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タカサ師範って人は・・・


「売れる・・・?」

「はい。やってて楽しいですし、プレイヤーにも受けると思うんです」


 時間を忘れてやっているのは間違いない話だ。

 ただ僕の場合、集中してる時はだいたい時間を忘れてやってる感じだから説得力は無いけども・・・

 それにこのバルーンビスケットには売れる要因もある。


「技ではないですが、心刀技術も覚えられますし、心刀使いには間違いなく売れると思います」


 『特』前方対峙歩行術ロックオンステップという心刀技術も覚えられる所もこのバルーンビスケットが売れると思っている所以である。


「売れるって、言うけど・・・誰が売るの?」

「それは知り合いに頼んであります。正確には知り合いの知り合いですが」


 ダンジョンの時に、ゼニキンさんが知り合いに頼んでみると言ってくれている。

 あの時話せて良かった。

 まあ、問題が一つ残っているけど・・・・・・


「それでですね師範」

「はい」

「バルーンビスケットを作った人・・・魔女の人でしたっけ」

「そうだけど・・・」

「その人にこれを売ってもいいかの許可を貰ってきてくれませんか」

「・・・・・・」


 売る事になったとしても、流石に貰い物であるバルーンビスケットを何も言わずに売るのはダメな気がする。

 それはタカサ師範も思っていた事だった様だ。


「うちの道場の為に作ってくれた物を売るって言うのは・・・・・・うーん」

「タカサ師範、それなんですけど、もしかしたら売る事を前提で作ってくれた物って事はありませんか?」

「売る事を前提で?」

「はい。確認なんですけど、これを貰った当時、タカサ師範の親父さんが道場をやっていた訳ですよね」

「そうだね」

「その時の門下生ってどんくらい居たんです?」

「・・・多くて二~三十人くらいかな?」

「だとしたら、バルーンビスケット作りすぎじゃないですか? 物置にまだ大量にありますよね」

「まあ、百個以上はある・・・・・・もしかしたら二百個近いかも」

「道場がこんな感じに廃れて借金までする状況をその魔女の人が予想してたとかありませんか? 魔女ですし未来を見ることが出来るとか」

「・・・・・・わからない、かなぁ」

「まあ、そうですよね・・・」


 まあ、僕もこれについては当てずっぽうでしかないからなぁ。


「何にしても近々、その魔女の人に会って確かめて下さい。お金に困っているのでバルーンビスケットを売ってもいいですかって」

「・・・・・・それは、言い辛いなぁ」


 まあ、わかるけども・・・・・・


「当時、今のこの道場の状況を予見していたかを先に尋ねてみればいいんですよ。借金とかする未来が見えたから、売って貰うために一杯作ったって話になったら売る許可を貰いましょう」

「うーん・・・・・・」

「早めの方が良いでしょうし、明日にはその人に会いに行ってください」

「ううーん・・・・・・」


 腕を組んで唸りながら、タカサ師範は道場を出て行った。

 お金が稼げると言う話ではあるんだけど、乗り気ではない感じだな。

 小さい頃の知り合った魔女の人が、自分の為に作ってくれた物を売るって言うのは、気が引ける事ってのは良くわかる。

 とにかく聞いて見ない事には始まらないよなぁ・・・・・・


「・・・・・・とりあえず今日はこの辺にしておくか」


 何となく、鍛錬する気持ちもなくなって来たので、今日はログアウトする事にした。




 次の日のログイン。

 ゼニキンさんからメールが来ていた。

 商人の知り合いにバルーンビスケットの話をしたとの事。

 概ね問題なく、こっちの準備が済み次第、販売可能だという内容だった。

 それと、その商人の人と一度会って欲しいとの事だった。

 売る時の値段とかの相談もあるのであって欲しいらしい。

 バルーンビスケット自体も見てみたいとの事だ。


「・・・・・・送信っと」


 とりあえず、会うのは直ぐできると言う事と、売るのはこっちの準備が出来てからでお願いします、と返信しておいた。

 これの返信が帰ってきたら、直ぐに会う事になるかもしれないな。

 今はログアウトした道場の前にいる。

 確認のためにタカサ師範に会っておく必要があるか。

 今いるだろうか・・・


「タカサ師範ー」


 呼びかけながら中へと入る。


「居ますかー?」

「・・・・・・いるよー」


 今日はいるみたいだ。

 声からして道場の方か。


「入りますよー」

「どーぞ」


 許可を貰いながら道場へと入って行く。


「・・・・・・何してるんですか?」


 タカサ師範は地面に寝転がっていた。

 来ている胴着が汚れちゃいますよここだと・・・


「色々と考えててね。私はね、道場で考えるのが一番落ち着くんだ」

「座る所もあるんですから、そっち座ればいいのでは」

「地面の冷たさが脳を活性化させてくれるんだよ」

「そうですか・・・・・・」


 正直、どうでもいいな。


「それで、お話はしてきたんですか?」

「・・・・・・」


 この様子だと、やっぱり・・・・・・


「行ってないんですね」

「・・・・・・行ってない」

「タカサ師範!」

「コハマル君、一緒に行こうよ」

「はい?」

「踏ん切りがつかないんだよ。だから頼むよ、コハマル君!」

「・・・・・・僕が行く意味がないと思うんですが?」

「・・・心細いし」


 夜中にトイレに行けない子供みたいなことを・・・


「・・・・・・わかりました」


 乗りたい訳じゃないけど、乗り掛かった舟って奴なのかなぁこれは・・・


「一緒に行きますから」

「ありがとうコハマル君!」


 嬉しそうに笑みを見せるタカサ師範。


「では、今から行きましょう」

「えっ! 今から?」

「早い方が良いですよ。早く返したいでしょ、借金」

「それはそうだけど・・・・・・」

「今行かないとまた明日とかになっちゃいますよ」

「ちょ、ちょっと待ってってば」

「待ちません」


 言いながら手を引いて道場の外へと出る。


「それで場所は何処なんですか?」

「魔女の町・・・・・・って言ってもわからないか」

「あそこですか・・・・・・」


 前にクエストで寄った事がある場所だ。

 魔女に化かされて僕も借金したんだったなぁ。


「え、知ってたの? 意外だなぁ」

「場所知ってるだけですけどね。少し遠めですから走って行きますよ」

「う、うん・・・・・・」


 なんでかキャラが違う感じのタカサ師範を連れて、僕たちはジダイの西側出口へと向かった。

 

 

ここまでお読みいただき有り難う御座います。


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