鬼系女子と蛇系男子
このお話はほぼセリフのみで構成されています。
苦手な方はご注意ください。
また、R15設定なので対象年齢以下の方はブラウザバックをお願い致します。
~とある大学にて~
「どど、ど、どっしようユーちゃん。
さっきの神話文化学の選択授業で滅茶苦茶タイプの人がいたぁ。
こ、恋……しちゃった、かも」
「へー、付き合ったら報告して」
「分かりやすく興味ない感じ出さないでよぉ。
ねぇユーノさぁん、眞ユーノさぁん、私たち竹馬の友でしょおお」
「ええー。現状、私にとって無関係の人じゃん」
「関心のサークル範囲が狭すぎる。
そんなだから森エルフの血が入ってる人間は冷たいなんてトンデモ説が流布されるんだぞぉコイツゥ」
「わぁウザい。これだから青鬼の譜系は重たいったらないわー」
「友人の願いを叶えるために悪役演じて出奔した同族の逸話を茶化すの止めてくれさい」
「あーハイハイ。ごめんごめん。
だったら、好きに語りなよ。ちゃんと聞き流すから」
「おうおうおう、流すのが間に合わないくらい語ったらぁ」
「アレはそう、オーロラのように波打つ深緑の天然パーマと、その分厚く長い前髪のカーテンによる鉄壁の目隠れ。
高くて角度の鋭い鼻、大きめの口から覗くギザ歯。
最低限の筋肉はありつつもヒョロリと長い背丈に、動きの節々から漂うダウナー系オーラ。
ああーっ、す、好きすぎるぅ……っ」
「相変わらず尖った趣味を……って、緑の天パで目隠れ?
その人なら、私も見たことあるかも。
情報サービス論の講義で一緒だったかな。
あんまり友達いなさそうな地味で根暗っぽい感じの男子だよね」
「んんん。おそらく合ってるけど、もうちょい歯に衣着せて欲しかったなぁー?
仮にも私が好きかもって言ってる相手なんだからさぁ」
「欺瞞を強要しないでくれますぅ?」
「虚言を弄せとは申しておりませんがぁ?」
「で、どーすんの?
恋したってんなら、なんかアプローチでもすんの?」
「ううーん、まだ分からない。
もう少し性格的なトコ掴めるまでは、遠目から要観察って感じ。
いくら見た目がドチャクソ好みでも、モラハラとかDVとか度を超えた束縛とかしてくるような人だったら嫌だし」
「冷静じゃん。もっと盲目になれよ、恋だろ」
「破滅の道へ誘おうとするな」
「そんで?
観察の結果、性格もマトモそうだったら告白とかするわけ?」
「んーんーんー。どうしよ?」
「どうしよって、なに」
「私さぁー、漫画とかアニメで、兜やらマスクやら髪やら、とにかく入念に顔や体を隠したキャラが主人公にその素性を明かした直後から、なぜか丸出しがデフォルト状態になる現象キライなのよねぇ」
「うわコイツ厄介オタクだ」
「いや、判断は一寸待って欲しい。
隠してた理由が、主人公側にだけ秘密にする必要があってのことだったり、某探偵漫画の犯人みたいに読者視点でのみ謎の影がかかってる設定だったり、っていうなら私も分かるし納得できるよ?
でも、大概はそうじゃない。そうじゃないんだ。
単純に、読者を驚かせるための装置で、その役目が終わったから以後は不要っていう作者側の都合でしかなくってさ。
そのキャラの人間性を完全に無視して、というか、キャラ自身が何をどう考えて装いを変えたのかっていう理由付けが全くないのは、正直、作品としての質の低さが露呈しちゃってる感あって萎えるっていうか」
「うわコイツ厄介オタクだ」
「ええい、うるさいうるさい。
オタクなんてやってる時点で誰しも根は厄介なものなの。
その主義主張を他人に無理やり押し付け始めでもしない限りは放っておいて」
「はいはい。本音は、好みのキャラを返して、ってだけでしょ
眼鏡キャラが途中でコンタクトに変わったら失望する眼鏡男子フェチと一緒」
「ぐうの音も出ない急所突き止めろぉ」
「無駄に理論武装しちゃって、小賢しいんだよ」
「っかー、手厳し」
「そりゃね。私、素直なレイファンの方が好きだから」
「おっと、コレはなかなか歪んだ友情を向けられていますねぇ」
「つまるところ、アプローチして距離が縮まった結果、彼が目隠れ属性じゃなくなったら気持ちが冷めるかもしれなくて心配、って話だよね?」
「露骨な表現は止めてぇ。
自分の最低さと正面から向き合いたくないのぉ」
「オタクきっしょ。創作とリアルの区別ぐらいつけろや」
「しまいにゃ泣くぞ」
「まー、別に?
