《14》親友への隠し事
「ねぇ。あの子大沢に何か話し掛けてたよね?」
「うん?あの子って?」
「あの子だよ。いま新入生代表の挨拶をした……おばなさん?だっけ」
「あぁ……。そうなの?何だろうね?文人もモテるようになったよね」
私、高山茜は体育館にて人生2度目となる入学式に参加していた。
そんな最中、隣の席になっていた親友の長澤結香と小声で話しを交わしていた。
「いや、そんな悠長なこと言ってる場合?今まで大沢に私たち以外に女子が近付くようなこと無かったと思うけど」
確かに結香の言う通りだった。
私が幼少の頃に知り合って以降、文人の周りには私か結香の二人ぐらいしか同年代での女子との関わりを持っているのを見たことがなかった。
まぁその理由の1つには私がいつも文人の近くに居たからと言うのもあるかも知れないけど……。
「そりゃ文人だって高校生になったんだし、新しい女友達の1人や2人出来てもおかしくないんじゃない?」
いや、おかしい。私にとって今の状況はあってはならない事だった。
結香は陸に想いを寄せている……。
当時はそこまでは気付いてなかった私でも、結香が文人に恋愛感情というものを抱いているとは1ミリも感じる事がなく、文人と結香が関わりを持つことに対して何の抵抗も無かったのだと今はハッキリと言える。
でも……夏蓮ちゃんは違う。
「いや、例えそうだとしても新入生代表の優等生の子だよ?何かおかしくない?ってか茜は彼女のこと知り合いだって言ってたけど……彼女とどういう関係なの?」
この結香からの質問に私は一番困ってしまった。
私は親友の結香に対して本当に何も隠し事をしたくない。
今までもこれからも私を本当の意味で支えてくれるのは結香なんだから。
それを分かってはいても……夏蓮ちゃんとの本当の関係なんて言える訳がなかった。
「あ……入試発表の時にね、出逢ってね、何か合格した嬉しさの勢いで連絡先交換した仲って感じ!」
あー。何かまた口から出任せを言っちゃった……。
私は心の中で泣いていた。
何度も結香に対して謝っていた。
―ただ、あくまで心の中だけの話し。
表情には出さないで居れた。
それだけ大人になって戻ってきてしまったのかと実感してしまう。
「ふーん。私はそんなこと今まで一度も聞いたことなかったんですけどー」
少し膨れっ面でこっちを見てくる結香。
高校に入学仕立てということもあってか、これまで私が見ていた結香とはだいぶ幼く感じて可愛くもあり、どこか懐かしさも感じていた。
「あっ、いや別に隠してたわけとかじゃなくって。本当にそんな仲良くなったってわけでもないし。今でも私の親友は結香だけなんだから」
それだけに。
ごめん。結香。あーーもう!
全部本当のこと言いたいよーー!
私はタイムリープしてきましたって!!
でも……そんなこと言えるわけ……。
こんな風に私の心の中は悶々とした気持ちでいっぱいだった。
「わかった。茜のこと信じられなかったら親友失格だもんね。茜の言ってることもちろん信じるから」
口角を上げ、親指を立ててグッドサインで答えてくれた結香。
「結香……」
あーー!もう本当に今すぐにでも結香に抱き付きたい!!
てか、結香の魅力に気付かない陸ってどういう事?
私なんかより絶対に結香の方が素敵な女の子なのに。
「ってことは大沢もその時に知り合っていたってこと?」
「いや、文人はさっき出逢ったばかりだとは思う……」
私がこれまで辿ってきた世界線では間違いなく文人と夏蓮ちゃんは今日出逢っていたはず。
あの日……
この世界で言う今日。
文人の様子は明らかにおかしかったから。
もちろんおかしかったから……あんなことになったなんて絶対に思いたくはないんだけど……。
「さっき?さっきって茜が大沢を迎えに行った時ってこと?」
「うん」
私は前の世界線で文人に聞いていた。
―まぁ、正確には問いただしたと言うか……。
―って言うのは置いといて。
それで夏蓮ちゃんが、あのタイミングで文人にお金を渡すことを知っていたのだけど。
「それにしては仲良くしすぎじゃない?」
―その通りです!結香の言う通り!!
もっと言って。
さっきの代表挨拶も、前の世界線でもちゃんと意識して聞いてなかったから、ハッキリとは覚えてはいないけど……。
確か夏蓮ちゃんじゃない、別の誰かだった気がする。
でも夏蓮ちゃんは堂々と代表挨拶をこなして、この広々とした体育館から惜しみ無い拍手をもらっていた。
このままだと夏蓮ちゃんの勢いがどんどん加速していく。
「まぁ席が近いからとかじゃないかな」
「うーん、あの二人なんか引っ掛かるんだよね……。茜もウカウカしてるとあの子に大沢を取られちゃうかもだよ」
余裕ぶって話しをしてるけど、本当に私もうかうか何てしてられないよね。
ねぇ、結香。
ゆっくりと私の今の悩みを聞いて。
てか、本当に聞いて欲しい。
「取られるってどういうこと?あんな文人が取られるわけ……ないじゃん……」
大丈夫。私は文人とずっと一緒に居た幼馴染みなんだから。
彼と初めて付き合った相手なんだから。
パッと出の夏蓮ちゃんに取られるなんてこと……
―なんてこと……。
「うーん。まぁ普通に考えたらそうだよね。あの大沢だもんね。それよりさ放課後どうする?この前話していた学校近くにある神社にみんなで行ってみない?それとも……親とかと帰る感じ?」
「私は寄り道して帰っても全然大丈夫だよ」
「よし!それじゃあ決まりで。相馬と大沢も誘っていつものメンバーで行こう!」
「うん……」
夏蓮ちゃんの積極的な行動が早くも目立ってきている中、私たちは前回の世界線で様々な出来事が起きたあの神社へと再び足を踏み入れようとしていた。
徐々に私の焦りが増していく。
そんな中で、夏蓮ちゃんが文人に対して放課後に約束を取り付けていたなんて事は、この時の私は夢にも思っていなかった。




