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道場街を見て回る


「別に怒ってないですよ。ヤルゼさんが演技してるみたいでしたので、演技で返しただけです」

「本当かぁ。ホントかなぁ」

「疑り深いですね」


 パーティ名を変更して道場街へワープしてきた。


「ここの案内お願いしますよ」

「ん・・・まあちゃっちゃと行くか。ここの説明だな」

「なんか塀に囲まれた建物が多いですね」

「道場街だからな。ここら一帯が心刀使いが技を覚えることのできる道場なんだよ。塀の内側は道場があるわけだ」

「道場の街ってわけですか」

「そういう事だ」


 クリスタルの周りは木の塀に囲まれた場所だった。

 道はあるがすぐその先も気の塀で、方向感覚がなくなりそうな所だ。


「なんか、迷路の中みたいですね。ここが中心部とかなんですか」

「迷路見たいというか迷路その物みたいな場所だよここは。奥に行くと今でも迷うぞ」

「え、大丈夫なんですか」


 心配になる発言なのだが・・・


「心配すんな。クリスタルの周りは他のプレイヤーも通う、有名処がそろってるからそこだけ案内するつもりだ」

「それなら安心ですね」

「まずあそこから行くぞ」


 ヤルゼさんが指さした所に塀の切れ目が見えた。

 どうやら道場の入り口の様だ。


「近いですね」

「近場だけ回って次に行く予定だからな。二軒くらいだ」

「他にも教えて貰える所があると」

「時間あるならな」


 言いながらヤルゼさんが道場の門をくぐり中に入っていく。

 僕も続いて中に入った。


「すんませーん。見学しに来たんですがー。いいですかー?」


 玄関先で大きな声でヤルゼさんが呼びかける。

 すぐに「はーい」と返事が返ってきて、小走りに道場着を着た男性が現れた。


「お待たせしました。ご見学ですか?」

「そうです。いいですか」

「もちろん。案内しますので履物を脱いで上がってください」


 言われた通りに履き物を脱いでふと気づく。

 草鞋を履いていることに今さら気がついた。


「草鞋はアイテムボックスに入れとけよ。取られるぞ」

「え、あ、はい」


 そのまま置いて行こうとした所、ヤルゼさんにそう言われた。

 確かにアイテムボックスに入れとけば汚れることもなさそうだし安全だ。


「ゲームだっていうこと忘れてましたよ」

「なー。みんな初めたては置いていって盗まれてたぞ」

「そうなんですか」


 案内の男性の後ろをついて歩きながらヤルゼさんが話し始めた。


「初期の頃は道場で技が覚えられるとわかって、クリスタル周りの道場はごった返しになったからな。帰りに裸足で帰るプレイヤーが何人もいた」

「盗んでいくプレイヤーが多かったんですね」

「いや、どっちかと言うとNPCの近所の悪ガキだな」

「えっ、そうなんですか」


 プレイヤーじゃなくてNPCが盗んでいたと。


「小遣い稼ぎだな。二束三文にしかならないがプレイヤーの初期装備だったからな。ちょっとだけ色を付けて買い取ってもらったとか言ってたぞ」

「言ってたって・・・」

「俺も盗まれたからな。腹が立ったから通報して、犯人探し出して直接聞いてみたわけよ。プレイヤーじゃなかったのは驚きだったがな」

「なんというか・・・治安悪いんですかね」

「ガキの遊びだよ。暇だったからやった、みたいな適当な理由だ。ここら辺は治安いいらしいぞ」


 今の話を聞く限りだとそうは思えないのだが・・・

 返答を考えていた所で、案内の人がこちらに振り返った。

 どうやら着いたようだ。


「こちらが道場になります。申し訳ありませんが見学の方はあちらの隅でお座りください。足は楽にしていただいて構いません」

「わかりました。案内有り難うございます」

「どうもです」


 言われた場所に座る。

 道場の全体は長方形の形をしており、横に長い印象を受けた。

 その長く横に伸びた部分で門下生たちが走って道場を往復していた。


「あれは何をしてるんですか」

「足腰を鍛えてるんだよ」


 気になって尋ねるとそのままの答えが返ってきた。