しょーもない理由で破局するカップルなんか珍しくもないし、好きにすりゃいいんじゃん?」
「とはいえ、相手のあるコトだからねぇ。
あんまり不実な真似もしたくないのよ」
「わぁ、中途半端な良心」
「うるさいやい」
~1ヶ月後~
「はぁー、今日もシオンきゅんが素敵だったぁ」
「観察するだけに飽き足らず、勝手に名前まで調べちゃってんの、このストーカー女。
今後、被告としてニュースになったら、私『いつかやると思ってました』ってコメントしてやるから」
「異議ありぃっ。
名前なんて普通にレポート返却の時とか友達っぽい人に呼ばれてるし、わざわざ調べ上げたわけではないですぅー。
それにそれにぃ、その講義の時間以外で彼の後をつけ回したりもしてないもぉん。
私ってば、まぢ健全な片想いの乙女なんだからねっ」
「そのしゃべり方キモいから止めて」
「うん、ごめん。自分でやっててキモかったわ。
いやぁ、でも、シオンきゅんってば、いっつもすごく真面目に講義受けててさぁ。
教授の雑談まで全部メモ取ってるの可愛くない?
その字もまた綺麗で、読みやすくてさ。多分、彼、すごく賢い人だと思う」
「やっぱストーカーじゃん、こわ。
まぁ、可愛いとかは知らないけど、真面目で字が綺麗なのはいいんじゃないの」
「え、ちょっ、やだぁ。好きにならないでよっ!?」
「ねーよ」
~更に2ヶ月後~
「では、本日の講義はここまで。
来週はレポートを忘れないように。
言うまでもないが、未提出者には単位出せないからな」
(あぁ、また神話文化学あっという間に終わっちゃった。
シオンきゅん、今日も今日とて、えがったなぁ。
思わず五七五調になっちゃう。
夏は男の子らしい筋張った腕が丸出しになっててマジエロ1000%ですよ)
「あの、ちょっと」
「っえ! あ、はいぃっ」
「突然ごめん。
自分じゃ気付いてないかもしれないけど、君、今かなり熱があると思う。
無理せず休んだ方がいいよ」
「へ?」
「種族的な特性で、俺、そういうの分かるんで」
「え、あ、あ、えっと、そ、そうなんだぁー」
「うん。じゃあ、用それだけだから」
「っふぁ、まっ、や、あ、ありがとうっ?」
「ん」
「……………………はッ。
え、え、え、うそ。わ、私、シオンきゅんから話かけられちゃった?
しんじらんない。
えっと、ねつ? 熱あるって言ってた?
いや、え? シオンきゅんと急接近したせいではなく?
少なくとも今の体験で体温0.5度は上昇してますが?
あの御尊顔とセクシーヴォイスを至近距離で浴びたおかげで私の寿命マジで5年は延びたね、もう生ける奇跡だね。
あ、やば、興奮のしすぎで眩暈してきた…………行っとくか、保健室」
「………………はは、ウケる。ガチ熱。
37度9分。やば。帰るべ」
~次の日~
「ユーちゃん聞いてぇ」
「なに」
「ちょっとさぁ、千載一遇のチャンス巡ってきちゃったんで、ラブウォーズ参戦するわ」
「はっ。出た出た、レイファンの卑しい人間性が」
「ふーんだ。いつものことじゃん」
「それはそう」
「こやつめ、ハハハ」
「で、ついに接触するの? 性格の見極めは、もういいの?」
「結局、神話文化学の講義でしか観察できない時点で、ろくに内面なんか分かるワケないんだわ。
でも、熱の件で少なくとも赤の他人の体調を気遣える優しさがあることは判明したし。
とりあえず、飛び込んでみるかと思って」
「ふーん、いてら。骨は拾ってやるよ」
「玉砕覚悟の特攻隊扱いかぁ?
