今日は外で食べない?
主婦語研究の第一人者たんばりん博士(♂)による主婦語解説
私の研究室へようこそ。
かねてより研究していた主婦語についてある程度の研究結果がまとまったので、男性諸君の平和な家庭生活維持のために、その研究結果をここに公表することにした。
主婦語、つまり主に主婦によって語られる言語には、男性諸君には到底及びもつかない「真の意味」が隠されており、そのことを理解しなければ家庭の平和は訪れないということは重々理解しておかねばならない。
まず初めに言っておくが、私は男である。
男なんかに主婦語が分かってたまるか、と言う淑女の皆さんの怒りはもっともである。あるいは「オネエ」なのではないかという疑いをもたれてしまいかねないが、断じて違うことだけはここに明記しておこう。
ではなぜ私に主婦語が理解できるのか。
私は長らく「兼業主夫」を営んでおり、勤労の義務を果たしながら、世の中の主婦が行っている労働は全て経験しているのである。食事であれば昼を除く1週間14食の内12食は私が用意するし、掃除、洗濯、排水溝のゴミとり、包丁研ぎ、ごみの分別とゴミ出し、そして妻の鉢植えの水やりまでが私の仕事だ。
まだまだあるぞ。おそらく諸君が聞けば「マジで?」と引いてしまうようなことまで私は行っている。軽いところで言えば、出張に行く前にはカレーの作り置きをしたり、出張先からモーニングコールをかけたり……。
重いものは言わないでおこう、心が折れてしまうから。
泣いてなんかない。
くっ……。
ではその間、愛する妻はいったい何をしているというのだろう。ズバリ仕事だ。妻の仕事は激務であり拘束時間も長い。家に帰るころには疲れ切っていることが多く、たまに仕事が早く終わると、家のヨギボでダメ人間になっている姿を観測することができる。妻は料理が得意ではないこともあり(私だって好きではないのだが)自然、食事の準備は私がすることになるのだ。
とはいえ私にも残業はあり、疲れ果てて家に帰った時に、有給休暇だった妻がヨギボの上でダメ人間になっている姿を見ると(そしてあろうことか「今日のご飯なに~?」とか言われると)さすがの私もイラっとくることは否めない。
お・ま・え・が・や・れ・よ!
そう、私は「主婦の気持ちが分かる夫選手権」があったなら間違いなく上位入賞するであろう(場合によってはオリンピック出場も夢ではない)男なのだ。
ご理解いただけたところで今日の研究テーマを発表しよう。
「今日は外で食べない?」
主婦が夫を外食に誘うシーンで用いられる言葉だ。言葉だけを捉えればデートのお誘いかとも思ってしまいがちだが、この普遍性にこそ主婦語の恐ろしさが潜んでいる。
ある時の私は残業続きで「もう食事なんかいらないから横になりたい」と思いながらも、まだ働いている妻のために食事の用意をし続けていたのだった。共働きの我が家では日曜日に1週間分の食材を買い込んでおり、それを余らせないためにも毎日の自炊は不可欠なのだ。だが、日1日と疲労は蓄積されていく。そして日曜日、もうどうにも食事の準備がイヤになった私はこう切り出したのだった。
「今日は外で食べない?」
妻は何でもないことのように答える。
「いいよ家で」
い・い・よ・家・で・?
その食事は誰が作ると思っていやがる!
思えば子供のころの私は家での食事が大好きで、出かけて外で食事をするより家で食事をしたい子供だった。さらには外で食事をしても、家に帰るとお茶漬けを食べたいと言い出すような子供だった。ああ、今更ながら母に謝罪したい。
まとめよう。
*****今日の主婦語*****
【今日は外で食べない?】
主婦の疲労ゲージがMAXになった時に飛び出す主婦語。
1 疲れちゃったよぉ 食事なんか作りたくないよぉ
2 休みたい ヨギボで思う存分ダメ人間になりたい
3 もう何にもしたくない 全部あなたがやってよね
軽く考え放置すると家庭崩壊を招きかねず、早急な対処が必要とされる恐ろしい主婦語である。
【模範解答】
いつも食事を作ってくれてありがとう、いつものお礼に今日は君の好きなパスタでも食べに行こうか、君の料理に比べると数段落ちるけど。
注)食後のスイーツが選べる店に行くこと。
*****××××××*****
だがしかし、これはあくまで対症療法に過ぎず、本来は「聞いた時点で負け」なセリフであることは理解しておかねばならない。
男性諸君、正しく主婦語を理解し、平和な家庭環境を育んでくれたまえ。
ではまたこの研究室で会える日を楽しみにしている。
いろいろ書いたが私は妻を愛している。
「真実の愛」は物語の中にだけあるのではない。
ふとした言葉でその大切なものを失くしてしまわないようにしなければならないと、日々心掛けている。