「それは見てわかるんですが・・・」

「技を覚える下準備だ」

「下準備?」

「ここの道場で最初に教えて貰える技は足を使った技なんだ」

「はあ」

「師範が出てきたぞ」


 見ると門下生たちは走るのをやめて左側に集まっていた。

 黒い胴着を着た五十歳位の師範と言われた男性が道場の中心に歩いていく。

 その横で先ほど案内してくれた男性が、巻き藁をその師範の隣に設置した。


「今日は見学の方も来ているので、今一度、技を見せておきます」


 師範は巻き藁から五歩ほど離れ、腰の刀を抜いた。

 切っ先を巻き藁に向け、腰を低くして構える。


「遠いですね」


 明らかに巻き藁との距離が遠い。

 踏み込んでも届きそうに見えなかった。


「まあ見てろ」


 こっちは見なくていいと、ヤルゼさんが師範を顎でさして視線を誘導する。

 師範を見た。

 こっちの会話が聞こえたのか、うっすらと笑みが見えた。

 その笑みが引き締まり、師範が踏み込む。


 ぞすっ。

 

 一瞬で距離が縮まり、巻き藁の中心を師範が突き出した刀が貫いて音が鳴った。


「ほう!」


 思わず声が漏れた。

 現実ではありえない速さと距離だった。


「『縮地』だ」


 ヤルゼさんの解説が聞こえる。


「距離の離れた場所に一瞬で移動する歩行技だ。ここでプレイヤーに教えて貰える技はこれ一個だけだが、見た通り面白い技だろ」

「一個だけなんですか」

「理由は知らんが、プレイヤーに教える技は道場一つにつき一個だけらしい」

「そうなんですか」

「一個だけだから覚えたら次の道場で他の技覚えるって感じに回って行けばいいと思うぜ」

「なるほど」


 納得したところでいきなり前から風が吹いた。


「いえ、そんな事はありませんよ」

「うおっ」


 今の今まで道場の中心にいた師範が、縮地で移動してきたのか目の前に立っていた。

 五歩どころか十歩以上離れた場所からだ。

 ぎょっとして座りながら体が反り返る。


「他の道場を回り色々と技を覚えることも強くなる方法として間違ってはいませんが、一つの道場に通い続けて技の錬度を上げる事も、強くなる上で間違ってはいない方法だと私は思いますよ」


 穏やかな口調で師範が語る。


「あー師範、こんちゃっす。相変わらず茶目っ気あるおっちゃんですね」


 ヤルゼさんが気軽な感じに師範に挨拶した。

 気にせず師範は話を続けた。


「あなたたちプレイヤーは覚えるのが早いからと、直ぐに他の道場に行ってしまう。確かに他の道場に行き、新しい技を覚えるのは楽しい事でしょう。しかしそれでは本当の意味で技を使えるようになったとは言い難い。出来れば通う道場主のお墨付きを頂いてから次の道場を探して欲しいのです」

「いや・・・俺に言われても、どうにも・・・」


 返答に困ってか、ヤルゼさんは座りながら頭をかいた。


「もう一度ここに通ってみてはいかがですかヤルゼ君。君は縮地の習得も早かったし、完全にものにするのにも時間はかからないと思いますよ」

「いや、道場に来なくなってからも使ってますから上達はしてますよ。それに今はやる事があるので──」


 そういって僕の方を向いた。


「こいつです」


 こいつって・・・


「この世界に来たばかりのプレイヤーでして、今この国の色々な場所を案内してる最中なんですよ」

「なるほど、そうなんですか」


 師範がこちらに目を向ける。

 穏やかな声と表情だが、目だけがやたらと怖かった。

 とりあえずえへへと笑って目をそらす。


「こいつも時間ないみたいですから、今日はこの辺りで失礼させて頂きますっ。おい、行くぞ」

「えっと──」


 時間ならありますよ、と言おうか少し迷ったが、別にここに留まりたい訳でもなかったので言わなかった。


「ここの道場に通うにはどうすればいいんですか」


 代わりに尋ねたいことがあったので聞いておくことにする。


「初めて通う場合は料金お支払い後に、一か月間ここの道場に通える『券』をお渡しいたします。それ以降も通い続ける場合は一週間通える『券』をお渡しする事になります。料金は同額です」