さすがに初っぱな告白とかしないからね。
もっと自然にこう、まずはお礼を口実に声をかけて、連絡先をゲットして、そこから徐々に距離を詰めてく予定だから」
「うわぁ、いやらしい」
「はんっ。どうせ、二つの意味でいやらしいオタク女ですよ」
「開き直った人間って厄介だなぁ」
~6日後、神話文化学講義終了~
「あ、浪天くん、ちょっと待って」
「ん?」
「その、少し話があるんだけど、今大丈夫ですかね?」
「……まぁ。大丈夫、かな」
「シオン。俺、先行ってるなー?」
「あぁ」
「それで、えっと、とりあえず、通行の邪魔にならない場所に移動するね?」
「分かった」
「先日は、熱のこと教えてくれて、ありがとう。
私、角レイファンっていいます」
「うん」
「あの後、すぐに保健室に行って測ってもらったら、38度近くて……いつもより少しボーっとするなぁってぐらいで全然自覚なかったから、ビックリしちゃった。
でも、教えてくれたおかげで下手に重症化もせずに1日で治せて、本当に感謝してるんだ」
「そうか」
「ね、良かったら何かお礼したいんだけど、欲しいものとか、頼みたいこととかある?
私に出来る範囲なんて限られてるけど、とにかく何でも言ってみて?」
「いや、別に……大したことしてないから」
「そんなことないよぉ」
「それに……その、急に俺みたいな得体の知れない奴から話しかけられて、気持ち悪かっただろ」
「あ? それってシオンきゅんをキモがって悲しませたドブゲロが過去に存在してるってコト?
戦争か?」
「え?」
「っあ」
「……シオンきゅん?」
「っああああぁあああーーーー!
ごめんマジごめんごめんなさい本当にキモイのは私です、ごめんなさぁぁぁぁいぃ。
かかかかくなる上は腹を、腹をかっ捌いてお詫びををを」
「待って、落ち着いて。大丈夫。驚いたけど、気にしてない。
カッターしまって」
「はああああ全力で気を遣われているナウぅぅぅ……うっうっ」
「泣かないで。本当に気にしてない」
「ううぅ……は、ハンカチまで……優しい、しゅき」
「しゅき?」
「ほああッ!? ごごごごめんなさい!
いや、あの勝手に、見た目とか雰囲気とか声とかで、いいなって、ソレだけだから、下手に絡んだりとか、基本そういう迷惑を掛けるつもりは毛頭なくてっ、ああでも絶賛大迷惑掛けまくり中だなぁ私オイぃぃ」
「あー、えっと、大丈夫だから。本当」
「……うぅ……すみません」
「少し疑問なんだけど。
さっきの『迷惑を掛けるつもりがない』っていうのは……付き合いたいという気持ちはなくて、アイドル的な遠目に見て満足する存在と思っている、ってこと?」
「ぐっ……あ、あわよくばという気持ちは正直あります」
「あるのか」
「……あります」
「隠さないんだな」
「この状況で誤魔化すのは、さすがに違うなって」
「そうか……どうしようかな」
「どう、とは?」
「あー。それを言う前に、少し俺自身のことを説明させて欲しいんだが」
「え、いいんですかタダでそんな、いや違う、はい、どうぞ、はい、聞きたいです」
「うん。別に、わざわざ正座しなくていいから」
「あっ、あっ、すみません、つい」
「いやまぁ。じゃあ、話すけど……」
「オッス、おなしゃっす」
「えー……俺は、俺自身は眉唾と思っているが、実は母方の遠い先祖にメデューサがいたとかで、それっぽい特性を薄くだけど受け継いでいるんだ」
