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《13》試練の入学式

 あっ、大沢くんいつもより緊張してる。

 

 後でちょっといじってみようかな~。

 

 でも、茜ちゃんみたいで馴れ馴れしすぎるかなぁ。


 

 ―私、小花夏蓮(おばなかれん)は、もちろんこの時も浮かれていた。

 

 理由は好きだった人の運命を変えるべく、未来から過去に戻ってきた私にチャンスが巡ってきていたからだ。

 

 本来なら1年生の時のクラスは好きな人と別のクラスになっていたはずなのに、どういうわけか一緒のクラスになっており、恋敵(こいがたき)である(あかね)ちゃんとは別々のクラスにもなるという契機が訪れたわけで。

 

 もちろんこれを逃すまいとちょっぴり頑張ってみた私は、入学式の後に彼と一緒に帰るという約束を取り付けており。


 

 そんな中で放課後のことを考えると気持ちが高ぶるなど、一度目の入学式とは全く違った心境で入学式が進行していき、新入生代表の挨拶が始まろうとしていた。


 まずは司会の教頭先生による代表者の名前が呼ばれ…。


「新入生代表……()()()()


 教頭先生による代表者の名前が……


「小花夏蓮さん」



「……へっ?」


 私は思わず声が出ていた。えっ? わ、わたし!?

 そんなの全然聞いてないんですけど……!

 

 何度聞いても私の名前だった。


 えっ、だって…1回目の入学式はそんな大役やってないはずなんだけど……。

 いや、絶対やってないって……!!


「小花さん、早く壇上に上がって下さい」


「は、はい」


 私は困惑しつつも言われた通りに体育館の壇上へと向かった。


 一段一段、段差を登って壇上に立つ。

 マイクが挿された壇上からは新入生全員の視線が目に入った。


 過去に戻る前の私は演劇部であり、これまで何度もこの体育館の壇上に上がって演技を披露していた。

 

 そんな私にとっては、見慣れた壇上からの景色ではあるはずなのに、こうやって一人で壇上に上がって、みんなの正面を向いて立つと全く別の景色のような気がする。


 いま、私の目に映る三年間共に学んだ同級生たち。

 

 これだけ大勢いてると全ての顔と名前が一致するわけではないけど、部活仲間やこれまで一緒になったクラスメイト―これから一緒になる―など多くの顔見知りが目の前にいた。

 もちろんその中には、茜ちゃんに()()()()の姿もある。


 その横には馴染みのある先生たちや、逆に初めて見るようなご来賓(らいひん)の方々、後ろには保護者の方も。

 

 この入学式の特別な雰囲気と緊張感。

 

 それに……。


 急に呼ばれて状況が整理できていない気持ちも含めて、これまでに全く代表挨拶の準備をしていなかった私にとって、正直吐き気がして、足がすくみ、今すぐにでもその場に座り込みそうな、そんな自分ではどうしていいか分からない状況だった。


 紙とかないの……。


 見た感じなさそうだけど……。


 この世界の私って何を話そうとしてたの。

 

 ……ねぇ、誰か教えて。



 うつ向きながら、私がまさに神頼みをしていたその時だった。


 ふと、顔を上げた私の視線の先には彼の姿が映った。


 そんな私の目に映った彼は片方の手で拳を作り、顔付近まで上げて『がんばって』と訴えかけてくれてるような、そんな仕草に私はみえた。



 私はそんな彼の姿を見ると目の色が変わっていった。

 

 

 応援してくれている大沢くんに恥ずかしい姿は見せられない。


 そう思うと、これまでの独特の変な緊張感が嘘のようにスッーと抜けて楽になった気がしたからだ。


 そして冷静さを取り戻した私は、頭の中に浮かんだこの状況に見合いそうな言葉を並び替えては、はめ込むことを繰り返すなどの、演劇部で(つちか)ったアドリブの経験を最大限生かして、タイムリープ後のいきなりのピンチを乗り越えようと無我夢中で体育館全体に語り続けた。


 すると……。


 

『パチ……パチ……パチパチ、パチパチパチパチ』と拍手の音が体育館中に響き渡り、どうにか今回の大ピンチは無事に乗り越えることに成功したみたいだった。

 

 正直いうとこの時私は、壇上で何を話していたなんて全く覚えてない。

 

 それだけ必死だったんだと思う。


 ……はぁ。よかった。


 あっ、大沢くんは……。


 私はホッとしたと同時に真っ先に応援してくれた彼の方へと目を向けた。

 目を向けた彼は、満面の笑みを浮かべながら、誰よりも強く手を叩いてくれていた。


 大沢くん…。


 本当にありがとう。

 

 私何とか乗り切れたよ。


 


 今すぐにでも彼にお礼を言いたいのを我慢しつつ、深々とお辞儀をして壇上を後にした私は、彼の座っている後ろの席へと戻る際に彼の耳元に顔を近づけ。


「応援ありがとうございました」



 そう優しくお礼をささやくように言って座った。


 キャー安心しすぎて耳元で言っちゃった。

 でも、こんな場所だから大きな声出せないし仕方ないよね?

 大沢くん嫌じゃなかったかな……?


 『入学式での新入生代表挨拶』というこれまで経験したことのない、大きな山を越え一安心した私だったものの、この入学式での行動や、大沢くんとした約束を巡って、この後まだまだ波乱が待ち受けているとは、この時の私には知る(よし)もなかった。

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