですか。それなら勝手にしたら。てか、茜も何でいつものようにもっと強く言わないの?こういう場面っていつも茜がぶちギレてたはずだけど……」


「うん。いつもはね……」


 確かにそうだ。


 この場面、前の世界線でも似たようなことがあって私が怒っていた。


 でも今回はそんな怒りの感情は不思議と沸いてこない。


 ……彼が目の前に居る。


 ただ、それだけで尊い光景だったから。


「茜もさっきから元気がないし今日はみんな何かおかしいよ」


 そう言いながら結香が振り返り陸の方に視線を向けた。


「はぁ……あーもう。私1人で先に行ってちょっと頭冷やしてくる」


 陸にイラだっている姿を見られたのを気にしたのか、私たちに目を向ける事なく足早に教室を去っていった結香。

 

 これまでの私だったら、文人に怒りをぶつけて結香が止めてくれる―この流れが当たり前だったけど……。


 未来の私達がこの世界に来たことによって、周りの関係性にも大きく影響を及ぼすのかも知れないと初めて実感した瞬間だった。

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