「めでゅうさ」
「うん、そう。
視線を合わせた状態で念じると軽く相手の体を痺れさせることができたり、ピット器官はないけどボンヤリ熱を感知できたり、ほんの少しだけ髪を好きなように動かせたりする。
最初の能力は特に危険だから、万が一がないように、こうして三つ目の能力で常に目元を隠しつつ、二つ目の能力で周囲を警戒してるんだ」
「はあー……だから、先週の私の熱に気付いたんだねぇ」
「ああ、うん。
というか、以前から、教室に入って来る度に体温を微上昇させてる変な人がいるな、と認識してはいて……原因が俺にあるとは今日まで知らなかったけど」
「ぁオっ」
「っあ、ごめん。少し無神経な発言だったか」
「いえいえいえ、むしろ、こっちが悪いので。
ホント、私、シっ、浪天くんのこと、煩わせまくってて……」
「いや、そんなことはない。
それと、シオンでいいから。多分、そっちの方が呼び慣れてるんだろ」
「おほッ。は、はい、善処しますぅ」
「善処?」
「話を戻すけど、能力の他にも見た目の問題として、こんな感じで……舌の先が二股に分かれてたり、瞳孔が縦に割れてたり」
「エッルルルルルルルルッロぉ」
「え、なんで急に真顔で巻き舌の披露を?」
「んんっ……なんでもないです、続きどうぞ」
「……あ、うん。
それで、まぁ、色々人と違う部分があって、周囲を戸惑わせることも多くて」
「そうなんですか」
「そうなんだ。
だから、その、なんというか……角さんが今の話を聞いた上で、まだ俺を好きだと思えるなら……試しと言っては軽薄だが、付き合ってみるのも、有りかな、と」
「ポウッ!」
「えっ、急にどうした。大丈夫」
「ひゃあ、おったまげたぁ。げ、現実だぁ」
「確認のために倒れる勢いで自分をビンタしたのか?
普通は頬を抓るぐらいにしておくものじゃあ」
「デウス・エクス・マキナもビックリのご都合主義展開でとても信じられなくて」
「色々と壮烈な人だな」
「うぐ……す、すみません、生来の奇行種で……」
「ん。いや、案外見てて楽しいし」
「笑ッ!? はああぁん! ありがたき幸せぇぇ!」
「拝まないで拝まないで」
「さっきの続きだけど、俺はまぁ、こんな不審者じみた外見の男をいいと言ってくれて素直に嬉しかったし、こうして面と向かってしゃべってて、それなりに好感持てたから、もう少しお互いのこと深く知れたらなって思ってる」
「こぉかん」
「角さんは? どうしたい?」
「ど、どう、えと、ええと、私は、その、ハネムーンは国内の温泉地で最低5日以上はのんびりイチャイチャできたらなって、ホテルとかじゃなくて、全室露天つきの一戸建て離れ宿を早めに予約して……あっ、でも、子どもは3年ぐらいはなしで2人きりで暮らしたくて」
「うん、ごめん。そこまでの覚悟はまだない」
「はわッ幻覚道中膝栗毛ぇ! しし失礼しましたッ!
まずは思わずヤらしい目を向けても通報されない恋人の立場がぜひ欲しいですぅぅぅ」
「この人、全然欲望を隠さないな」
「おっふぅ。ごめんなさい、嫌なら全力でっ、全力で控えます、私っ」
「あぁ、いや、分かりやすい方が助かる。多分、俺は鈍い人間だから」
「ひえ何それ可愛い萌えるアンド燃える」
「えっ、あー……そうか。
うん。じゃあ、とにかく、決まりだな。
今後ともよろしく」
「ウヒョオオっ!