「おいくらですか」

「百kだよ」


 師範の代わりにヤルゼさんが答えた。


「百ケー?」

「あれ通じないか。わかりやすく言うと十万だ」

「十万Cですか・・・」


 一円が一Cくらいと言ってたから十万円か。

 うん、高い。今は無理だな。


「お金溜まったら通いに来たいと思います」

「ヤルゼ君に貸してもらうという手もあると思いますが」


 ちらりとヤルゼさんを見て師範が言った。


「そんな手はねえ。行くぞコハマル」

「はい」


 立ち上がり、足早に道場を出ていくヤルゼさん。


「今日はありがとう御座いました」

「暇でしたらまた見学に来てください」


 師範に見送られて、僕はヤルゼさんの後を追って、道場を後にした。

 外に出て、少し歩いたところでヤルゼさんが待っていてくれた。


「お待たせしました」

「おーう・・・いやーホント、あのおっちゃんには参るよ」

「苦手なんですか」

「苦手っていうか、会うたびにまた通わないかって聞いてくるんだよな。ビギナーの案内で数日ごとにあってるからよ」


 ふぅ、とため息を吐いてこちらを見る。


「けど、道場で覚える技は使える技だからな。一番最初に通うならまずあそこがいいぞ」

「それは良くわかりました」

「よし、次の道場は──」

「その前に一ついいですか」


 さっきの道場でのやり取りで気になる事があった。


「この世界の『プレイヤーとNPC』の関係について教えて欲しいんですが」

「ああ、それね。何から聞きたい」

「NPCはプレイヤーをどういったものだと見てるんですか」

「簡単に言ってしまえば異世界人だな。クリスタルを通してこちらの世界に来た異世界の種族って感じだ。ちなみにNPC、こちらの住人にNPCと言っても別に問題にはならない」

「そうなんですか」

「『プレイヤーじゃない人』という意味合いでNPCという言葉をとらえている用だな」

「プレイヤーとNPCの間で問題が起こってたりしますか」

「特に聞かないが、個人個人での問題は起こってたりしてるかもな。話のネタとして掲示板に載ってたりする程度の軽いものはあるな」

「プレイヤーがNPCをその、殺して・・・とかで、大問題になったり・・・」


 他のダイブゲームでそういった問題があったという話は、とーちゃんから聞いた事があった。

 そういった殺伐としたことがこのゲームでも起こっているかもしれないと思って聞いてみた。


「ないぞ」


 あっさりした返答だった。

 少しの間、ぽかん、としてしまった。


「まあ結構よくある話だよな。死んだら復活しないNPCを殺して住人ともめごとが起こるとか。ネットニュースとかでも取り上げられたりしてるしな」

「ですよね・・・でも、この世界ではないと」

「まあ恨み恨まれはあるだろうが、そこまで深刻ではない。ちゃんと罰則も課されてプレイヤーなら牢屋に閉じ込められるしな。結構な期間閉じ込められるらしいから再犯は少ないんじゃないかな」

「え・・・それって」


 ちょっと、言ってることが違う様な・・・


「俺たち死んだら復活するじゃん。リスポーンして」


 ヤルゼさんがいきなり違う話を始めた。


「はあ・・・まだ死んだことないですけど、そうらしいですね」

「NPCもするんよ、リスポーン」

「は・・・?」

「この世界だとプレイヤーじゃないNPCも、死んだら復活します」

「・・・・・・」


 思わず絶句する。

 この世界、どういう世界観で出来てるの?


ここまでお読みいただき有り難う御座います。


道場街を回ると書いておいて一軒しか回れませんでした。

次にもう一軒書きます。

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