よろしくお願い申し上げ仕り奉りござりましゅるゥッ」
「ふふ、何語?」
「はぁう! しゅっきぃぃ」
「やっぱり愉快な人だ」
~同日、放課後~
「どどっ、どどっ、どっしようユーちゃん」
「ぶっちぎりマシン〇ボの入りのテンポで言うじゃん」
「そんなのどうでもいいからっ。
今日、早速シオンきゅんに凸ったんだけど、感情が高ぶってウッカリ好きってポロったら、最終的に付き合うことになった」
「は? 展開早っ」
「私も未だに信じられない。スマホの連絡先だけが唯一の現実の証明」
「あ、ホントだ。さすがに妄想の類じゃなかったか。
目隠れ問題は大丈夫そうなの?」
「他人のこと勝手にベラベラ吹聴したくないからボカすけど、彼の事情的に常に丸出し化は絶対しなさそうだった。
あと、めっちゃ心広くて優しすぎて普通に好感度メーター爆上げしたっていうか限界突破した。
落ち着いた話し方とか控えめな笑顔とか、ちょっとだけ特殊な身体的特徴とか、とにかく全部に心臓ギュンってなった。
これはもう好きとかじゃなくて完全に愛にランクアップしたね、ディープなラブだね。
なんかもう一刻も早く結婚したくて堪らないんだけど、どうしたらいいと思う?」
「へー、ふーん、よかったね。おめでとおめでと」
「うわああん、いかにも適当に流されてるぅぅぅ。
ついでに初デートの約束もしちゃったんだから相談に乗ってよぉぉ」
「サイゼに行け」
「おい、ソレは男女逆の場合の試し行為として有名なヤツだな?
そもそも2人で楽しい時間を過ごしたいだけで、デートで相手を品定めするような卑劣で器の小せえ真似したくもないんだが?」
「じゃ、嘘偽りのない自分の姿ってコトで推しキャラが中心部にでっかくプリントされたTシャツでも着ていきなよ」
「バカバカ、TPOぐらい普通に弁えさせてよ。
シオンきゅんまで恥かくじゃんか」
「レイファンはそもそも存在自体が恥みたいなモンでしょ」
「ちゃんと普段は擬態してるやい、ユーちゃんの意地悪ぅ」
~週末、初デート当日~
「え、やば。こんな素敵な人が私の彼氏?
うそ、やば。前世の私、徳つみすぎ。
見た目がとにかく完璧すぎる。好きすぎる。脳みそ爆発しそう」
「角さんの目には、俺がどう映っているんだ……」
「へへっ。こうやって立って隣に並ぶと、本当に背が高いねぇ。
私も結構高い方なのに、シオンくんの肩にも届いてないよ。
男の人なんだって意識しちゃって、とってもドキドキする」
「そうかな。よく都市伝説系の怪異みたいで不気味だって言われるんだけど」
「へぇー…………誰に?」
「……不穏だから内緒」
「ちぇっ。
あっ、全身黒コーデもすごく似合ってていいねっ」
「あぁ、いや。俺、体温が低くて、単に黒が一番光の熱を吸収するから」
「ふえぇ何ソレぇ私があっためたげりゅううううっ」
「うん。気持ちだけ受け取っておく」
「でも、あんまり体のラインが出る服だと、私自身がついエロい目で見ちゃうのと、艶めかしすぎてモブおじさんに攫われるんじゃないかってハラハラしちゃって、あんまり落ち着かなくて困るなぁ」
「ちょっと何を言っているか分からない」
「えー、シオンくんってお姉さんいるんだぁ」
「あぁ。俺と違って華やかな人だよ」
「むむっ。シオンくんだって雅やかだよっ」
「……えっと、ありがとう?
そういえば、先日の夜中、姉の命令でコンビニにアイスを買いに行かされて……その帰り道に警察官から職務質問を受けたな」
「は? なにソイツ。シオンくん職質するなんてフザケてる」
「いや、俺はいつも黒い服ばかり着ているし、目元も隠れていて怪しいから」
「はあーん?
どっちも理由あってのことじゃない。
これ以上ない善良な市民を軽々しく疑ってかかるなんて、目ん玉腐ってんのかな?」
「相手はそれが仕事だし、夜中だったから警戒も強まっていたんだろう。
怒るようなことじゃない」
「……まぁ、シオンくんが納得してるならカチコミまではしないけどぉ。
あーあ。その場に私がいれば、勧進帳の弁慶より上手く役に立ってみせたのに」
「自負がすごい」
「じゃあ、今度、同じようなことあったら呼んでね。
秒で駆けつけるから」
「そんな理由で呼びつけるのは、単に利用してるみたいで嫌だ。
あと、女性を夜中に外出させるのも、普通に人としてどうかと思う」
「んんっ。今、推しの解釈一致ヤッターダンスを踊るオタク心と恋人の役に立てない悲しみの彼女心がお互いにラリアットを繰り出しぶつかり合った衝撃で私という本体がクラクラして倒れそうになっています」
「よく分からないが、難儀だな」
~3回目のデート終盤~
「あの……角さん、あまり俺のことで憤らなくていい。
例えば、さっきすれ違った女性が俺を見て微妙に顔を歪めて不自然に距離を取った時とか。
あれ、止めなかったら、本当にケンカを売りに行っていただろう」
「まあ鬼の血筋なので闘争心も武力もそれなりですが。
でも、本気で戦うのは、どうしても譲れない何かがある時だけだよ。
私、強火担……いや、大事な恋人に不当な態度取られちゃうと、さすがに冷静でいられないっていうか」
「気持ちは嬉しいけど……弱ったな。
ああいう手合いは実際珍しくないし」
「お?」
「ああ、また……。
ううん、いや、分かった。
じゃあ、その、ちょっと今から、かなり恥ずかしいことを言うんだが」
「えっ恥ずかしいコト言うシオンくん!?
何その激熱ウルトラレア萌シチュやっば」
「あー、だから、ええと……他人に意識を割く余裕があったら、もっと、俺だけに集中して欲しいというか、俺だけを見て、俺だけの声を聞いて、俺のことだけを考えていたらいいんじゃないかな……なんて」
「…………」
「……さすがに無理があるか」
「…………」
「角さん?」
「ゴメンナサイ私が間違ってました」
「え?」
「そうだその通りだよ私もっと全力でシオンくんだけに向き合うべきだった世の有象無象より愛するシオンくんを優先するのは当然の理だったよね私バカな女でした本当にゴメンねシオンくん許してなんて言えないよねでももう覚えたもう二度と間違えないそんな愚かな真似はしない彼女としてううん人生最高のパートナーとして私これからもっともっと頑張るからシオンくん私のこと見捨てないでまだ恋人でいてくれる?」
「う、うん」
「ありがとう! 優しい! しゅき!」
「あぁ…………俺は思ったよりスゴイ人と付き合っているのかもしれない」
「ええー? なにソレぇ? うふふ」
~更に3ヶ月後~
「はい、シオンくん。質問があります」
「どうぞ」
「一応、私たち恋人同士なのに、まだ手を繋ぐとか腕を組む程度しかやったことがないのは、おかしいと思います。
もっと、恋仲らしい濃厚なイチャイチャがしたい場合、どうしたらいいですか」
「いつもながら直球に来るな。
うーん、恋仲らしい…………よしよし、レイファン。可愛い可愛い」
「ふにゃああ」
「おお、溶けた」
「ってコレはコレで嬉しいし幸せだし満たされるけど違うぅ!」
「戻った」
「くっ、ちょっと残念そうなのズルい可愛すぎていくらでも続けて下さいという気持ちになってしまう」
「よしよし」
「ふにゃああ……って、何か誤魔化されてる気がするんですがシオンくん」
「よしよし」
「ふにゃああ」
「何度でも効くの可愛いな、レイファン」
「ひんッ言葉と笑顔も同時なのダメぇぇ」
「ふにゃふにゃふにゃ」
「レイファンが何を望んでいるか分かってるつもりだけど、ソッチ方面はまた少し特殊な事情があって、先に進むには俺の方の覚悟が必要だから、悪いけどまだ待っていて欲しい」
「ふぁい」
「うん。ありがとう。
言って貰ってばかりだけど、俺もレイファンのことはちゃんと好きだからな」
「はあうっ!」
「え、急にどうした。
胸元掴んでうずくまって……苦しいのか?」
「ぐぅ……と、トキメキすぎて心臓が瞬間強圧縮されただけなので、お気になさらず、というか、そんな優しく背中をさすられると悪化しちゃうかららめぇぇ」
「あ、ごめん……?」
「ああでも待って止めないで苦しくても構わないから触れられていたいのおぉ」
「難しいな」
~それから2回目の自宅デート中~
「はいはい、シオンくん。質問がありまぁす」
「どうぞ」
「濃厚じゃない程度の接触として、膝枕はセーフですかアウトですか」
「………………まあ、セーフ、かな」
「ッしゃあああ!」
「力強いガッツポーズだ」
「じゃあ、早速! 早速やりたいです!」
「分かった」
「フォオオオ!」
「する方? される方?」
「えっ。あ……………………り、両方は欲張りかな」
「なら、時間を決めて交代でやるか」
「ハヒーッ、こっ、興奮してきたぁっ」
「ああ、ここがパライソか」
「静かに泣きながら合掌している」
「幸せすぎて昇天しそう」
「ソレは本気で困るな」
「……あの、私の言うこと全部に真面目に反応くれるのメチャクチャ愛おしいけど、基本、オタク特有の大げさな表現なので、軽く聞き流してくれて大丈夫です」
「そうなのか」
「ごめんなさい嘘つきました常に8割以上本気です、だからちょっぴり寂しそうな雰囲気漂わせるの止めてもろて」
「……ろくに表情も見えないだろうに、毎度よく分かるな」
「えっ。うーん、いつもシオンくんのことばっかり考えてるからかな、なぁんて」
「そうなのか」
「あ、ちょっと嬉しそうになった可愛いしゅき」
「レイファンも可愛い。好きだ」
「いギィッ!
し、し、心臓がっ、心臓が保たないよぉ!」
「いつか本当に死にそうで怖い」
「あっ、ごめんなさい。
鬼の血を引いてる女はものすごく頑丈なので、どうか安心していただきたく」
「そうか…………できれば、元気に長生きしてくれ」
「ふあっ!? プロポーズ!?」
「違う」
「ですよね」
~そんなこんなで数年後~
「結婚おめでとー、レイファン。
白無垢めっちゃ似合ってんじゃーん」
「ありがとー、ユーちゃん。
ついにここまで来れたよぉー」
「アンタかなり最初からずっと結婚したいしたいって、本当バカみたいに言ってたもんね」
「ええ、ええ、誠に長うございました。
そうだ、最初と言えば、シオンくんってば私が告った時にうっかりポロリした妄想を覚えててくれたみたいでさー。
新婚旅行は湯布院の高級温泉宿に10日間だよ。
堪りませんなあー、ウホホっ」
「キモい」
「浮かれ花嫁一刀両断!?」
「あ、そういや結局、レイファンがずっとお預けくらってたソッチの事情ってなんだったワケ?」
「っあ……えー、そのぉ、んー、ぬ、抜かずの数十時間、的な……いやでもソレだけじゃなくて、いざという時に責任取れるように就職決まるまではって、そういうちゃんとした考えもあってのコトで」
「うげキッツ。アンタ鬼系女子で良かったじゃん」
「まあ、うん、まぁ。
でも、まだ加減してるっぽいから、もっと体力つける予定なんだ。
ちゃんと満足してもらいたいもん」
「ほおーん。尽くしますねぇー、レイファンさん」
「ふっ、愛が私をどこまでだって強くするのさ」
「うざっ、友達やめます」
「そりゃないよユーノさん」
~初夜前~
「今日は前髪を上げていても構わないか。
俺の伴侶になってくれたレイファンを、この目でしっかり見ていたいから」
「うん……へへ。私も今日はシオンくんと、多少痺れても構わないから、ずっと見つめ合ってたいな」
「そうか。
……ありがとう、こんな面倒な体質の冴えない男をいつも笑って受け入れてくれて。
俺の全部をレイファンが肯定してくれるから、ようやく少し自分を好きになれたし、人としての自信もついたんだ。
希望してた職種に就けたのだって、きっとそのお陰だ。
本当に感謝してる」
「やだぁ、逆だよぉ。
シオンくんだけだもん。
こんな、重たくて直情的で変態で、とにかく面倒な性格の青鬼譜系の女を、いつも可愛いって受け入れてくれるのはさ。
だから、私、いつでも、なんだって出来るって、そんなムテキの気分でいられるの。
シオンくん、ホントに好き……大好き……」
「うん。俺も、愛してる」
おしまい。